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「キッズ訴訟」全記録⑪再度の監査請求

住民監査請求が却下されたことで、次の手をどう打つべきか考えました。

監査請求の結果を受け入れて、キッズ事業は適法であると認めるのは、論外です。
今後、市長による職務権限の逸脱がますますエスカレートした場合にも、止める術がなくなってしまいます。
悪い前例を作ったことで、取り返しのつかないことになります。
市民にお詫びしても許されるものではありません。

このまま住民訴訟に進むことは可能です。
制度上、適法である監査請求を不適法であるとして却下された場合でも、請求人は適法な監査請求を経たものとして、ただちに住民訴訟を提起することが出来るのです。
ほかに、再度の監査請求を行うという手もあります。
適法な監査請求を誤って不適法として却下された場合、請求人は再度の監査請求をすることが出来るのです。
請求人に本案審理を受ける機会を保障するためとされます。
訴訟マニアやスラップ訴訟ではないことを説明できるようにしておくためには、住民訴訟に進むのではなく、再度の監査請求を行っておくべきであろうとの判断に至りました。

11月22日、名取市監査委員へ再度の監査請求を提出しました。


名取市職員措置請求書

1 請求の要旨

名取市(以下「市」という。)が実施するなとりスーパーキッズ育成事業(以下「本件事業」という。)は違法なものであり、本件事業に伴う一切の公金の支出、契約の締結及び債務その他の義務の負担は違法又は不当であるから、必要な措置を講ずるよう勧告することを求める。
請求の理由を以下に示す。

(1)事実関係

ア 市は、本件事業について、令和5年6月30日名取市告示第130号により、名取市スーパーキッズ育成事業実施要綱(以下「実施要綱」という。)を告示した。

イ 市は、同8月、本件事業に係る業務委託プロポーザル実施要領(以下「プロポーザル実施要領」という。)を一般の縦覧に供した。

ウ 市は、同10月2日、上記プロポーザルに係る審査の結果、セントラルスポーツ株式会社を優先交渉権者として決定した。

 (2)本件事業の違法性

ア 本件事業の内容
本件事業は、実施要綱によれば、「オリンピック出場等将来日本を代表するトップアスリートを目指す子どもたちの夢への挑戦を支援する」こととされ、プロポーザル実施要領によれば、「スケートボード競技におけるオリンピック出場等、将来日本を代表するトップアスリートを目指す子どもたちの夢や希望をサポートすること」とされている。
一般に、「スケートボード」はスポーツ種目のこと、「オリンピック」は4年に一度開催される世界的なスポーツの祭典のこと、「アスリート」はスポーツ競技を行う訓練を受けた人のことと解され、本件事業はスポーツに関するものである。

イ 職務権限の逸脱があること
本件事業はスポーツに関するものであるところ、地方公共団体が処理する教育に関する事務のうち「スポーツに関すること」は教育委員会が管理し、及び執行することとされているから(地方教育行政の組織及び運営に関する法律(以下「地教行法」という。)第21条第13号)、市長及び企画部なとりの魅力創生課の職員が管理し、及び執行することは職務権限の逸脱であって、違法である。
なお、市は地教行法第23条に定める条例を制定しておらず、同条に定める職務権限の特例は適用されない。また、本件事業に係る事務は、企画部なとりの魅力創生課の職員に委任し、又は補助執行させること(地方自治法第180条の7)とされたものでもない(名取市教育委員会の権限に属する事務の補助執行に関する規則参照)。

ウ 法令の趣旨等について
地教行法第21条及び第22条が、地方公共団体が処理する教育に関する事務について、それぞれ教育委員会と地方公共団体の長とで分担することとしたのは、教育の政治的中立(教育基本法第14条、義務教育諸学校における教育の政治的中立の確保に関する臨時措置法、教育公務員特例法第18条及び社会教育法第23条第2項)を図る趣旨に出たものと解される。
そして、第23条に定める場合に限り、地方公共団体の長が第21条各号に掲げる事務の一部を管理し、及び執行することができることとされていることに鑑みれば、教育に関する事務の分担について、地方公共団体の長に裁量権が与えられたものと解することはできない。
そうすると、教育委員会が意思決定することなく、市長及び企画部なとりの魅力創生課の職員が管理し、及び執行している本件事業は地教行法の趣旨を没却する重大な違法がある。

エ 以上により、本件事業は地教行法第21条及び第22条に反して違法である。

(3)財務会計上の行為の違法性等

ア まず、対象とする財務会計上の行為が他の事項から区別し特定して認識することができるように個別的、具体的に摘示されているかについてみる。
本件にあっては、既に実施要綱が告示され、プロポーザル実施要領が一般の縦覧に供され、優先交渉権者が決定されていることからすれば、優先交渉権者との業務委託契約の締結並びにその他本件事業に伴う公金の支出、契約の締結及び債務その他の義務の負担が相当の確実性をもって予測されるというべきである(最高裁平成16年(行ヒ)第312号同18年4月25日第三小法廷判決参照)。
ゆえに、本件住民監査請求は、請求の対象の特定に欠けるところはなく適法である。

イ 次に、財務会計上の行為の違法性について検討する。
財務会計上の行為が違法となるのは、単にそれ自体が直接法令に違反する場合だけではなく、その原因となる行為が法令に違反し許されない場合の財務会計上の行為もまた、違法となると解される(最高裁昭和55年(行ツ)第84号同60年9月12日第一小法廷判決参照)。
実施要綱において、市長は本件事業の一部について、事業の適切な実施が可能であると認められる法人その他の団体に委託することができるとされており(第3条)、プロポーザル実施要領により、同委託がなされることとされている。そうすると、本件事業は、業務委託契約の締結並びにその他本件事業に伴う一切の公金の支出、契約の締結及び債務その他の義務の負担の直接の原因をなすものというべきであるから、前者が違法であれば後者も当然に違法となるものと解するべきである。
そこで、本件事業の違法性についてみるに、前記(2)のとおり、本件事業は地教行法に反して違法である(単に違法と解されるにとどまらず、法の趣旨を没却する重大な違法が認められる。)。
したがって、これに基づく公金の支出、契約の締結及び債務その他の義務の負担は違法又は不当である。

ウ よって、本件事業に伴う各財務会計上の行為は違法又は不当であって、本件住民監査請求には理由があるから、請求の趣旨記載のとおり求める。 

(4)付言

ア なお、請求人は、本件事業に係る最初の住民監査請求を令和5年10月27日付けで提出したところ、同11月15日付け名監発75号「住民監査請求について(通知)」により不適法であるとして却下する旨の判断を受けた。請求人は、要件を充足した適法な住民監査請求として、再度の住民監査請求を行うものであって、あくまで住民監査請求制度の意義、及び住民監査請求前置主義の趣旨を理解し尊重した上での行為であることを付言する。

イ また、本件は教育の政治的中立の原則という民主主義の根幹にも関わる重大な事案であることから、監査委員におかれては一層慎重に審査されたい。

2 請求人

住所 宮城県名取市手倉田字八幡165番地の32 西
氏名 吉田 良(署名・押印)
職業 名取市議会議員 

地方自治法第242条第1項の規定により別紙事実証明書を添え必要な措置を請求する。

 令和5年11月22日

名取市監査委員あて


事実証明書については、先の監査請求と同じです。

先の監査請求にくらべ、判例が引用されたり、専門的な言い回しが使われたりするようになったのは、この時点から法律に詳しい知人(ミスターX)による支援を受け始めたからです。

損害の発生について、先の監査請求では、違法を放置したままでの事業遂行が訴訟に発展する恐れがあり、市民全体にまで損害が発生する可能性があるとしましたが、再度の監査請求では、事業が違法であれば、その事業に伴う公金の支出等も違法であることを、判例を引用して主張しました。

また、監査委員には一層の慎重な審査を願うことから、付言を添えました。

12月6日、結果の通知が届きました。

本案審理には進まず、先の監査請求と同様に却下です。
その理由も全く同じ内容です。
請求人としては、最高裁の判例まで示しているのですから、適法な監査請求が不適法とされたとみなすほかありません。
請求人としては、訴訟を起こさないで名取市内部で解決するための手段は、全て尽くしたことになります。

監査委員の監査の結果に不服がある場合、出訴期間は結果の通知があった日から30日以内とされます。
通知を受けたのは12月7日のため、1月6日までに地方裁判所に訴状を提出しなければなりません。
個人的なことですが、12月15日まで名取市議会定例会、12月22日に宮城県農業高等学校合唱部クリスマスコンサートへのコラボ出演、12月29日にバッハのカンタータの演奏会にソリストとして出演、そして1月14日に告示される市議会議員選挙への準備(提出文書、供託金、印刷物、選挙カー、運動員依頼、後援会活動等々)など、多忙を極めていました。
人生において最も過酷な1か月間だったかもしれません。

なお、業務委託契約が結ばれたことの公表は、年を越える時点でもありませんでした。

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