私と量子技術について
はじめに
今最もホットな科学技術分野を1つ挙げるとしたら「量子コンピュータ」を挙げる人も多いのではないでしょうか?
量子コンピュータ、量子計測・センシング、量子暗号通信など、量子力学の性質を精密に制御し計算・計測・通信に活用する「量子技術」に対する投資が世界的に加速しており、ここ最近は毎日ニュースが飛び交うほど、近年で急速に分野が発展しています。
中でも、特に注目を集めているのが量子コンピュータです。
2019年にGoogleが『量子超越(ある特定の計算タスクを量子コンピュータで従来型コンピュータを超える速さで計算すること)」を達成した!』と主張する論文を出したニュースをご存知の方もいるかもしれません。
量子コンピュータは、「重ね合わせ」や「量子もつれ」といった量子力学特有の性質を用いたコンピュータです。
我々が普段使って使っている従来型のコンピュータとは全く違う動作原理で動いており、ある特定のタスクにおいては、従来型コンピュータを圧倒的に上回る速度で計算できるとされるコンピュータです。
その圧倒的な計算性能は、材料や薬の開発における化学反応の機構解明、製造・物流プロセスの最適化、金融取引のシミュレーションなど幅広い産業分野への応用が期待されており、ボストン・コンサルティング・グループのレポートによれば、2040年以降の世界の量子コンピュータの市場規模は最大8500億ドルに上るとされています。
量子技術に関わるお仕事をいただく
さて、そんなエキサイティングな量子技術について、幸運なことに令和3年(2021年)の夏から研究開発や人材育成の推進に関わるお仕事をさせていただくことになり、令和4年8月現在、約1年が経過しました。
始めは右も左もわからない状態でしたが、1年経って分野の全体像がある程度見えてきたかなと思っています。
特に、量子コンピュータの方式がたくさんあったり、ファンディングが乱立していたり、研究コミュニティ間の関係性だったりと、分野の生態系を理解するのには結構時間がかかりました。
他方、以前からnoteで記事を書いてみたいなと思っていたこともあり、このタイミングで自分の記録も兼ねて、少しずつ量子を題材にした記事を書いていこうかなと考えています。
まずは初投稿ということもあり、私自身と量子技術の関わりについて書いてみます。
私と量子技術の関わり
私自身、学生時代は素粒子物理学(理論)を専攻しており、その名の通り、この世の物質の最小単位:素粒子が従う物理法則の理論を研究していました。
素粒子の具体例としては、電子や陽子を構成するクォーク等が挙げられます。このようなミクロな世界は量子力学の性質が無視できません。このため、量子力学の知識については、その辺の一般人よりもある方だと思います。
一方、量子技術に関しては研究室の先輩に誘われて、量子アニーリング(量子系を活用した最適化計算の一種)のセミナーを1回聴きに行った程度で、当時はその内容も原理もあまり理解できませんでした。
その頃、ちょうどD-wave社が世界で初めて「量子コンピュータ」と銘打った商品を出した直後くらいで、何かの出張のついでに聞きに行ったと記憶しています。
当然、量子技術のベースとなる量子情報科学という分野があることすら知りませんでした。
その後、博士課程を中退し2017年(平成29年)に就職してからは、量子コンピュータのニュースを何度か目にして、一度ちゃんと理解したいと思い、京都大学の竹内先生の本や神戸大学の西野先生の本を読むくらいには興味持つようになりました。
2021年夏に量子技術の研究を推進する仕事に携わるようになってからは、JST/CRDSの嶋田フェローの本、大阪大学の藤井先生の講義動画などを拝見し、量子分野の奥深さ、面白さにすっかり虜になりました。
特に、藤井先生の講義動画11回のトーリックコード辺りからは量子情報と物性や数学との関係も垣間見え、量子情報の深淵なる世界感を感じることができ、大学院の学生の時の研究テーマを見つけた時と同じような興奮を抱きました。
量子技術については、産業応用の重要性もさることながら、アカデミックな視点でもとても面白いと思える分野であり、私は、以下に記す大阪大学の山本俊教授の言葉がその核心を語っていると思います。令和4年3月に公開された国立国会図書館の調査資料の中での一節です。
量子情報科学は、今の人類が想像可能な範囲で手にし得る究極の情報科学であり、その究極の科学技術が、いつの日かアカデミアだけのものではなく社会全体に大きな価値をもたらしてくれると信じています。
願わくば、究極の誤り耐性型汎用量子コンピュータが複雑な社会課題を次々と解決していく未来に、生きているうちに立ち会いたいものです。
今後は、情報熱力学とも深く関係する量子測定、制御の理論もじっくり学びたいと考えています。
そして、いつか量子情報の研究室で博士号を取得することができたらな、と夢を描いています。
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