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へたっぴ脅迫文

こんにちは、お元気ですか?

先日、ずっと気になっていたカフェに行きました。こだわりのエスプレッソ技術に、アレンジメニューが豊富なコーヒーショップです。コーヒーフロートを注文すると、漆黒にかがやくオニキスのようなコーヒーにアイスがぽっこり乗ったエレガントな飲み物が運ばれてきました。そのアイスをスプーンですくい、一口食べるとほのかな甘みが広がります。甘味の上品さ、その秘密はモンブランでした。豊かな豆の香りは、ローストされた芳ばしさをまとい、コーヒーフロートに深みを与えます。気品のある甘味とコーヒーの低音のインパクト。そのアンサンブルは格別の体験でした。今度は好きな映画を観た帰りに、寄ってみようと思います。

さて、本題ですが人生というのは複雑怪奇なものでございます。昨日まで正義だと思っていたものが、今日突然ゆるせなくなる。そのようなことがしばしば起こります。真理というものは、永遠に到達できないのかもしれません。今の今まで、わたしはあなたのことを救世主だと思っていました。当然、他人はそれぞれに価値観が違うのですから、あなたのことを悪く言う人もいました。それは、言論の自由です。否定する必要のないことだと思って静観していました。でも、わたしはあなたの発言する内容は、正しいと思っていたんです。周りの人が勘違いをする理由は、きっとあなたの表現があまりにも美し過ぎるだろうからだと。

ご存知だとは思います。腸内環境でも、善玉菌と悪玉菌のバランスが調和してこそ健康でいられるのです。あなたの発言には、悪玉菌が皆無だった。そこに人々は疑問を抱いたのだと思います。それを差し引いても、あなたの発言はすばらしいものでした。あなたの言葉が社会において実現されれば、きっと世界に平和は訪れます。悲しみや苦しみによって慟哭する人も、前を向いて歩きはじめることができたはずです。それくらい、あなたの哲学には誠実さと生命力がありました。

ただ、ここ最近のあなたの言動には違和感を覚える点がいくつか見受けられました。その数も、多くはないけれど決して少なくはありません。しかしながら、あなたを信用していた貯金があったのでしょう。そのいくつかは水に流すことにしていました。ただ、一昨日の発言だけは黙殺するわけにはいきません。何のことについてわたしが言っているのか、おわかりだと思います。いつものようにのらりくらりと自然を装っていますが、あれは“意図的”であったことはわたしにはわかります。いいえ、わたし以外の多くの人も気付いているはずです。あの発言によって、あなたに失望した人はどれほどいるでしょう。そもそも、あなたを懐疑的な思いで見ていた人は、あの発言によってあなたの本来の人格が立証されたと喜んでいるに違いありません。今回のあなたの発言は失敗です。今まで積み上げてきたものをすべて崩してしまった。わたしたちが信じた希望の光に泥を塗った。これはれっきとした大罪です。罪には罰が下されます。

すみません、取り乱しました。少し冷静になります。興奮して、過剰な表現をしてしまったことをおゆるしください。わたしもあなたの敬意を欠いた行為を、発言を、ゆるします。遺憾の意を示しますのみに留めます。つまりは、チャンスを与えるという意味です。

このような機会があなたに与えられなかったとすれば、あなたの発言はエスカレートするでしょう。大人になると、あるいは、社会的な地位が高まれば、誰もあなたに正直なことを言う人はいなくなります。これが最後だと思った方がいい。しかしながら、前向きに考えれば、この機にあなたは本当の人間に、本当の善人に戻ることができる。つまりは、今ならばまだ間に合うということです。

そのためにはSNSのアカウントを消してください。これは警告です。アカウントを消すことで、あなたは一度冷静になるべきです。今は周囲が見えていない状態であることにさえ、気付けていないのではないでしょうか。もし、アカウントを消さなければ、あなたの自宅に火花が散ることになるでしょう。わたしは、あなたの住所を知っています。調べたというわけではなく、あなたはSNSで公開していた過去があるのです。もう一度言います。これは警告です。この要求を受けることができれば、あなたの一番の味方がわたしであることに気付くでしょう。

あなたが人間らしさを取り戻した時、お会いできることを楽しみにしています。



脅迫文にも上手下手があります。このへたっぴな脅迫文。添削すると、

・そもそも長い
・冒頭の挨拶、カフェのくだりは不要
・比喩や形容詞が多い
・何に怒っているのかわからない
・そもそも何を言っているのかわからない
・要の部分である「自宅に火花が散る」という意味がわからない

挙げればキリがないほど修正箇所が出てきます。文章をコミュニケーションと考えるならば、これでは伝わりませんよね。これがあらゆることの比喩になることは、最後まで読んでくれたあなたとわたしだけの秘密です。



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嶋津 / Dialogue designer
「ダイアログジャーニー」と題して、全国を巡り、さまざまなクリエイターをインタビューしています。その活動費に使用させていただきます。対話の魅力を発信するコンテンツとして還元いたします。ご支援、ありがとうございます。