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HER REVOLUTION

 家族で車移動中、昭和な曲をシャッフルで延々とかけていたら、渡辺美里 の「サマータイムブルース」が流れてきた。

 自分の趣味ではないが、懐かしくはある。そして聴きながら、学生時代の女友達のことを久々に思い出した。


 「ヤダ」とは大学生のころ、秋田出身の友人が開いた合コンで出会った。ヤダも秋田出身だった。

 そこからよく皆で遊ぶようになり、ヤダは僕の友人と付き合うようになった。

 きっかけは友人宅で、ヤダが持ってきた「きりたんぽ鍋」をつつきながら皆で飲んでいた夜。調子をこいて飲みすぎ泥酔したヤダは、友人宅のリビングでゲロを吐いた。

 穏やかな性格の友人は、気にすんなよ、と励ましながら、ヤダのゲロを掃除した。ヤダは僕の友人に惚れて、友人もどうかしてると思ったが、その数日後から付き合いだした。ゲロが結んだ愛だ。

 
 数年後、友人とヤダは別れ、ヤダとは完全に疎遠になっていた。が、ある日、飲み会しない?と久しぶりに連絡があった。

 3対3の、言うたらまた合コンだったのだが、ヤダは僕がその場に連れてきた友人に一目惚れした。僕の友だちによく惚れるやつだな、と思った。

 散々、疎遠だったのに、そうなると頻繁に僕に相談してくるようになった。そして友人含めて遊ぶようセッティングを迫ってきた。

 友人は元カノとの復縁を狙っていたので、ヤダには率直にムリだと思うぞ、と伝えていた。が、私がんばるし!と秋田出身なのに暑苦しいノリで、僕のアドバイスを無視した。

 ある夜、友人とヤダ含めて数人で酒を飲んだ。ヤダはわかりやすく友人にアプローチしていた。側から見ると、友人が全く興味がなさそうなのは明らかなのだが、ヤダには伝わったなかった。がんばっていた。

 最終がなくなって、皆でカラオケに行った。ボルテージがあがっているヤダは、カラオケでもがんばっていた。ただ方向性がちょっと違うように感じた。

「わっかりはじめた マーイレボリューション!」 (渡辺美里 MY Revolution)

 僕自身は誰が何を歌おうが構わない。ただ、ヤダ、それは違うよ、と思った。

「だれっかに 伝えた〜いよっ マイティア!マイドリーム!いま〜すぐぅ」

 歌は、うまい。むちゃくちゃうまい。たが、ヤダが求愛している友人は、東京出身のオシャレな、ヒップホップとか聴いてるやつで、渡辺美里は響かないだろう。むしろ、うまさが逆効果な気もさえする。

 その後もヤダは渡辺美里を歌い続け、誰に勧められるわけでもなく飲み続けた。

「自分だけの生き方 誰にも止められない 君と見つめていたい マイティア マイドリーム 抱きしめたい」


 しばらくして、トイレからヤダが戻ってこず、絶対つぶれてるぞ、となり、その友人がトイレまで見に行った。

 ヤダは便器を抱えて、ゲロを吐いていたらしい。大丈夫?と、声をかけてきた友人に気づいて、目を瞑って言ったそうだ。

  「好きなの」

 よくがんばった、ヤダ。

 ただ、ヤダが目を瞑って口づけを望んでも、やはり友人はヤダを恋愛対象として見ていなかったし、直前までゲロを吐いていた女の唇を奪うほどのチャレンジャーでもなかった。

 というかヤダ、お前、ゲロから愛をはじめようとしすぎだろう。

 家族を乗せて運転しながら、思い出すようなことではないかもしれないが、20年ぶりくらいに、ヤダ元気かな?と懐かしく思いながら、渡辺美里を聴いた。

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