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海に出た。
潮の香り、鷗の声、波のたゆたい。そして風を感じた。ヨットのおもしろさは、風を感じることだ。風を帆に受け止め、一体化して推進する。黙殺するのではなく、防ぐのでもなく、風によって生かされる。受け止めながら進むこの船に愛おしさを感じる。人生は航海に似ている。
シンガーソングライターの広沢タダシさんと撮影した。週に一度オンライン上で開かれる「Night Songs」というライブ。今回は海の上から配信される。これまでの人生について伺い、これからのプロジェクトの報告をし、お互いに詩を詠んだ。そのことばたちは、彼の美しい歌声と綴れ織りとなり、橙に染まる夕陽と共に海へと消えていった。
物語はストーリーではなく、ナラティブなものとしてにぎわいをみせていく。それは〈対話〉を通して、それぞれの人生と紐づく。ぼくはそれらを形にする母胎を「honey-come(ハニカム)」(honeycomb)と名付けた。
蜂の巣の美しさ。
クリアな黄金色の蜜で満たされた部屋が並ぶ六面体。「ハニカム」という言葉もキュートで、思わず口角が上がる。僕たちの関係性も、蜜月でピュアな光を内包していて。月の光に濡れた蜂蜜は美しく、愛する君を呼ぶにはそれ以上に相応しい言葉はないのかもしれないね。星屑を閉じ込めたドンペリニヨン。栓を抜くと上空へ次々と星が流れていく。
正六面体の完全美。まどろみの中で記憶の扉を開く。その夢と現の狭間にミューズは降り立つ。「蜜月」とはよく言ったもので、神秘的な瞬間というのは、月の灯りがよく似合う。女王蜂に捧ぐ、花の蜜を集めて。あるいは、産み落とされる卵の部屋として。
ファム・ファタールにインスピレーションを授かり、黄昏に飛び立つフクロウへの敬愛を込めて。胎の中にハニカムを孕ませる構造を描く。
物語がはじまる。それは大きな一つのストーリーではなく、複数の小さな物語がそれぞれの中で、泡立つように息吹く。
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