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それぞれ独特の楽器で、音色を奏でる
明け方、ベッドの上で本を読んだり、記事に目を通したり、動画を見ながらインタビューのための質問を錬る。
早々にホテルをチェックアウトし、銀座線で新橋へ。赤ん坊の動画に実況する「実況ベイビー」で話題のアナウンサーであり実業家の原田修佑さんにインタビュー。テレビ東京でのアナウンサー時代、毎日が受験勉強のように仕事の下準備をしていた話に胸を打たれる。ワールドビジネスサテライトでは数々の起業家、経済人へ、パラリンピックに代表されるスポーツ実況番組ではさまざまなアスリートへインタビューを重ねてきた原田さん。アナウンサーの仕事の九割は下準備だと話した。瞳のかがやきと説得力に胸を打たれる。
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子育てのこと、奥さまと仲睦まじい関係性のヒント、家族の在り方、起業家としての精神。流石プロフェッショナルのアナウンサー、ことばを収斂して、的確かつ適切に問いに対して答えてゆく。聴き手のエキスパートであるからこそ、わたしの意図も、インタビューの撮れ高も汲みながら進めてくださる。何度か「あぁ、そのことについてはまだ言語化したことがなかったです」と色っぽい思考の時間が流れた。そのひとときも流れの中にあるやりとりもすべてが刺激的で。対話の最後には「こうやって引き出してもらえてとてもうれしかったです」と言ってくださった。
普段、聴き手の人は己の新たな一面、まだことばになっていない曖昧な想いや思考に輪郭を与えるきっかけを待ち望んでいるのだろう。それこそが対話やインタビューのおもしろさでもある。
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昼下がり、表参道へ。
sio AOYAMAで料理人の鳥羽周作さんへインタビュー。初対面から突き抜けた明るさでわたしたちを迎えてくれた。鳥羽さんのライフヒストリーを伺いながら著書『モテる仕事論』を深掘りする。こよなく繊細で、情熱的で、コンセプチュアルな鳥羽さんの在り方。その秘密の花園の中へ踏み込んでゆくようなインタビューとなった。
建築、音楽、ファッション、映画、アート……料理だけでなく、さまざまなカルチャーに造詣が深く、さらには鮮やかに世の中とのコミュニケーションをデザインする。ヴァージル・アブローやファレル・ウィリアムスに似た思考と空気を彷彿させたわたしの中の不思議が、対話の中で静かに腑に落ちていった。愛と想像力に満ちた、すごくおもしろい人。
ニューヨークの現代アーティスト、タイレル・ウィンストンのバスケットボールの作品が展示された空間。そこにいるだけで、気分が高まり、心地良くなる体験。そこでの対話は贅沢だった。
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渋谷の宮下公園でコーヒーを飲みながら、原稿を書く。ベイクドチーズケーキのおいしさにはっとする。
品川で新幹線に乗り、その車内で二日分の日記を綴る。人は一人ひとり声色も、語り口も、リズムも、すべて異なる。それぞれ独特の楽器で、音色を奏でる。対話は音楽のセッション。すばらしい。そして、楽しい。わたしは幸福だ。
あっという間の東京。インタビューがわたしを遠くへ連れて行き、さまざまな人と会わせてくれる。インタビューへの感謝の想いはしとどにあふれるばかりだ。
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