大衆居酒屋には必ず2人以上で行くべし
先日、1人で居酒屋へ向かった。
あまりにも無謀である。
想像するだけで胃が痛くなるシチュエーションである。
「あのひと1人で居酒屋来てるよ…。友達いないのかな」と周りの人に言われないくらい、堂々とふるまえればいいのである。あいにく僕はまだ若者の部類である。そのような威厳は一切ないのである。
なぜそのような無謀に手を出したかと言えば、
とある漫画を見たのである。
1人居酒屋に行って、鳥貴族の半個室で楽しそうに食事を楽しむ姿にあこがれてしまった。普段から口数の少ないけれどもお酒が好きな僕にとって、またとない機会だったのである。
1人で哀愁を漂わせながら飲んでいる中年男性なんかをドラマで見ると、なんとかく渋くてかっこよく見えるわけである。離婚して妻に見捨てられてしまった男性のような、不思議な魅力がある。
しかしながら1人で大衆居酒屋にいくハードルの高さは計り知れないものである。1人で海外旅行をできたぼくならなんだってできる気がしていたのだが、海外は「この人たちともう2度と会わないし、”寂しい人ね”なんて言われていても、そもそも言語がわからないので傷つかない」という心理的安全性がある。
以下の表を見てほしい。
1人居酒屋はおひとりさまレベル8。レベル5からレベル7までを吹っ飛ばして、いきなりレベル8に手を出そうとしたのである。赤ん坊に知恵の輪を渡して「しばらくこれで遊んでおいて」と言ってしまうようなものである。
しかし決意してしまったのだから行かないと仕様がない。さっそく飲み屋街をGoogleマップで検索した。ストリートビューで飲み屋を散策していると、「一人のみOK」と看板に書いてあった。
現地へ向かってみると、
たしかに「1人のみ歓迎」と書いてあった。
安心して店のドアを開けたわけである。
店内に入ると、大学生グループがドデカイ声で飲んでいた。
入る店を間違えたので帰りたくなった。
「いらっしゃいませ~。おひとりですか?」
すぐに店員さんに引き留められてしまい、
「あっ…、一人です」と答えてしまった。
「カウンター席へどうぞ~」と通された。
なんだ、何の問題もないではないか。
ぼくは安心して店内へ入った。
鯛だしのおでんが有名なお店だったので
大根と卵、厚揚げと巾着にハイボールを頼んだ。
「ハイボールお待たせしました~」と僕の手元にお酒が運ばれてきた。席もカウンター席を確保できたし、お酒も確保できた。周りは飲み客がいっぱいで気まずさもない。もう大丈夫だ。一安心した。
安心してハイボールを受け取ると、店員さんが
「一緒に乾杯していいですか?」と声をかけてきた。
一緒に乾杯…?
女の子が横についてくれるガールズバーでもないのにどういう意味だろうか。僕は1人飲みに来ただけなので、誰かと雑談をする気力はない。しかしながらせっかくの提案である。僕は意を決した。
「はぁ…」と愛想笑いで気を抜けた同意をした。
店員さんはニコリと笑顔を向けた。
「おぉ客様、乾杯はいりまあぁす!!」
「せえェのっっ!!」
「かんぱあぁ~い!!」
太鼓「ドン!!ドコドンドン!!カン!!」
死にたくなった。
ぼくの背中越しでは、
先ほどの大学生がどんちゃん騒ぎをしている。
大根を口に運んだ。
なにかを飲んだ気も食べた気もしない。