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no.6/インドア派住人たちがおでかけ会議してるってよ【日向荘シリーズ】(日常覗き見癒し系短編小説)

【築48年昭和アパート『日向荘』住人紹介】
101号室:ござる(河上翔/24歳)ヒーロー好きで物静かなフリーター
102号室:102(上田中真/24歳)特徴の薄い主人公
103号室:たくあん(鳥海拓人/26歳)ネット中心で活動するクリエイター
201号室:メガネ(大井崇/26歳)武士のような趣の公務員
202号室:キツネ(金森友太/23歳)アフィリエイト×フリーターの複業男子
203号室:(かつて拓人が住んでいたが床が抜けたため)現在封鎖中

※目安:約3500文字


「はぁ、九月というのにまだまだ暑いッスね」

 二階の部屋はエアコンが効きづらいといって、キツネくんはバイトのない時ずっと103号室に入り浸っているけど、もはや自室を忘れてしまってはいないだろうか。

「まったく、今日も暑いであるな」
「ほんと。今度の連休もこんな感じなんスかね。微妙に湿気もあるし」

 こうやって暑い暑いと、ござるくんとキツネくんが文句を言うのも日々のルーチンと化している。

「連休か。シルバーウィークとは言え、今年はそんな大型連休でもあるまい」

 背筋をピンと伸ばし確信的な事を呟くメガネくんの言葉に、俺は無言で頷いた。九月といえばシルバーウィークが少々楽しみだけど、今年は単なる三連休に留まり、特別感はあまりないからだ。

「お盆休みの九連休を実装したメガネさんには言われたくないッス! 今回もえげつない有休取ったりするんじゃないスか?」
「ふっ、まさか」

 キツネくんにつっこまれたメガネくんは呆れたように小さく笑うと、イヤホンを装着してスマホに集中し始めようとしている。もちろん料理動画だ。
 そうしてしばらく時間が過ぎた頃……

「ねえねえ。シルバーウィーク、みんなでどっか行きません?」

 唐突なキツネくんの提案に、一瞬みんなの動きが止まったのがわかった。なんだかんだ言って、超インドアな住人たちなのだ。人混みは苦手だし、何より外に出るのも計画を立てるのも、帰宅後のぐったり感が予想できてしまうと面倒くさい。あと、人間社会の何気ない一コマに上手く混じれない自分を、見たくないと言う思いも、少しだけ……

「えー、やーだよー。メンドウクサイ」

 真っ先に反論したのはたくちゃん。ほぼ24時間365.25日、103号室から出ない人間なのだし、食べ物もあまり自分で買いに出ることがない程だから、日向荘の半径1メートル圏内から外へ出るのが億劫になる気持ちは、分からなくもない。

「ですよねー。でも僕が言ってるのは、別に連休で旅行しようよ、とかじゃないッスよ。買い出しにみんなで行くとか、そのついでに映画見るとか、本屋行くとか。そういうのはどうかなって」
「本屋っ?」

 それまで浮かない顔をしていたのに、早速本屋で釣られて目を輝かせている。たくちゃんってば、分かりやすい上、チョロい。

「なら俺は、量販店で話題の調理器具が見たい。ちょっと良いスライサーだ」

メガネくんは、見ていたスマホから視線を上げて、行き先の提案をした。

「あの、であるなら僕は、家電量販店の中にあるおもちゃコーナーに行きたいである。そろそろ追加戦士のソフビ人形が……」
「いいね! 何だっけ、今やってるヒーロー」
「文具戦隊ブングオーである」
「何だそれ、文具かよ! 弱そッ! ヒャーヒャヒャヒャ」
「文具をナメてはいけないである」
「推しとか、いるんスか?」
「イエロールーラー!」
「そこはレッドじゃねーのかよ! ヒヒヒ」

 ビシッと名乗りポーズを決めたござるくんに、思いの外ツボった様子のタクちゃんは、いつものゲーミングチェアの上でバタついている。

「家電量販店に行くなら、僕もベッドフォン見たいッス! ちょっといいやつ。あとね、実は観たい映画もあるんスけど。みんなで観ません?」
「映画? そういえば俺、映画館なんて行ったことねーな」
「マジすか! じゃあ尚更行ってみましょうよ! たくあんさんが前に読んでたやつが原作じゃなかったかな? ファンタジー系ッスよ。何だっけ、タイトルど忘れしちゃった」
「へえ、なんだろ?」
「そういえば昔、シルバーウィークの時観た映画の影響で僕の人生激変したんで、皆さんも何か変わっちゃうかもッスよ?」
「映画か。ずいぶん観てないな」

興奮気味に話し続けるキツネくんを、メガネくんはさらりとスルーしていく。

「しかし、こんな機会でもないとわざわざ映画館へ足を運ぶこともないのだから、たまには良いんじゃないか。みんなが良ければ俺は良いぞ。キツネオススメのファンタジー映画とやらを」

 メガネくんはスマホをテーブルの上に伏せて、いよいよ本確的に話に参加し始めた。

「マジっすか!? やった!」
「いっちゃんは? 行きたいトコとか」
「あ、そういえば102さんさっきから無言スね。何かしたいことありません? それとも外出は嫌だとか」
「え、嫌じゃないけど……俺は」

 ただ、相変わらず主体的に楽しみたいものがない。考えるのも億劫……本当に億劫なのかはわからないけど。

「せっかくだからみんなの好きなものに付き合うよ」
「えー、いいんスか!?」

キツネくんが一層大きな声で、喜びの声を上げる。あれ、この子はキツネじゃなくてイヌだったっけ? 思い切り尻尾振っているように見えますが。

「うん。俺は特にないし」
「なのに、みんなについてきてくれるんスか?」

 無言で頷く。本当に何もないからさ。暇だし。いいんだよ、みんなが楽しければそれで。 
 心の中はいつだっておしゃべりなのに、それが上手く声に乗っていかないのは昔からの癖だ。

「やっぱり102さんは優しいッスね!」

 別に、そんな良いものじゃない。

「それもまた良いんじゃないか。無理して自己主張する必要もない」

 メガネくんが大人なフォローを入れてくてた側から、たくちゃんは元気いっぱいの主張を始めた。

「じゃあね俺、Fマートの新作スイーツ買いに行きたーい! キツネ、今月何か俺好きそうなのないー?」

 この2人が同じ歳というのは、時々感覚がバグってしまう。

「たくあんさん、それならなんかちょっといい店の人気スイーツでも、みんなで食いに行きません?」
「いいねッヒャーーーッ!」
「リビングセンターまで出れば量販店も本屋も映画館もちょっといいスイーツも、なんでも揃ってるであるよ。あ、VシネマのBlu-rayも探したいである」

 ござるくんは徒歩圏内にある大きなショッピングセンターの名前を口にした。散歩がてら行ける感じなら、だらだらみんなで出かけるのも、悪くないかも。

「なるほど。リビングセンターなら、大体なんでもある」
「映画館も近いであるし」
「それなら、たくあんさんの服を真っ先に選んであげて、着替えてからショッピングっすね!」
「それもそうだな。こいつの服は年季の入った2パターンくらいしか知らん。拓人、おまえ服が無いと言って人の服を勝手に着るのはもうやめてくれ。お前が一番デカいんだから、みんなの服が伸びるぞ。服が可哀想じゃないか」

 それは確かにメガネくんのいう通り、大問題なのだ。目測とはいえ、俺とたくちゃんの身長差はおおよそ20センチ以上あるのだから。

「あー、ごめんねーつい。」
「つい、じゃないからな。着た時点でパツパツな事実に気付いてやれ」

 どんどん話は盛り上がって、取り留めがなくなってきた。事の発端とか、みんな覚えてるのだろうか。……俺は忘れたけど。

「と言うわけで、結局なにしたいスか?」
「……そんなの、選びきれないなら全部すれば? せっかく三日間も休みなんだし」
「えっ!?」

 俺の発言にキツネくんが目を丸くする。

「えっ? 102さん、マジで! マジスか? 全部行っちゃいます? みんなで!」
「あー、まぁいっちゃんがそう言うなら仕方ねーなー。たまには巻き込まれてやるか」
「たくあんさんも! 行ってくれるんスか?」
「ん? あ、あー。いいよ」
「こんな事でもないと、そうそうみんなで出かけることもないしな」
「メガネさん!」
「みんなの行きつけも知りたいである」
「ござるくん、飲み屋じゃないけどっ! マジか。やったー! 102さん、鶴の一声、あざス!」

 鶴の一声……俺はみんなにとってそういう感じなのか?

「別に夜は居酒屋に行ったっていいんじゃないか。どうせ連休なんだし」
「そうなんスかっ! いいんスか?」
「おや、キツネは二十歳未満だったか……」
「オトナっす! 飲酒OKッス!」

 メガネくんは背筋をピンと伸ばした武士モードのまま、発言だけはノリノリだ。

「えー、でもこう言うの慣れてないから、どこからどう予定立てたら上手くお出かけできるのかわからないッス!」

 軽くテン張りはじめたキツネくんにたくちゃんがさらりと口を挟んだ。

「でもリビングセンターには行くんだろ。オープンする頃行ってから適当にあちこち回ればいいじゃねーか?」
「そういうもんスか?」
「俺は実際に見てからじゃないとわかんねーし?」
「まぁ確かに。あ、下見行きます?」
「は? やだよ!」

 これは決まるまでもうしばらくかかりそうだ。連休、本当に外出などできるのだろうか……



[『インドア派住人たちがお出かけ会議してるってよ』完]



※次回は9月22日(金)20:00頃更新予定です!

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梅本龍/個人制作作家
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