「キッズ訴訟」全記録Ⅱ②R4サマーレビュー
キッズ事業は中堅職員研修において、本市職員が企画・立案した内容が優秀賞を受賞したのが始まりでした。
このことは大いに評価したいと思います。
研修のレポートには、東洋大学客員教授である講師からのコメントが寄せられています。
東北自治88号(全記録②)をご参照ください。
そこには、こう書かれています。
政策立案にあたって重要なことは、課題の発見と原因を把握することにあります。
本研修では、(略)一人では気づかない視点、多様で柔軟な発想、議論を通じての分析と政策作成へ昇華できることを期待していました。
提案の「名取スーパーキッズ育成支援事業」(略)で、評価できる点は以下の三つとなります。
一つ目は、(略)データや資料から的確に問題分析図絵を作成でき、(略)労働力の減少による企業・商店の撤退、税収の減少につながることを明確化しました。
二つ目には、今回の研修の目玉である先進的自治体視察で(略)学び、そこからエッジの聞いた(ママ)発想へと展開できたことです。
三つ目には、(略)実現性が高い提案となりました。
要約すると、①データ収集分析、②学ぶ姿勢、③実現可能性の3点が評価されたということです。
ここで注意すべきは、名取市の課題について把握していることを評価してはいるものの、事業実施によって効果があるとまでは評価していないことです。
あくまで人材育成のための研修ですから、他自治体の職員と協力する過程で自らの資質・能力を高めることを主眼とし、政策の効果の程度まで問わないのは当然であると言えます。
そのことは、同じ『東北自治88号』に研修レポートとして掲載された第9回主任級職員研修が「けせんぬマッチョで地域経済活性化~最高な=廃 High 校にさぁ行こう!~」という、笑いを取るようなテーマ設定になっていることからも、明らかなのです。
だから、優秀賞受賞に対し「おめでとう、優秀な成績を上げたことを喜ばしく思う。研修から得た経験を本市の福祉増進に向けて政策立案に生かしてほしい」と栄誉を称えるにとどめるべきであったのに、「これは使える。事業化しよう!」という方向へ進んでしまったのは、普通ならあり得ないことではないかと思います。
事業化は「令和4年度サマーレビュー」により決定したと思われます。
サマーレビューとは、市が実施または実施を検討すべき重要施策について、上司の指示、判断を仰ぐべき内容等について必要な報告を行い、方向性を整理することを目的に行われる、庁内での提案の機会です。
毎年7月の中旬頃に行われています。
なお、議員はこうした市役所組織の年間スケジュールを全て把握してはいません。
令和4年度サマーレビューにおいて、キッズ事業はどのように提案され、どう評価されたのでしょうか。
企画部のサマーレビューは7月20日の午後2時30分から午後3時15分まで行われたことが分かります。
企画部なとりの魅力創生課は、なとりスーパーキッズ育成プロジェクトについて、以下のように提案しました。
現状・課題等
サイクルスポーツセンターを活用して、全国から自転車競技とスケートボード競技のアスリートを目指しているキッズ(小学生)を募集し、移住してもらい育成プログラムに参加してもらう事業。ーーーーーーー。
課題① 育成種目が決まっていない
課題② 財源内訳が決まっていない
課題③ 補助金の創設
課題④ 持続可能な運営体制の構築
部内の検討経過及び考え方等
課題① スケートボードはーーーーーーーコーチの派遣など協力できる部分はある。自転車競技(ロード)は、宮城県自転車競技連盟の役員は本職があり毎日コーチとして指導することはできないが、(略)前向きに協力する。ただし、中学卒業後の進路の道筋も定めておいたほうが手を挙げる子は多くなるという意見がありーーーーーーー。以上を踏まえると、宮城県自転車競技連盟については、指導者の派遣について不確定要素はあるものの、両社(ママ)から協力に前向きな意見があること、財源について一般財源の軽減が見えてきたことを踏まえ、両競技を導入する方向で進めたい。
課題② 総事業費42,391千円。国庫補助(地方創生推進交付金)21,195千円、企業版ふるさと納税10,000千円、特別交付税5,598千円、一般財源5,598千円。その他、クラウドファンディングの実施やスポンサー収入を見込む。-------※事業費は今後変更の可能性あり。
課題③ 本プロジェクトの中で遠征旅費も大きなウエイトを占めている。このことから、全額公費で負担するのではなく、一部保護者負担を求めることとし、遠征旅費の1/2(上限300千円)を補助する方向で進めたい。
課題④ 現時点においては、市主導で導入を目指すが、将来的に新たな団体を立ち上げ、自主財源によりプロジェクトを継続できる体制を構築していきたい。地方創生推進交付金の審査基準においても自立性の視点があり、「稼ぐ力」が問われており、交付金に頼らず事業として自走していくことが求められている。
二役コメント
総事業費として、約4,200万円の費用の中で、いい形になるように進めてもらいたい。
二役とは市長及び副市長(2名)のことです。
開示文書のうち、一部不開示とされた部分については「ーーーーーーー」としました。
ここに重要なことが書かれていると思われますが、名取市情報公開条例の規定により、一定の要件を満たす内容は非開示とすることが認められています。
非開示とされた部分を除いても、様々な問題が見えてきます。
まず課題①で、宮城県自転車競技連盟が認定キッズの卒業後の進路のことまで考えて慎重に判断しているのに比べ、スケボー関係者はあっさりと協力を表明していることです。
また、自転車競技連盟が消極的姿勢を示しているにもかかわらず、市は「協力に前向き」と都合よく解釈していることです。
次に課題②では、企業版ふるさと納税やクラウドファンディング、スポンサー収入など、不確定かつ不安定なものに財源を依存していることです。
さらに課題④では、まったくあてのない「新たな団体」を取り上げて事業継続の根拠としていることです。「交付金に頼らず事業として自走していくことが求められている」と言いつつ、その具体的な方策は何も示されていません。
以上、ほとんどが希望的観測としか言えず「もし希望通りに進まなかったら」という想定がされていません。
行政のどの分野であっても、このような状態で予算がつけられることは考えづらいものです。
また、二役のコメントも不可解です。
なぜ初めから約4,200万円という金額の枠組みが決まっているのでしょうか。
あらゆる事業について費用対効果が重視されている中、なぜキッズ事業は初めから金額ありきなのでしょうか。
「いい形」という表現も、あまりに抽象的です。
仮に「いい形」というものがあるとしても、誰にとっての「いい形」なのかが曖昧模糊としています。
もし教育委員会の文化スポーツ課であれば、こうした提案はされなかったのではないかと思います。
また、市長部局がスポーツに関することを管理・執行できるかという問題についても、ここで課題として検討されるべきでした。
本来は課題の筆頭に挙げられていなければならないはずの事項です。
なお、サマーレビューの段階では、育成プログラムに参加する小学生とその家族の移住しか想定していなかったことも、特筆しておくべきかと思います。
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