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妻は人気者
妻は人気者だ。
いろんな人からお声がかかる。彼女と話していると、心労が癒され、新しい発想が浮かび、生命力で満たされる。だからみんな、彼女のことが好きになる。「占い師に向いているよ」と言うと、彼女は笑って取り合わないのだが、幾分かジョークでありつつも八割以上は本気でそう思っている。
それはそれでいいのだが、問題がある。共に時間を過ごした後、その中の数人は、彼女に執着するようになる。妻にとっての“特別な存在”になりたがるのだ。カジュアルに言えば、“親友”のような。
彼女に悩みを打ち明け、今度は彼女の悩みを知ろうとする。「わたしがあなたの一番の理解者なの」という気分になりたいのだ。それが一人、二人ではなくって、何人もいるものだから相手はヤキモキしたりする。
そして、みな口を揃えて「あなたのこころを苦しめるものから解放させてあげたい」と語りはじめるのだ。大上段に構え、そんなことを言うものだからおっかなびっくりである。そのことばが、その情熱が、その膨らませた小鼻が、妻に負担をかけているとは微塵も疑わない。なぜなら、「わたしこそがあなたの一番の理解者だ」と盲信しているからだ。
それも全て同性で、彼女たちはライバルを牽制し合う。妻がその中の誰か一人と仲良くしていると、あからさまに不機嫌になり、ライバルに対して陰湿な攻撃をはじめる。そのことがまた妻を困らせていることを、彼女たちは露ほども想像しない。
これは、彼女と出会ってからずっとそうなのだ。聞けば、学生時代から似た状況が途切れることなく継続しているという。そういう意味では、妻にも原因はあるのかもしれない。女性を狂わせてしまう“何か”がきっと。不思議なのは、全員が「彼女の一番の親友になれる」と信じていることだ。最大の理解者であろうとする。
決して妻が思わせぶりな態度をとっているわけではない(わたしはいつもそばで彼女の振る舞いを見ているのだ!)。どちらかというと、適度な距離を置いている。きっとそれがまた、“一番の理解者”たちのこころをもどかしくさせるのだろう。詰めようとしても、離れられる。離れてみても、追ってこない。“あわい”がなかなか埋まらない。
きっと、“一番の理解者”たちは妻に恋をしているのだ。人気者も大変である。
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