いくつになっても生まれた日というのはおめでたいもので。今年もその日がやってきました。仲間が集まって、あなたがこの世界にやってきたことを祝います。あなたの愛する母親の胎の中で、いのちの鼓動がはじまり、それが今も続いている。そんな奇跡に胸がいっぱいになります。
ぼくと出会ったのは、あなたの鼓動が鳴りはじめてから何回目の心音を打った頃でしょうか。別々の場所で鳴り続けていた鼓動は、いつしか同じ場所で、互いに調和しはじめました。重なり合うように、あるいは、呼応するように。
家にいる時も、お出かけする時も、仕事の時も、眠る時も。ずっと一緒に、鼓動するぼくとあなたのいのち。
それは、とても愛おしい響きで。
あなたの音色がぼくの人生に加わったおかげで、生きることがゆたかになりました。ミモザの小さな花びらがたちまちにひらいたような笑い声も、ローズマリーのような淑やかな寝息も、ライラックのような涙も。すべてが生活の彩りとなる。
二つの鼓動はユニゾンして、一つの音色を奏でる。
完璧じゃなくてもいい。
間違っていてもいい。
失敗してもいい。
ごめんねってあやまって、しょうがないってゆるして。
二人で前に進めばいい。
完璧じゃないほうがいい。
間違ったほうがいい。
二人でたくさん失敗したい。
わらいとばして、ささえあって。
二人で前に進めばいい。
うまくいく人の条件は、失敗をたくさん経験した人。とことん間違ったけれど、あきらめずに前に進み続けた人。何度も何度も工夫することをやめなかった人。こころに希望の光を秘めた人。勇気のある人。
きっとぼくたちはうまくいく気がします。正直になり過ぎて、損をすることもあるけれど。正直だったからこそ、出会えた人もいる。
何も言わなくても、わかることがある。
あなたの鼓動と共に過ごしてきたから。誰よりも近くであなたを見てきたから。あなたの強さも、弱さも、すべてを肯定して。誰よりも大切に想い、誰よりも尊敬します。
生まれてきてくれて、ぼくは本当に幸せです。あなたの鼓動と共に、これからも人生を奏でていきたい。それがぼくの最大の楽しみです。ずっと笑顔で、ずっと健やかに。
お誕生日、おめでとう。
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あなたの一番好きな詩は、ぼくたち二人を映しているようで。いつでも美しく、胸に響きます。
二人が睦まじくいるためには
愚かでいるほうがいい
立派すぎないほうがいい
立派すぎることは
長持ちしないことだと気付いているほうがいい
完璧をめざさないほうがいい
完璧なんて不自然なことだと
うそぶいているほうがいい
二人のうちどちらかが
ふざけているほうがいい
ずっこけているほうがいい
互いに非難することがあっても
非難できる資格が自分にあったかどうか
あとで 疑わしくなるほうがいい
正しいことを言うときは
相手を傷つけやすいものだと
気付いているほうがいい
立派でありたいとか
正しくありたいとかいう
無理な緊張には 色目を使わず
ゆったり ゆたかに
光を浴びているほうがいい
健康で 風に吹かれながら
生きていることのなつかしさに
ふと 胸が熱くなる
そんな日があってもいい
そして なぜ胸が熱くなるのか
黙っていても
二人にはわかるものであってほしい
〈祝婚歌:吉野弘〉