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「キッズ訴訟」全記録⑨住民監査請求

地教行法が教育委員会と首長との職務権限を厳格に分けているのは、権力者である首長が地方教育行政に不当に介入することを防ぐためと考えられます。
教育の力は非常に大きなものです。
その大きな力を悪用して、自分の選挙を有利に戦おうとしたり、自分の政策を通すために世論をコントロールしようとする権力者の企みを封じるため、独立した行政機関である教育委員会に、教育に関する権限の多くを持たせました。
なお、戦後すぐに制度化された教育委員会は委員を公選制としたところ、首長と教育委員会の方向性の違いにより教育行政に支障が生じるケースが生じたため、首長が議会の同意を得て教育委員を任命できる、新しい教育委員会制度が始められたのでした。
教育の政治的中立、教育委員会の独立性というものは、戦後民主主義の理念の中でも最も重要な原則です。
キッズ事業の場合、教育委員会の所管であるスポーツに関することを、必要な条例を定めることなく(そのことは議会軽視でもあります)、移住・定住促進を隠れ蓑に市長が管理・執行することは、教育の政治的中立と教育委員会の独立性を侵害する、戦後民主主義の理念の破壊行為と言っても過言ではありません。
なお、山田司郎名取市長による職務権限の逸脱は、キッズ事業が初めてではなく、ほかにも教育へ干渉する事業や行為が多数行われてきました。
小さな悪巧みが許されたため、少しずつ大胆になっていき、いよいよ今般のキッズ事業の問題を招いたという経緯です。

キッズ事業は本当に違法と言えるのでしょうか。
地教行法の第21条と第23条の詳しい解釈について、逐条解説に何か書かれているのではないかと考えました。
そこで名取市教育委員会へ行き、逐条解説はないかと尋ねると、教育委員会として所有はしているが、他の部署に貸し出しているため現在はないとのことでした。
そこで、名取市図書館に蔵書として収められていないか検索しました。
残念ながら所蔵されていないと示されたため、他の図書館からの取り寄せを依頼しました。
その後、図書館から電話連絡が入り、必要な資料と判断したため購入すると報告されました。
かなりの時間が経過していたため、地元書店に注文してしまっていました。
結果、10月20日に政務活動費で購入しました。
なお、地教行法の逐条解説は、その後も総合教育会議の設置根拠などを示す議会活動の場面で活用されています。
キッズ事業は違法か適法か、逐条解説から判断することは出来ませんでした。

次に、裁判の判例を確認しました。
インターネットで様々な言葉を組み合わせて検索しましたが、地教行法の解釈が争われた裁判は、見つけることができません。
また市販されている判例集の書籍にも当たりましたが、ネット検索の結果と同様でした。
キッズ事業が違法か適法かの判断について参考となる前例は、どうやらなさそうです。

こうなると、司法の判断を仰ぐしかありません。
自治体の財務会計上の違法な行為等については、裁判所に訴えを提起し、差止めや取消しなどを求めることができます。
これを住民訴訟といいます。
ただし住民訴訟を提起できるのは、訴訟の対象となる行為等について住民監査請求をした住民に限られます。
なぜこのような制度設計になっているかというと、何でもかんでも訴訟を起こされて裁判所がパンクしないよう、自治体の問題はまず自治体の内部で解決することを促しているのです。
どの自治体にも監査委員が置かれています。
監査委員は、自治体の財務などを監督する独立した行政委員会の一つで、監査委員会ではなく、監査委員と称します。

住民監査請求は、自治体の住民が、当該自治体の執行機関または職員による違法または不当な財務会計上の行為または怠る事実について、当該自治体の監査委員に対し、監査を求め、それらの予防や是正などの措置を請求する制度です。
地方自治法第242条に住民監査請求の規定があります。

地方自治法 | e-Gov 法令検索

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条文はこのようになっています。


(住民監査請求)
第二百四十二条 普通地方公共団体の住民は、当該普通地方公共団体の長若しくは委員会若しくは委員又は当該普通地方公共団体の職員について、違法若しくは不当な公金の支出、財産の取得、管理若しくは処分、契約の締結若しくは履行若しくは債務その他の義務の負担がある(当該行為がなされることが相当の確実さをもつて予測される場合を含む。)と認めるとき、又は違法若しくは不当に公金の賦課若しくは徴収若しくは財産の管理を怠る事実(以下「怠る事実」という。)があると認めるときは、これらを証する書面を添え、監査委員に対し、監査を求め、当該行為を防止し、若しくは是正し、若しくは当該怠る事実を改め、又は当該行為若しくは怠る事実によつて当該普通地方公共団体の被つた損害を補塡するために必要な措置を講ずべきことを請求することができる。
2 前項の規定による請求は、当該行為のあつた日又は終わつた日から一年を経過したときは、これをすることができない。ただし、正当な理由があるときは、この限りでない。
3 第一項の規定による請求があつたときは、監査委員は、直ちに当該請求の要旨を当該普通地方公共団体の議会及び長に通知しなければならない。
4 第一項の規定による請求があつた場合において、当該行為が違法であると思料するに足りる相当な理由があり、当該行為により当該普通地方公共団体に生ずる回復の困難な損害を避けるため緊急の必要があり、かつ、当該行為を停止することによつて人の生命又は身体に対する重大な危害の発生の防止その他公共の福祉を著しく阻害するおそれがないと認めるときは、監査委員は、当該普通地方公共団体の長その他の執行機関又は職員に対し、理由を付して次項の手続が終了するまでの間当該行為を停止すべきことを勧告することができる。この場合において、監査委員は、当該勧告の内容を第一項の規定による請求人(以下この条において「請求人」という。)に通知するとともに、これを公表しなければならない。
5 第一項の規定による請求があつた場合には、監査委員は、監査を行い、当該請求に理由がないと認めるときは、理由を付してその旨を書面により請求人に通知するとともに、これを公表し、当該請求に理由があると認めるときは、当該普通地方公共団体の議会、長その他の執行機関又は職員に対し期間を示して必要な措置を講ずべきことを勧告するとともに、当該勧告の内容を請求人に通知し、かつ、これを公表しなければならない。
6 前項の規定による監査委員の監査及び勧告は、第一項の規定による請求があつた日から六十日以内に行わなければならない。
7 監査委員は、第五項の規定による監査を行うに当たつては、請求人に証拠の提出及び陳述の機会を与えなければならない。
8 監査委員は、前項の規定による陳述の聴取を行う場合又は関係のある当該普通地方公共団体の長その他の執行機関若しくは職員の陳述の聴取を行う場合において、必要があると認めるときは、関係のある当該普通地方公共団体の長その他の執行機関若しくは職員又は請求人を立ち会わせることができる。
9 第五項の規定による監査委員の勧告があつたときは、当該勧告を受けた議会、長その他の執行機関又は職員は、当該勧告に示された期間内に必要な措置を講ずるとともに、その旨を監査委員に通知しなければならない。この場合において、監査委員は、当該通知に係る事項を請求人に通知するとともに、これを公表しなければならない。
10 普通地方公共団体の議会は、第一項の規定による請求があつた後に、当該請求に係る行為又は怠る事実に関する損害賠償又は不当利得返還の請求権その他の権利の放棄に関する議決をしようとするときは、あらかじめ監査委員の意見を聴かなければならない。
11 第四項の規定による勧告、第五項の規定による監査及び勧告並びに前項の規定による意見についての決定は、監査委員の合議によるものとする。


業務委託契約を止めるためには、早急に住民監査請求を行わなければなりません。
第4項に、当該行為を停止すべきことを勧告することができる規定があります。
理由が認められれば、名取市監査委員は名取市長に対し、キッズ事業に関する公金の支出等を停止すべきことを勧告することが出来るのです。

キッズ事業への住民監査請求は、理由となる要件を満たすでしょうか。
第1項、請求人である私は名取市民であり、違法な財務会計上の行為を行おうとしているのは執行機関である名取市長です。
キッズ事業は予算措置が議会でも認められているため、公金の支出が発生し、業務委託契約が結ばれ、債務その他の義務の負担が生じることが、相当の確実さをもつて予測されます。
しかもキッズ事業は違法ですから、それらの財務会計上の行為も違法であると思料するに足りる相当な理由があると言えるはずです。
第2項には請求の期限が定められています。
キッズ事業に対する財務会計上の行為はまだ行われていないことから、行為の終わった日から1年を経過していないため、請求の期限の要件も満たすことになります。

問題は第4項、キッズ事業によって名取市に生じる、回復の困難な損害を避けるため緊急の必要があるかどうかです。
回復が困難な損害というものをどのように考えるか。
私の考えは、キッズ事業は地教行法第21条と第23条に違反しているので、国の交付金の交付決定取消しや、返還を求められる恐れがあり、委託先事業者へ賠償責任の生じる可能性があることが、回復困難な損害に当たるというものです。

住民監査請求制度のハウツー本を参考に、地方自治法施行規則を確認しながら、請求書を完成させました。


名取市職員措置請求書

1 請求の要旨

名取市(以下「市」)は、令和5年8月、なとりスーパーキッズ育成事業(以下「本事業」)の業務委託プロポーザル実施要項を公表し、審査の結果、同年10月2日に1社を優先交渉権者に選定した。今後、業務委託契約が締結される予定である。

本事業の目的には「スケートボード競技におけるオリンピック出場等、将来日本を代表するトップアスリートを目指す子どもたちの夢や希望をサポートする」とある。一般的に「スケートボード」はスポーツ種目のこと、「オリンピック」とは4年に一度開催される世界的なスポーツの祭典のこと、「アスリート」とはスポーツ競技を行う訓練を受けた人のことと理解されており、本事業がスポーツに関するものであるのは明白である。

したがって、本事業の内容は、地方教育行政の組織及び運営に関する法律(以下「法」)第21条第13号に掲げるスポーツに関するものに該当し、本来は教育委員会が処理すべき事務であって、市長及び市企画部名取の魅力創生課による管理及び執行が、職務権限の逸脱に当たることは明らかである。

仮に、本事業を交流人口・関係人口の拡大を図るプロモーションと位置づけ、その中でスポーツに関することを取り扱わざるを得ないのであれば、法第23条が定める職務権限の特例に関する条例を制定すれば足りる。しかし、市はこの条例を制定しておらず、特例は適用されない。

以上の理由から、本事業は違法無効である。違法を放置したままでの事業の遂行は、訴訟に発展するおそれもあり、関係者に限らず市民全体に損害が発生する可能性がある。

よって、本事業に係る公金の支出、業務委託契約の締結及び債務その他の義務の負担を差し止めなければならない。

2 請求人

住所 宮城県名取市手倉田字八幡165番地の32 西

氏名 吉田 良(署名・押印)

職業 名取市議会議員

地方自治法第242条第1項の規定により別紙事実証明書を添え必要な措置を請求する。

令和5年10月27日

名取市監査委員あて


第1項の事実証明書は、以下のものを提出しました。

  • 資料1 なとりスーパーキッズ育成事業 業務委託プロポーザル実施要領

  • 資料2 なとりスーパーキッズ育成事業 業務委託仕様書

  • 資料3 参考資料 なとりスーパーキッズ育成事業について

  • 資料4 名取市スーパーキッズ育成事業実施要綱

(以上は名取市ホームページからダウンロードしプリントしたもの)

  • 資料5 議案第56号 令和5年度名取市一般会計補正予算(第4号)

資料1は⑦で、資料4は⑥で、資料5は⑤で既出です。
ここでは資料2と資料3をお示ししておきます。

10月27日に監査請求書、事実証明書を監査委員事務局に提出し、請求は受理されました。
形式的不備がある場合は補正が指導されますが、そのような指導はありませんでした。
名取市監査委員がキッズ事業の執行を暫定的停止措置することを期待しました。
第4項の要件を全て満たすはずです。

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