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「escape HERO」第1話(全4話完結済)

  ※目安:約2400文字

#創作大賞2023
宇佐崎しろ 先生のお題イラストに基づく
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見慣れたはずの学校内で起こる信じられない出来事。横田和寿は、女子のみがナンバーワンを競う殺戮ゲームになぜか巻き込まれていた。

『横田くん、ここは協力しよう』

横田和寿よこたかず桜丘真尋さくらがおかまひろは『今』を切り抜けるため協力する。
『ここでナンバーワン女子になったら、この学校を支配できるの』
『俺がナンバーワンになったら、全てなかった事にもできるのか……?』
桜丘真尋が描く願望と横田和寿が抱く正義
仮想空間だと言う世界の真実とは
そして、現実世界を支える仮想空間のヒーローとは……
『横田は聞いた事ないかな?』
『もう少し大人になったらわかるよ』
事実、真実、正義が交錯するSFすこしふしぎな物語

あらすじ297文字

Chapter 1『Introduction』

「あのさぁ。綺麗に化けてるけど、キミ、横田くんでしょ?」
 自分の教室で追い詰められた。目の前には桜丘真尋さくらがおかまひろ。同じクラスで、普段は俺の目の前の席に座っている。とはいえ今まで必要最低限の言葉しか交わしたことがない。とにかくソイツが余裕しかない笑みを浮かべて、教卓に頬杖をついて。俺は黒板を背に警戒の姿勢をとり、目を逸らさず、若干震える手元で銃に弾を込める。
「あたし、見ちゃった。横田くんが保健室をちょこちょこ出入りしてたの。その白衣、横田くんにジャストサイズだね。もしかして鹿山かやま先生のかな?」
「だったらなんだよ」
 桜丘はニヤニヤしながら、こちらを見ることをやめず、声を立てずに笑う。冷たい瞳に背中がゾクリとした。こいつ、なんか知らねーけど、尋常じゃない。
「なんでそんな事してんのかな」
 銃を手にはしているが、俺は何もしていない。そう言ったってきっと信じてはもらえないだろう。この奇妙な空間の中で、確実にこいつは平静さを失っている。桜丘だけじゃない。この学校全体がだ。
「それ、どこにあったの? まさか保健室なわけないよね」
 顎で銃をひょいひょいと指す。
 これは言ってもいいものか。ただこの空間が、今まで慣れ親しんできた場所と全く同じ風景を持ちながら、実質的に抱える異様さは伝わるかもしれない。
「鹿山先生のロッカーの中に、白衣と一緒に入ってた」
「えー、コワイコワイ。で、もう誰か撃っちゃった?」
「俺は何もしてない」
 経緯もよく分からないけど、ベッドで目が覚めたらそこは保健室で、外の様子がおかしいのに気がついた。それから保健室を拠点に三十分くらい周辺を伺いながら状況を把握していた。それだけだ。
「してるじゃん。それも保健室にあったのかな」
「なにが……」
「横田くん美形だから似合うけどさ、どうした? ここの雰囲気に気圧されておかしくなっちゃった?」
 そう言って、桜丘は傷だらけの俺の格好をまじまじと眺める。俺が身に纏っているのは長い金髪のウィッグと女物の服一式。ミニスカートにストッキングを履き、薄いブルーのトップス。それを覆い隠すかのように、保健室にあった鹿山先生の白衣を羽織っている。ストッキングごとついた擦り傷と、保健室から教室に来るまでの間に負ったであろう汚れや綻びがあちこちにできている。そういう桜丘は傷ひとつ、汚れひとつない制服を、当たり前に着ている。その姿が、今のこの空間には逆に似つかわしくない。
「横田くんに女装の趣味があったとはね」
「そういうことじゃねー」
「ふぅん? じゃあ、なにかな?」
 目が覚めて少ししてから気がついた。理由はわからないけど、この世界には見た目でわかるような男の姿をした人間がいない。それだけでも大きな違和感だった。
「横田くん、どうやってこの世界に入ったのかな」
「え?」
 この世界へは、入ってくるものなのか。
「何言ってんだコイツ、みたいな顔してるから教えてあげる。一言で言えばここは仮想空間みたいなもの。ここでナンバーワン女子になったら、この学校を支配できるの」
 は? 仮想空間? ナンバーワン女子? 何言ってんだコイツ。
「そんな格好してるから、チートでもしてナンバーワン女子を狙ってんのかと思ってたけど、違うみたいだね」
「そうか。だからここには女子しかいなかったんだな」
 保健医の鹿山は男性教諭だ。俺が目覚めた時、保健室は何者かが暴れたような痕跡があって、鹿山先生はいなかった。廊下に出るとさまざまな破裂音がして、とりあえず身を隠さなければと思った。一番近くの部屋、職員室に入ったら、これ見よがしに置かれた無地の風呂敷に包まれた服のようなものを見つけたから、とりあえず持って保健室へ戻った。しばらく考えたけど、やはり男の姿である事が生存に不利な気がして、ご丁寧にウィッグまで準備されていたその風呂敷の中身を着た。どうやって着るのかもわからなかったミニスカートやストッキングが落ち着かなくて、鹿山先生のロッカーに収められていた白衣を拝借し、その時、銃を見つけたのだ。
「じゃあそれも、アイテムなのかな? めっちゃ似合ってるよ!」
「アイテム?」
「この世界を生き延びるための装備。それにしてもすごいの見つけちゃったね。悔しいけど超キレイ! ひょっとしなくてもノーメイク? 信じられない!」
 ケラケラと、桜丘は初めて声を立てて笑った。
「何かのバグだとしても、誰かがナンバーワンになるまでは出られないよ。それに横田くんはそもそもルール違反だから、正体がバレたら排除されちゃうかもね」
「……排除?」
「そ、排除」
 桜丘は言いながら、右手で俺を音もなく撃つ。
「いいこと考えた」
 教卓からひらりと身を離して、ぴょこっと俺の横に近づく。
「横田くん、ここは協力しよう」
「協力?」
「横田くんは、あたしのサポート。あたしは横田くんの正体がバレないようにカモフラージュ。一緒にここを脱出しよう」
「……なんだよそれ。この生き残りゲームみたいなのに加担しろっていうのか」
「嫌なら、べつにいいんだよ?」
 そしてまた右手で俺を狙う。
「とりあえず、手を組もうではないか、横田くん?」
 桜丘は企んだような目をこちらに向けたまま、手のひらを上にして右手を差し出した。今生き延びるためには、それも仕方ないか。とりあえず俺に良策は思い浮かばなくて、ふうっと息を吐く。
「いつでも俺の気が変わる可能性はあると思っとけ」
 警戒で強張らせていた姿勢を解きながら、俺はその右手をはたいた。

第2話へつづく

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*****『escape HERO』*****
全4話完(総文字数目安:約2万文字)

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梅本龍/文筆
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