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祖母の生家
母方の祖母の生家は絶えてしまって、今はもう無い。
祖母には兄姉が4人いて、祖母は末っ子だった。
5人も子供がいたらまず安泰と思うのが常であろう。
兄たちも姉たちも優秀だったそうだから、祖母の両親、周りの人たちもまさかこうなるとは思っていなかったであろう。
長兄が家を継ぎ、結婚して女の子を二人もうけた。
次兄は結婚したが子供ができなかった。
姉たちも祖母もそれぞれ結婚して旦那さんの姓になり、それぞれ子供にも恵まれた。
長兄は元々体が弱く、結婚後は療養のために気候の良い神奈川の三浦半島あたりで過ごしていた。お嫁さんがそのあたりの出だった。祖母はその頃まだ結婚前で、兄のお世話をするため同居していたらしい。
しかしある日突然、母親から地元に帰るように言われる。
地元は寒い秋田である。
寒い秋田に帰れば死ぬことになる。長兄もお嫁さんも、祖母もそう思っていた。
今では薬ひとつで治る病気も、医療の発達していなかった当時のこと。
祖母は母親に直談判したそうだが、聞き入れてもらえなかった。
長兄は運命を受け入れるように妹である祖母をなだめ、母親の申し出通りに秋田に帰り、間もなく病気が悪化して亡くなったそうだ。
お嫁さんも同じ病気を患い、後を追うように亡くなった。
娘二人は次兄に引き取られたが、そのまま次兄の娘として、他家へお嫁に出した。
そして、祖母の生家は途絶えた。
祖母は、生家の間取りや幼い頃の思い出などを細かく書き留め、残していた。
母親への恨みも。。
祖母の母親がなぜ、長兄を呼び戻したのか、真意は図りかねる。
夫に先立たれ寂しくなってしまったのか。
それでも息子を亡くすよりは、寂しさに耐えていたほうがマシだったのではないか。
まさか亡くなるなんて思ってもみなかったかのかもしれない。
後悔したかもしれない。
ひいおばあさんの気持ちは、もはや誰にも分からない。
私は結婚していないし結婚する気もないのだが、よく大人から
「さみしくないの?」
「老後が寂しいぞ」
「老後、誰に面倒見てもらうの?」
などと言われたりする。
(私も大概大人だが。ここでの大人とは自分より年上の人たち、ってことで)
結婚していれば寂しくない、子供がいれば老後が安心、などとは全く思えない。
結婚しても離婚するかもしれない、子供が生まれても事故に遭うかもしれない、先立たれるかもしれない、人生何が起きるか分からない。
ただ、お墓参りに行って、ずらっと並んだ墓誌を眺めると必ず「子孫を残せなくてごめんなさい」とは思う。
私には兄が二人いるのだが、長兄も全く結婚する気がないらしい。
次兄のみが我が家の希望の星なのだ。
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