中国の諸問題って、これ?
電力不足
中国国内の電力供給の主流はLNG、石炭、石油による火力発電だ。
2010年から2017年にかけて、中国国内の電力消費量は50%ほど上昇した。自然エネルギーの割合が25%と上昇し、火力発電が全体の70%を占めているが、相変わらず総電力量の比率から見ると高い。
原子力発電の割合は低いものの、今、中国国内では急ピッチで原発の増設が続いており、その割合は年々増加していくだろう。
今年に入り、中国では大規模な停電が頻発したことで、中国のエネルギー需給に関しての憶測が相次いだ。
急激な経済発展はエネルギーの需要の急激な伸びでもある。
では何故、この時期に急に中国国内のエネルギー問題が表面化したのだろうか?中国は来年の北京五輪を控え、国内問題の封じ込めに躍起になっている。チベットやウイグルのジェノサイド問題は、欧米の企業へと波及し、先進国は相次いで中国に対しての批難決議を採択した。加えて、武漢の研究所から感染拡大したとされる新型コロナウイルス問題は、中国は知らぬ存ぜぬで通そうとしている。
TPP加盟問題も、台湾加盟についてTPP加盟国でもないのに、問題だと騒いでいる。
つまり、一事が万事、外交問題については中国は問題だらけの状況で、アメリカを中心に北京五輪ボイコットが取り沙汰されている。
ここにきて中国は日本に擦り寄る発言をしてきた。これは、中国に進出している日本企業とその家族12万人が中国にいる中で、「日中関係が横たわる以上、日本は北京五輪ボイコットに反対できないだろ?」という一種の脅しでもある。
エネルギー問題は国内問題の中でも中国国民にとってはかなり深刻な問題だろう。
中国は地方行政区にかなりの裁量が任されていると言っても、いざとなれば中央政府の号令一括で方針転換をしなければならない。それが、今回の大規模停電問題だ。
中国国内の電力需要を賄うには、結局火力発電に頼らざるを得ない。それに変わる発電技術など中国には無い。そうなると、世界中が方針転換したように、カーボンニュートラルに舵を切るしかない。ましてや世界第一位のCO2排出国の中国としては、先進国と対等な立場になりたければ、世界の潮流にも歩調を合わせる必要がある。
そうなると、結局、号令一括で電気を止めて、総発電量の抑制を行うしかない。
これは、産業振興や経済の発展を無視したやり方で、1970年代の中国共産党のやり方と全く同じだ。
統制された資本主義社会を共産主義で実現しようという、無理に無理を重ねた結果の電力不足であり、大規模停電だ。これから冬になれば、さらに停電問題は中国国内で深刻な事態を引き起こすだろう。
産児制限解除
今現在、日本が最も高齢化社会に突入したとして、世界的に高い数字を示している。ところが実は最も高齢化社会の懸念が高いのは中国だ。
戦後の日本は緩やかな社会主義政策を進めてきた。それが、世界で最も先進的と言われている国民皆保険制度であり、年金制度だ。
先進国各国でも国民皆保険制度や年金制度が充実しつつあるが、その殆どは現役世代への負担が非常に大きい。日本は特に後期高齢者の増加が懸念され始めた2000年代に入ってからは、世界最大の病床数に比較して医師数の不足と、医療費支出の増大が大きな問題となってきた。
2年前に始まったコロナ禍において、中等症状以上の患者の受け入れ先の不足、特に地方に比べ都市部での医療体制の逼迫で改めて日本の医療の限界点が大きくクローズアップされることとなった。
ただ、日本の国民健康保険制度と年金制度は、今後の人口増加に向けての適切な政策を打ち出すと共に、景気浮揚策を講じることがなく自然増のままであったとしても向こう50年程度は体制維持が可能と言われている。
独立行政法人経済産業研究所の藤上席研究員のリポートでは、中国共産党が慌てて将来の人口増に向けての政策を打ち出した背景を解説している。
中国は国全体のGDP総額は確かに世界2位かもしれないが、個人所得と個人消費は、先進各国に遠く及ばない。これは爆発的な人口増に対しての付け焼き刃政策だった悪名高き「一人っ子政策」に端を発する。生産年齢人口の不足と急激な経済発展だけを目的にした産業振興政策がアンバランスな収入格差を生み、全人口の半分がいまだ月収3.5万円の生活を余儀なくされている。中国で農民工と呼ばれる人々は農業中心の地方から都市部に出稼ぎに出ている労働人口を支える世代であるが、それは必ずしも地方に富をもたらす状況にはなっていない。中央政府が外資を取り込み世界の工場としての中国を政策として推進するあまり、労働力を地方出身者に求めた結果、逆に地方の農業従事者の衰退を招いている。
中国は膨大な人口を抱えながら、国土もそれなりの広さを有しているが、経済発展を優先する結果、国民の食を支える地方の農村部の衰退を招く悪循環が起きている。ところが、所得格差を埋めるためには、地方の人々にも働きに出てもらうしかない。その中央政府の半ば強引な政策と人口増のバランスを欠く一人っ子政策とが、急激な高齢化を生んでしまった。
皮肉のような話だが、今から産児制限を撤廃したとしても、中国国民の低所得者層は、将来不安を抱えたままの状態がしばらく続くことになるだろう。
つまり、数年前から人口減少が始まっていると言われている中国は、遠からず、世界の工場にはなりえない可能性が高まっている。
仮想通貨禁止
中国の狙いは、人民元の基軸通貨化だ。
アメリカがアメリカたりえていたり、イギリスがいまだ欧州で強い影響力を維持し、経済格差があるにも関わらずEUの経済圏が独自に成立し得ていて、隣国の日本がGDPが伸び悩んでいるとは言え国際的な地位を得ているのは、ひとえに発行通貨が金融市場に大きな影響を与えているからだと考えている。
中国は経済的には「一帯一路」構想を打ち出し、途上国のインフラ整備という形で影響を維持しながら、それらの国々に中国人社会を作り出し次第に人民元の流通を狙っている。その最終目的は、人民元をエネルギー市場で取引通貨に押し上げることだ。
そのためには中国国内で流通している偽造通貨を一掃し、国内の高金利のシャドーバンクを抑制していく必要がある。
中国国内のシャドーバンクの貸付残高は1,000兆円規模に上り、中国国内の企業でシャドーバンクからの貸付を受けていない企業を探す方が難しい。
近頃経営破綻が取り沙汰されている不動産大手の恒大集団も、負債総額30兆円のかなりの額がシャドーバンク(ノンバンク)の負債と言われている。中国のシャドーバンクとは、日本で言うノンバンク系の信託会社が大半で、個人投資家から集めた資金を高利で企業に貸し付けている。信託会社は投資を行いリターンを得るのが日本人の感覚だが、中国のそれは企業に直接的に貸し付けている。中国政府が規制を強化しているのは、それらシャドーバンクに対して過剰な不動産投資を規制したり、リスク管理を強化して適切な運用を目指していることにある。
ムーディーズのような格付け会社は、中国国内の企業が発行する社債に対して、総じて高い格付けを行う傾向にあるが、これに対しても国際社会から批判の対象になっている。これらの要因の一つが、中国政府が発表する高いGDP成長率に基づいていて、そもそも中国が言っている成長率は信用できないというのが、一般的な評価だ。しかし、実態はA+やAA評価の企業が社債の利払いが出来なかったり、負債が高額になり相次いで破綻したりしている。
これら中国国内の負債総額の大半を占める信託商品や、ノンバンクの直接貸付に加え、中国国内では仮想通貨を使って租税回避しながら、外貨に貯蓄を変換する動きが多発した。それも、共産党員が関わる富裕層からだ。過去に中国の国営企業と取引したことのある人は分かるが、中国ほど賄賂が必要な国はなかった。地方の行政機関や国営企業は特にそうで、少ない給料を様々な賄賂が補填していた。むしろ中国ではそれが当たり前だった。
例えば日本からある商品を輸出をすれば、港で止まり、流通先で止まり、その度に袖の下を要求してくる。
習近平政権になり、そのような悪習を打破すべく徹底的に取り締まりを行なってきた結果、現在、そのようなものは著しく減少したと言われている。
中国は共産党一党独裁であるので、欧州の共産主義国家と同じく、官僚支配と汚職が蔓延っている。鄧小平の改革開放以後、欧米の資本主義を積極的に取り入れ、為替を固定化して外資を取り込み、世界の工場として経済発展を遂げてきたが、従来の汚職大国に加え国民に賃金格差が起き、富裕層も誕生したがそれは国民の全てを豊かにするものではなかった。
その結果として、仮想通貨のマイニングのようにグレーゾーンの中で資産形成に走る者が激増した。経済発展にはテクノロジーの進化が不可欠であるが、それを法律の間隙を縫って利用したのだ。
仮想通貨は原則、ウォレットさえあれば世界中のどこでも現金化が可能となり、それを中国共産党はコントロールすることが出来ない。
先に取り上げたシャドーバンクにしても、賄賂が当たり前の社会にしても、仮想通貨にしても、法律の範囲内で自由が保障されている国家と違い、共産党の強権を利用して対症療法を行うことができる中国は、逆に言えば、その対症療法が命取りになることもある。
中国の狙いは人民元をデジタル化することで、そのブロックチェーン技術は人民元の信用創造も含め追跡が可能とされるが、一方でその裏付けには中国政府の新規国債発行がその根拠となるだろう。中国の国債金利は10年債で2.9%だが、それも格付け会社の評価が一つの指標になっている。
ただ、GDP総額1,400兆円に比して、4,000兆円を超えていると言われている。
しかもそれに比べて資産額は1京8,000兆円あると中央政府は公表している。しかし、中国は共産主義でその資産の大半は国営企業資産と地方政府の資産の総額だ。
常識的に考えて、これら中央政府と中央銀行が発行済みの人民元をデジタル化することなど不可能だ。従来の発行済み人民元と、新規発行するデジタル人民元を併用することも、現実には不可能だろう。
国境紛争
中国は中華人民共和国が正式名称で、建国して72年の非常に若い国だ。
史記、三国志、水滸伝などを読めば、古い中華の歴史を読むことが出来るが、毛沢東が興した中国共産党によって、全ての中華の歴史を否定し、現在がある。
文化大革命は、全ての歴史、学者、文化人を否定し労働者中心の共産主義絶対の国家論を建前にした。これは共産主義に多大なる影響を受けたこともあるが、一方、毛沢東が中華思想と共産主義を結びつけて中国国民を扇動したことも大きいと考える。
伝統的な漢民族の中華思想には、「中華が天下(世界)の中心」という自民族中心主義がある。華夷主義、中国中心主義と共産主義を結びつけ、国威を発揚したのが毛沢東であり、共産主義と中華思想を結びつけたところに中国共産党の奸計を感じる。
鄧小平以後、中国共産党は長い時間をかけ、世界にとってなくてはならない国に仕立て上げ、その結果、GDP世界2位まで経済を躍進させた。そこには、中国が世界の覇権を握るという最終目的がある。資本主義経済、自由主義社会を打破し全てを中国共産党がコントロールすることを目的にしている。
中国は米ソ冷戦時代を見て、自分たちはソ連のやり方は間違っていたと考えているのではないだろうか?ソ連の場合は、共産党の強権と軍拡でソ連とその周辺国を力で押さえ込もうとした。当然だが、軍事には軍事で対抗する動きが発生するのは当然で、NATOは共産主義国の台頭を許さぬよう、軍事力を増強してきたのだ。
その間隙を縫って、中国は着々と経済力をつけてきた。
1989年のベルリンの壁崩壊、1992年のソ連邦の崩壊は、中国共産党にとっては喜ばしいニュースだっただろう。ソ連が崩壊することで共産圏が縮小してしまうことの警戒感より、その失敗事例を学んだことの方が中国共産党にとっては意味があったに違いない。
1977年に事実上の中国中央政府の実権を掌握した鄧小平が改革開放を打ち出したのは、1978年で、文化大革命の否定と改革路線への転換への構想は、早くから準備されていたものと見るべきだ。
1956年のチベット紛争をきっかけにダライ・ラマ14世が亡命して以後、インドと中国の間での国境問題が表面化した。
他にもベトナムとの紛争もある。
しかし、今、中国が直面している国境問題の一番大きな点は、海洋進出だろう。
南沙諸島の軍島化や、尖閣諸島への不法な海域侵入だ。
フィリピンにしてもベトナムにしても自国のEEZ内や自国の領海の島に軍事力を背景に不当に進出する行為は、傲慢さの極みだろう。
特にインドとの国境線では、今もインド軍との間で小競り合いが続いている。今のところ銃火器の使用はされていないようだが、いつどうなるかは分からない。どちらが先に発砲するかでインドの国境は一触即発の現状だ。
南沙諸島にしても尖閣諸島にしても中印国境にしても、中国は相手に発砲させることが目的だ。相手が発砲すれば個別的自衛権を発動できる。国際社会に対して正当性を主張できるからだ。ウイグル問題にしても、中国共産党はイスラム原理主義のテロ活動防止のため、警察機構が治安行動を行なっていると主張しているが、これも言い訳に過ぎない。
大切なのは、常に中国の言い分は一方的であり、自国の都合優先の屁理屈になってしまっている点だ。他の先進国は他国の内政に干渉する気はない。いちいち構ってはいられないというのが本音だ。ただ、世界的な潮流の中で人権問題、人種差別問題がクローズアップされ、それらを乗り越えようと努力している中、自国の覇権主義を全面に押し出した外交政策が、国際社会に受け入れられるとは、到底思えない。
RCEPとTPP
RCEPはASEAN10カ国にオーストラリア、中国、日本、韓国、ニュージーランドを加えた、地域的な包括的経済連携協定によって締結され、2019年11月4日に主要20項目の共同声明が採択、発表された。交渉経過でインドが中国とオーストラリア加盟にあたって難色を示し、加盟は見送られた。
この協定は加盟国間の主要産品の関税を撤廃しようとするものだ。
※協定条文・全文と外務省がまとめた要約
既に外務省のHP上で英文と和文の条文の中身が全文公開されている。
この中で、CPTPP(環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定:TPP11)との具体的な相違点は、RCEPは元々貿易対象国どうしでの更なる関税の撤廃を目的としている一方で、撤廃率は82%と決して高くはなく、また日本が保護対象にした主要農産物などは協定の対象からは外れている。そもそも日本を含めたFTA対象国どうしで横の連携を模索したものであり、日本の輸出入総額の50%程度がその対象となる。
これを輸出に力を入れたい中国の側から見れば、なんとも片手落ちの印象は拭えず、しかも関税撤廃対象品では一歩譲った形となった。
※「環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定」外務省要約
それに反し、CPTPPの最も重要な点は、関税の撤廃率の引き上げに伴い、そのルールの厳格化を明確にしたところにある。元々、TPPに日本とアメリカが加盟する意図は、対中国の膨大な貿易赤字の解消と、①投資②貿易円滑化③電子商取引④国営企業⑤知的財産の5点について厳しく定めており、いずれも中国が対外的に行なっている行為が抵触することになる。
しかも、CPTPPの場合、加盟各国の横の連携を重要視しており、仮に新規の加盟申請が出た場合、加盟国全ての承認を必要とする。言い換えるなら中国の手前勝手な姿勢を改めない限り、いくら巨大市場や軍事力を背景にしようとTPPの恩恵は受けられないことになる。
この点は特に重要で、TPP加盟国全体でGDP総額1,100兆円規模の市場が出来上がってしまった。
アメリカはTPP主要加盟国に対しては、それぞれにFTAを結んでおり、TPP加盟に重要性を感じていないことと、そもそもアメリカが主導して作られたものではないことに難色を示したため、加盟を辞退した。言い換えるなら結果的にTPP締結に至ったのは当時の甘利経産大臣の交渉力が大きく働いた。残念ながらTPP締結直前にして、自身の献金問題がマスコミに騒がれ、辞任に追い込まれたのは忸怩たる思いだろう。しかし、条約締結に至るまでの甘利元経産大臣の働きを知らない日本人はいない。「タフネゴシエーター」として諸外国の外交官や経産官僚から一目置かれる存在だったのは厳然たる事実だ。
その交渉過程において、最も大きな問題は、上述の条約内容の遵守規定だ。
アメリカが難色を示したのはまさにそこであり、安倍政権の対中政策の要とも言える。
これに反発したのが中国であり、その恨み節は現在までも続いている。
今回、いち早く中国はCPTPP加盟申請を行なったが、程なくして台湾が加盟申請を行うと表明した。これは中国の逆鱗に触れる結果となったが、実は、中国加盟にあたってはもっと大きな障壁がある。
イギリスだ。イギリスは五輪が終わり、自国でのコロナ対策が次のフレーズに入ったタイミングで待ってましたとばかりにCPTPP加盟申請を表明した。これには中国は反論できない。何故なら香港問題があるからだ。中国は一国二制度の維持の国際的な条約を反故にし、香港からあらゆる自由を奪おうとしている。
南京条約で香港島を割譲するという条件を飲んだイギリスにしてみれば、その後日清戦争を経て一時的に日本統治下にはあったものの、日本の敗戦を機に再びイギリスの植民地として統治を行なったきたのだが、1984年の「英中共同宣言」に泥を塗り、面目を潰された形になった。
これにはイギリスも黙ってはいない。
反中貿易体制の切り札であるCPTPP加盟によって中国に揺さぶりをかけると共に、イギリスも貿易圏拡大に動いた。
そこでCPTPPは加盟国間で同意を得た上で加盟条件をイギリスに丸呑みにさせれば、次に加盟する中国は同じ条件でしか加盟はできなくなる。それは台湾とて同様だ。
中国軍機が頻繁に台湾を牽制する動きを見せているのは、現在の台湾の外交姿勢への牽制だ。
ではそのような国をCPTPP加盟国が許すだろうか?
私はそうは思えない。いずれ自分たちにもその脅しがやってくると分かるからだ。
アメリカは今のところ、経済連携協定いついては加盟の意思を示してはいないが、今のAUKUS、QUADの動きを見ても、環太平洋地域の軍事的なバランスに加え、経済面での各国との連携抜きに中国の軍事的覇権拡大を抑え込むことは困難であり、CPTPP加盟の必要性を実感するに違いない。
習近平は何をしたいのか?
中国共産党は理念的に中華の歴史を振り返った時、広大な大地に多くの民族がいて、常に領土をめぐる内戦を繰り返してきたことで、常に統治のあり方を模索してきたと言えないだろうか?
欧米も国同士が陸続きであったために、山や大河が国同士の隔たりである国境線を形成してきたが、中国は多民族国家の中で最も影響力を持ってきたのが漢民族だった。中華は多くの国が現れては消えてきたが、結局、どのような形で国家を統治して良いのかを模索してきた歴史だろう。
秦の始皇帝が出現し、王ではなく皇による国家の統治の道が開けたのだが、結局、秦も長続きせず、再び、群雄割拠の時代に突入する。
中華の歴史を締め括ったのは、清国の帝による統治の歴史を最後として、その後の中華民国、中華人民共和国の時代で国家を統治する王、皇、帝はいなくなってしまった。
今の中華人民共和国は、イデオロギーによって国家を統治する国になった。
共産主義だ。
毛沢東は中華民国の支配に対し、民衆を蜂起させ労働者による富の偏在が起こらない国家建設を行い、全ての特権階級を排斥し、究極の唯物論で支配された国を作り上げた。
悪名高き文化大革命は、数千万人の命を奪い、民族の歴史、学問、芸術の全てを否定した。
ところがそれによって誕生したのは、共産党員を特権階級とする一般国民からの搾取政治であり、中央政府が地方政府から搾取を行う、発展の道筋の全く見えない世界だ。
一方、近代に入り欧米列強の植民地の歴史を繰り返してきた漢民族中心の中華の民は、国家統治のモデルとしての共産党支配と、中華思想とを結びつけ、鄧小平時代にグローバルな資本主義経済の仕組みを取り入れた経済発展の道を模索することとなり、急激な経済発展の道を切り開いてきた。
それが現在まで続いているのが今の中国だ。
2012年、突如として中国共産党のトップに名前が上がってきた習近平氏は、党内勢力の力学、派閥争いに打ち勝つことによって、中国のトップに君臨することになったが、国際社会では全くと言っていいほど無名状態だった。
習近平は国際社会、西洋文化、欧米の学問のレベルを知らないのだ。
では習近平は何を心のよすがとして、巨大な中国の統治に向かっているのだろうか?
中国の外交政策の柱になっているのが、AIIBと一帯一路政策だ。
現在、AIIBで問題になっているのが、AIIB発足後現実的には6割ほどのプロジェクトしか進行しておらず、金額ベースでも3兆円ほどだ。
名目上、AIIB加盟国は100カ国と公称しているが、実際にAIIBを利用している国は華々しく始まった割には多くはない。これは、既にアフリカで問題になっている、中国マネーによるインフラ整備には人質が必要な点だろう。
中国が債権国になっている途上国は10カ国あるが、いずれも返済に苦慮しており、中国は返済を免除する代わりに、海に面している国であれば港湾使用権を向こう100年間中国に渡すとか、ベネズエラのように中国が持つ債権の2兆円の損失の代わりに、ベネズエラの石油採掘権を中国は希望しているなど、その外交姿勢はAIIB発足当時から指摘されてきた。
そして、一帯一路構想についても、一帯一路により新たなシルクロード構想を打ち出したのは良かったが、それは通り道に当たる国のインフラ整備を行うということで、これをチャイナマネーで行うわけではない。要は関係国からも資金を募り、最終的に中国国内の企業が請け負って、外貨獲得の手段としようとしている。
しかも、アフリカでの途上国支援の美名の下、中国企業が現地人材を採用し、賃金が落ちるようにするのだが、中国企業が現地の下請けを雇う場合、ほとんど奴隷のような扱いをする。しかも、工事関係者として中国人が数多くそれらの国に入り込み、小チャイナタウンを形成する。そうやって少しずつ中国人が途上国に入り込んでいるのだ。
また、大きな問題として北朝鮮が外貨を獲得する手段として、これら中国系のフロント企業が使われているとも言われており、北朝鮮は労働者だけを海外に派遣し、そこから得た収益を北朝鮮労働党の資金にしていると言われている。
北朝鮮は国連決議で制裁対象国となっているため、表向き、他国との経済的な結びつきはできないとされているが、既にスクープされているように、韓国系企業や中国系企業が各国の監視が緩いとされる公海上でいくつかの企業を経由して石油等の資源を買い付けているとされている。
外務省も、日本近海で行われているこれらの違法行為については監視活動を強めており、HP上で情報公開している。
中国は朝鮮半島の統治に関しては、自分たちが宗主国であると考えているのだろう。
つまり、朝鮮半島は中国がなければ国家として立ち行かないくらいの思いがあると考えられる。
それはつまり、資本主義と共産主義の境界線が、アメリカや日本は休戦状態の北緯38度線だと考えているが、中国は尖閣諸島と壱岐対馬がその境界だと考えているし、あるいは沖縄までも取り込もうと考えているかもしれない。
一方、南に向けば南沙諸島の軍島化であり、西に向けばチベット、ウイグルのジェノサイドであり、タリバーンが制圧したアフガニスタンであり、インド国境線だ。
北は今のところロシアとは友好関係にあるが、モンゴルとロシアの国境線がいつ書き換えられるかは、誰にも分からない。
一般的な国際常識から考えれば、これら中国が行なっている事柄は、到底、他国に受け入れられるものではない。ところが、中国の常識は、いや習近平の常識は世界の常識とは違うのだ。
習近平は、留学経験、外交経験が乏しく彼の中の中国は共産党一党支配による統制社会しか知らない。しかも、毛沢東が行なってきたような暴力や人権を無視してでも、国家を統制する計画経済こそが正しいと思い込んでいる。
これは冗談ではなく、本当にそう思っているのだ。
だから、国際社会が見て、考えられないような外交戦略にうって出る。
そして、その習近平を正当化そうとする狙いが、中華思想だ。
この地上を統治するのは中華人民、もっと有り体に言えば漢民族だという間違った思想だ。だから、習近平は中央政府内が一枚岩ではないとか、人民解放軍と共産党は一枚岩ではないと言われていても、一定程度の支持率があるのだ。
ここを押さえていないと、今の中国は理解できないし、逆にこの視点から今の中国の政策を見れば、次の方向性が見えてきやすくなる。