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鳥羽周作さん
今回の『ダイアログ・ジャーニー』では、料理人の鳥羽周作さんにインタビューをしました。
レストラン「sio AOYAMA」にお伺いすると、生命力に満ちた声と笑顔で迎えてくれました。「この度は、お忙しい中ありがとうございます」とお伝えすると、鳥羽さんは明るく「こちらこそ、僕にお話する機会をありがとうございます」と言って、わたしたち夫婦を見て「お二人、今日はベージュですね」と楽しそうに微笑みました。その色が指すものは、わたしのセーターと妻のトレーナーでした。徹底してこちらに気を遣わせない朗らかなムード。今思えば、あそこから既に鳥羽さんの「おいしい空気」は調理がはじまっていたのだと思います。
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インタビューがはじまります。
わたしが関心を抱いていたのは、鳥羽さんの美意識と世界との関わり方。料理も、ファッションも、空間づくりも、細部まで行き届いたセンス。高級なだけがラグジュアリーではない。エレガンスとストリートの融合と言いますか、洗練された中に絶妙なラフ感を落とし込む。その揺らぎがセクシーなわけなのですが、それをいとも軽やかに楽しみながら設えている。粋の塩梅です。メディアに映る「おもしろさ」の向こう側には、教養の香りがプンプンと漂っていました。
実際に、インタビューの中で鳥羽さんは料理だけでなく、器、ファッション、音楽、建築……とハイカルチャーからストリートカルチャー、サブカルチャーまで造詣が深いディレッタントであることがわかります。それらの感覚と教養すべては、お客さまに料理を楽しんでもらうためのエッセンス。「おいしい」は皿の内側に収まるだけの話ではなく、一つひとつの会話、おもてなし、空間づくりの細部まで緻密に設計されていることがわかります。まさに、『モテる仕事論』です。
中でも、「デザインとセンス」の話はきわめてロジカルに構築されていました。クリエイティビティのヒントをここまで出し惜しみなく話してくださる鳥羽さんに脱帽です。料理の世界だけでなく、あらゆる分野のクリエイターやビジネスマンが活用できる貴重なマインドの在り方がここにあります。
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そして、世界との関わり方について。
内側にある衝動やアイデアを、わくわくするような形で、なめらかに広くへ届ける鳥羽さんのコミュニケーション。わたしは、インタビューがはじまる前までは鳥羽さんのアーティスティックな部分を世界に向けて翻訳する能力が異常に優れているためだと仮説していました。
さにあらず。鳥羽さんは自身の仕事の在り方について「究極のクライアントワークである」と断言しました。自分が手掛ける料理は、自己表現のアートではなく、あくまでもお客さまに喜んでいただくための技術なのだ、と。どこまでも一対一のコミュニケーションとして、相手の好みを観察・研究して、パーソナルな最適解を届けているのです。
その中で、鳥羽さんはビートルズの話を紹介します。「彼らはもっと専門性の高い音楽をつくる技術があるのにも関わらず、大衆に喜ばれる音楽を“あえて”つくっている」と言います。ミシュランの星付きのシェフが、ユーモアを交えながらTwitterやYouTubeでアレンジレシピを公開する。まさにビートルズのマインドとつながっています。
そして、それはすべて「幸せの分母を増やす」という鳥羽さん自身のモットーから生まれていることがわかります。閉じられた世界できわめて限定的な高い技術を発揮するよりも、世界の幸福が増える方法に対してクリエイティビティを発揮する。
鳥羽さんのことばは、最初から最後まで一貫していました。
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インタビュー終わりに一枚。
およそ60分の対話の旅は、休む間もなく刺激的で、鮮やかで、やさしいものでした。「こんな熱量の高いインタビューは久しぶり」と仰ってくださり、わたしも光栄でした。濃厚でなめらかな「愛と想像力」のことばの数々をありがとうございました。
ぜひ、本編の鳥羽さんのお話をご覧ください。
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