見出し画像

1000文字の手紙〈篭田雪江さん〉

『ゆなさん』を拝見してから一年。「教養のエチュード賞」全ての回に作品を応募してくださり、ありがとうございます。

今作は第一作とのゆるやかなつながりがあり、輪郭のはっきりとした結び目があるわけではない分、奥行きと広がりを感じました。第一作では心の機微を繊細に、そして瑞々しく描き、そのやわらかさと激しさのタッチに心を奪われました。今作は鬼気迫るものを感じます。人物たちの感情や行動は静かであるにも関わらず、「激しさ」が鮮烈に伝わってくる。凪いだ感情の底で、渦が激流を起こしている。とても不思議です。

「静」によって「動」を表現している。たまげました。もちろん第一作も好きです(何せ賞を贈らせてもらったくらいですから)。でも、今回は次元が違う。この一年で篭田さんに何があったのでしょうか。こんなことを言うのは偉そうで申し訳ないのですが、書き手として段違いに成長している。

誤解が起きるかもしれないので、慎重に書いていこうと思います。きっと多くの人は『ゆなさん』の方が好きだと思います。きらきらしているし、わかりやすい。ドラマティックでもある。でも、ぼくは今作の方が好きです。日常を淡々と描き、加奈の感情の起伏を「行動だけで」描いている。複雑なんです。割り切れない想いで雁字搦めなんです。でも、それを受け入れざるを得ないから、日常なんです。その日常のささくれ、ほんの少しの起伏に、嗚咽するほど胸が痛み、絶望し、それでも寄り添う二人に「生」の尊さと残酷さを同時に感じるんです。そこには文学がある。

『ゆなさん』や篭田さんが他に書く作品よりも、もしかするとこの作品を読む人の数は少ないかもしれません。途中で挫けてしまう人も中にはいるでしょう。それは仕方がないことだと思います。その理由は感想を言語化できないから。淡々と書かれているのに、感情が複雑で。それを整理できなくて途中で逃げ出したくなってしまう。だからこそ「すごい」のだと僕は心底思います。この作品にも、作者である篭田さんにも、最上の敬意を込めてこの手紙を書いています。

人生はいろんなことが起きます。それはいつも突然やってくる。今日までずっと文章を書いていても、次の日には「書かない」という決断を選ぶことだってある。それくらい、人生は頼りがないものだと思っています。どうかこれからも書き続けてください。シンプルに言えば、それだけが伝えたかったのかもしれません。

すばらしい作品を届けてくださり、ありがとうございました。



いいなと思ったら応援しよう!

嶋津 / Dialogue designer
「ダイアログジャーニー」と題して、全国を巡り、さまざまなクリエイターをインタビューしています。その活動費に使用させていただきます。対話の魅力を発信するコンテンツとして還元いたします。ご支援、ありがとうございます。