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オリジナルテンポ
最近、朝から晩まで文章を書いている。
大きな仕事がひと段落つき、それからいくつか締切のあるものが落ち着いたので、ようやく自分のための文章に取り掛かかりはじめた。仕事の内容を含め、いくつかのインタビューの音声を書き起こしていく。ちまちました作業なのだが、意外と僕は好きだ。鼓膜を叩いた音が、文字としての言葉に形を変えていく。それは楽しい光景だ。声を文字に変えることで、僕は身体的に言葉を理解していく。
Wordのタブを七つくらい開いておいて、一時間ごとに書き起こす内容を変える。飽きないようにするための工夫。調味料などで料理の味を変えるようなもの。一時間目は広告の話、二時間目はコンセプトデザイン、三時間目は会計の話、四時間目はサービスについて、五時間目は哲学講義……というように。僕がインタビューをさせていただく方は全員ユニークな方だから、書き起こしの作業はとにかくおもしろい。気が付いたら十時間が過ぎている。
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言葉は思考
そこで気付くことは、話者の言葉の速さと量について。思考の速度が、言葉を発する速さに現れる。思考の明瞭さが、語彙の豊かさにつながっている。それらの関係性について考えることは非常に興味深い。言語化することがいかに重要かを身をもって感じる。自在に言葉を扱える人は、本当に魅力的だ。それはアスリートの身体性に胸がときめくことに近いかもしれない。
「難解な言葉を使って早口にしゃべればいい」ということではない。本質的な部分を抜き取って、誰もがわかる言葉を使ってゆっくりと話す人もいる。僕たちは言葉でできている。その人が扱う言葉に、「その人」は現れる。考えていること、感じていることを言葉にするという行為は、人間を磨くことにもつながる。そこに強い意志を持って臨めば。
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話術はリズム
話がおもしろい人は漏れなくリズムが良い。話のおもしろさは、言葉の数ではなく、リズムに起因している。空白を言葉で埋めればいいということではない。リズムにはもちろん余白も含まれる。メロディアスな言葉は、聴く者を恍惚とさせる。一瞬の迷いに生まれる「間」に色気を感じる。沈黙で満たされた時間がムードを構築する。とにかく、人それぞれ持ち合わせているリズムは異なるのだが、リズムの心地良い人の話は、聴く者の心を惹きつける。
音楽が文体と大きく関係があるように、「語り」という時間を伴った表現は非常に音楽的である。「語り」に流れる時間をコントロールできる人間はオリジナルテンポを持っている。それは聴く者のプリミティブな快楽を呼び起こす。
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様々な言葉とリズムを受けながら、それを一つずつ文字に置き換えていく。
とても楽しい作業だ。「仕事のため」というよりは、僕はこの地道な行為を「人生のため」に続けていきたい。
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![嶋津 / Dialogue designer](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/79360429/profile_8d593d6a08f92a4b857cb3ba2536bc3a.jpeg?width=600&crop=1:1,smart)