見出し画像

浄化の朝、掃除の夜

朝のさんぽはいい。

朝陽が全身を浄化してくれる。穢れを落とし、守りながら、清めてくれる感覚。本当に“浄化”ということばが相応しい。太陽の宿す特別な力なのだけど、それは日の出から数時間しかその恩恵にあずかることはできない。やわらかで、あたたかい、ひかりのローブ。わたしの一日の幸福は、幾千ものひかりの束に包まれるところからはじまる。

オンラインで打ち合わせをいくつか。ウィルスによるパンデミック以降、オンラインでの仕事が一般化された。とても便利な世の中だ。進捗状況を共有したり、意見を出したり確認し合ったりする分にはこれほど手軽なものはない。ただ、殊にインタビューとなると圧倒的に情報が足りない。インタビューは単純なことばのやりとりではない。フィジカルなものだから。

すてきなお声がけが二つ届く。「あなたとプロジェクトを共にしたい」という想いは有難いもの。それが好きな人からならより一層のこと。仕事は、好きな人に会うための最高の理由付けかもしれない。

作業中、ふとトム(ビション・フリーゼ)のことを思い出す。

それは今日に限ったことではなく、毎日のように生活の営みの中で突然訪れる。わたしにとって昨年の最大の出来事は、トムが天国へ召されたことだ。妻と出会った時、彼女が飼っていた犬で、わたしとトムがすぐに打ち解けた。おそらく好きな人が同じだったので気が合ったのだろう。たくさんの思い出を共につくり、感情を共有し、労わり合い、23年間の生涯を終えた。信頼ある葬儀屋の方に供養してもらった。火葬場にいるわたしは瞼が海となり、ただそこに立ち尽くすのがやっとのことで、トムの体は煙となって空へ消えていった。

あらためて、彼について書きたいが、まだ書くことができないでいる。原稿を書きながら、ふと彼の気配を感じる。あくびをしているようでも、こちらを見つめているようでも、静かに寝息を立てているようでもいて。その度に、わたしの胸にぽっかりと空いた穴に風が抜けてゆくのがわかる。そして、わたしは彼をこころの底から愛していたのだと気付くのである。

仕事が一段落つくと、Mo(L)istenを開いた。

何も考えずに立ち上げ、くつくつと煮込んだ鍋に気泡が浮かび上がるように、頭に浮かぶあれこれをことばにしてゆく。そのうちに、聴いてくれる人から質問が届き、それに答えてゆく時間となった。対話のこと、聴くことについて。そのとりとめのない話が、未来のインスピレーションになる。

夜は、義父宅の掃除に行った。義父は入院の只中にいるのだが、申請すれば外出ができるほどに身体は回復した。日常生活の訓練という意味でも、そろそろ帰宅しようという話になり、そのための準備を整えるために妻と彼女の親友とわたしの三人で掃除に行った。新しいベッドの位置の確保、新しいカーテンを下し、部屋のあかりも明るいものに換え、要らないものは捨てる。

夜中過ぎまで三人で作業した。

およそ半年ぶりに帰宅する義父。今までに義父が半年もの間、家を空けることはなかったし、家もまた半年もの間、家主に空けられたことはなかった。両者の再会は、どのような気持ちになのだろうか。考えただけでもわくわくする。



いいなと思ったら応援しよう!

嶋津 / Dialogue designer
「ダイアログジャーニー」と題して、全国を巡り、さまざまなクリエイターをインタビューしています。その活動費に使用させていただきます。対話の魅力を発信するコンテンツとして還元いたします。ご支援、ありがとうございます。