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第三回教養のエチュード賞 結果発表

あなただけ今晩は、ダイアログ・デザイナーの嶋津です。

文章によるコンテスト「第三回教養のエチュード賞」の結果発表をいたします。はじめに、ご応募いただいたみなさま、そして、サポートしてくださったみなさまへこころより感謝申し上げます。169作品、すべて読ませていただきました。

発表の前の、
長い前書き。

今回「1000文字の手紙」と題して、すべての応募作品に感想を添えて送ることを決めました。本日は、天赦日と一粒万倍日と寅の日が重なる「最上の吉日」と言われています。2021年で最も幸運な日に、教養のエチュード賞をお贈りできればと思い、発表の日に選びました。関わっていただいたみなさまに、幸運が訪れますよう祈りを込めて。

このコンテストを通して、または「1000文字の手紙」を通して、参加していただいたみなさまとより深い対話ができたことをとてもうれしく思っています。真剣に書いてくださった分、ぼくも真剣に読んでいます。バカみたいな話ですが、すべての作品を十回以上読んでいます。一度目は流れるように、二度目は味わうように、三度目は歯ごたえを楽しみながら……。読めば読むほど、そこに書かれたことばが磨かれてゆき、それはやがてひかりはじめます。そして、ある瞬間に、書かれていない「何か」が浮き上がってくるのです。ぼくはその「ことばではないもの」と対話をはじめます。それはきっと、書き手の声なのだと思います。

あくまでもそれはぼくの空想の話で。もしかすると、それは「もう一人の〈ぼく〉との対話」なのかもしれません。ですが、「1000文字の手紙」を送った後に、驚くようなお返事が届くことも一度や二度ではありませんでした。人によっては、ぼくの書いた手紙に涙を流してくれた人もいます。わざわざぼくの文章を印刷してくれた人もいれば、手書きで紙に写してくださった人もいます。SNSで何度もシェアしてくれた人もいました。「お返事のお返事」として、ぼく宛てに感想を書いて送ってくれた人も。

それは、より深いところで、〈ぼく〉と〈あなた〉が手を取り合えた証ではないでしょうか。その歓びを味わった時、全身の毛が逆立つ体験をした時、それを〈あなた〉と共有できた時、ことばになり得ない感情が生まれた時、ぼくは「このために、このコンテストをしているんだ」と気付きました。ぼくは「教養のエチュード賞」を通して、〈対話〉について学んでいるのだと。それほどまでに、ぼくの元に届いた手紙(作品)は、〈ぼく〉という一人の人間に大きな影響を与えてくれています。

実は、まだすべての作品に「1000文字の手紙」を送ることはできていません。とても個人的な理由なのですが、今年に入り仕事の数も、そのスケールも変化しはじめました。以前が「時間に余裕があった」というわけではないのですが、現在は「時間に余裕がない日」が続いております。一通一通「こなす」ように手早く手紙を書いて送ることも可能なのでしょうが、それをしてしまうとぼくがやっていることの意味、「教養のエチュード賞」の意味がなくなってしまう。そのような葛藤を抱えたまま瞬く間に日々が過ぎてゆきました。

そこで、「最上の吉日」に発表の日を委ねることを決意しました。というのも、グランプリの作品は早くから決まっていたからです。全ての作品を読み終えた時に、迷うことなく、「この作品だ」と。驚くほど高い文章力の人、物語を紡ぐ力のある人、自身の人生を削るようにして生々しい感情をことばにする人、ぼくよりずっと聡明な人、ウィットに富んだ人、豊かな愛をことばにのせる人、いろいろな書き手がいました。数々の渾身の作品が並びました。

その中で、最も「教養のエチュード賞」を贈りたいと思わせてくれる作品。

【結果発表】

▷教養のエチュード賞(一名)   82,500円

▷プリマドンナ賞(一名)     僕によるインタビュー記事

※今回は各一名ずつの、計二名です


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◆教養のエチュード賞◆

▷『拝啓 20年前の私へ』
kyriさん

驚いたことがあります。それは、読みはじめた時のぼくと、読み終えた時のぼくは、同一人物ではないような気になったからです。

「1000文字の手紙」の中で、ぼくはこのように書きました。ぼくの想いは、この二行に尽きます。kyriさんの作品を通して、読みはじめの〈ぼく〉と、読み終えた〈ぼく〉が別の人間になったような感覚になりました。そのような体験は、なかなか起こることではありません。そのような力が、この作品にはありました。そして、それを形にするKyriさんという書き手の力。

ぼくはこれまで三回分の「教養のエチュード賞」を通して、気付いたことがあります。それは、〝書かずにはいられない〟人の文章に惹かれるということです。「これを書こう」「あれを書こう」「このように書こう」「あのように書こう」、書き手にはそれぞれの思惑があります。「今回は、このように書いてみました」という冷静かつ、チャーミングな人の文章が多い中、たまに「これを書かざるをえませんでした」という人の文章と出会うことがあります。それらの文章には理性を超えたところで、何かを突き動かす力が宿っています。独特のフローと言いますか、特別な求心力が、ことばの連なりからあふれている。

そういう人の文章は、だいたいわかるものです。紛れもなくkyriさんもその一人で。今までもずっと文章を書いてきただろうし、これからもずっと書いてゆく人なのだろうと思います。ご自身の理想とする世界の基準で、ことばと対峙し、収斂を繰り返してきた蓄積が、色気となって一つひとつの文章から醸される。物語の内容はもちろんのこと、そのような文章と出会えた歓びは一入です。

kyriさんの作品は言うまでもなく素敵でした。何より、これから先の、彼女が書く文章をもっと読んでみたい。そう思わせていただきました。この賞が、kyriさんの今後の創作へのギフトになることを祈ります。

ぜひ、みなさんも受賞作を読んでみてください。




◆プリマドンナ賞◆

▷『寺が燃える』
山羊メイルさん

ぼく、この作品大好きなんです。すごいですよね。何がって、この小説には事実しか書いていないんです。「事実」というのは、物語の中の「事実」のこと。「~だと思う」とか「~のような気がした」なんて一つもないんです。淡々と連なる情景描写とセリフがリズムを生み、グルーヴが浮き上がってくる。その「揺らぎ」の中に、大事なものが見えてくる。それは「感じる」という表現の方が正しい気がします。頭の中に描かれる光景の中で、五感や感情が湧き立ってゆく。

普通はね、その湧き立つ感覚や感情をことばにしたくなってしまうんです。一つひとつ説明するように。それらをすべて省いて、読み手のこころの中で想起される〝きっかけ〟に徹してる。すごいですよね。

「書かれていない感覚」を立ち上げるために、事実を淡々と書き続けるんです。それも、ただ書くだけではダメで、グルーヴを生まなければ引き出されないことをメイルさんはよく知っている。それは本当に「音楽」を演奏するように、リズミカルに、メロディアスに、ハーモニーを築いていく。

きっと、この文章を読んでもわからない人には何のことだかさっぱりわからないと思うのですが、メイルさんには深いところまでわかっていただけていると思います。その小説の構造が一つ。それから、物語の中に潜ませた秘密。それは意図的に設計されていて、上品に隠してあります。その品性と知性に惹かれ、一度お話を聴いてみたいと思い、プリマドンナを贈らせていただくことを決めました。

小説や創作についての話をお伺いしたいです。山羊メイルさん、どうぞよろしくお願いいたします。



***


以上で、第三回教養のエチュード賞の結果発表を終えます。ご参加いただいたみなさま、あらためてどうもありがとうございました。たくさんの新しい「好き」を発見することができました。

このコンテストに応募する人の多くは〝書かずにはいられない〟人たちなのだということがわかりました。ここで一つひとつの作品を紹介したいほど、質が高く、熱量を感じました。それは本当に「ぼく宛の手紙」として、書いてくださったのだと思います。書かずにはいられない人たちが、ぼくに届けてくれた手紙たち。そこに優劣はなく、どれも愛おしいぼくの宝物です。この文章は、〝書かずにはいられない〟そんなあなたに向けて書いています。

これで終わりではありません。「1000文字の手紙」はこれからも続きます。最後までお付き合いいただけるとうれしいです。ぼくも真剣に手紙を書きます。

最上の吉日に発表できたことを、何よりうれしく思います。みなさまに、幸運が訪れますよう。

それではまた、お会いしましょう!


最後に、この賞にサポートしてくださったみなさんの名前をご紹介させていただきます。こころより感謝申し上げます。

▼Special Thanks▼

逆佐亭裕らくさん 500円
七屋糸さん 500円
サトウカエデさん 500円
たけのこさん 500円
千羽はるさん 500円
E.V.ジュニアさん 500円
ふみぐら社さん 5000円
ナースあさみさん 2000円
たなかともこ@みかんせい人さん 3000円
フクイチさん 500円
マリナ油森さん 500円
安野ニツカさん 500円
タカーシーさん 300円
森本しおりさん 1000円
深澤佑介/yusuke fukazawaさん 300円
塩梅かもめさん 100円
武田ヒ歌さん 500円
Jun Ikematsu / 池松潤さん 300円
松本 侃士さん 1000円
世界史の鳩さん 1000円
百瀬七海さん 500円
サトウ・レンさん 1000円
だいすーけさん 500円
湖嶋いてらさん 1000円
ゆきのすず(中島祐貴子)さん 2000円
verdeさん 1000円
ayamoさん 1000円
三上裕喜さん 1000円
椎名トキ/都基トキヲさん  100円
い~のさん 100円
Lumberさん 1000円
下司 智津惠|Geshi Chizue/月と流星群さん 1000円
ルミさん 500円
み・カミーノさん 500円
ベルさん 500円
蔦縁 ヨウ(ツタヨリ ヨウ)さん 300円
匿名希望さん 1000円
ととさん 500円
岩代ゆいさん 10,000円
kaoruさん 500円
ささいな笹さん 500円
碧月はるさん 1000円
間詰ちひろさん 1000円
teapotさん 500円
匿名希望さん 2000円
ゆっこさん 300円
クニミユキさん 500円
イトウミツルさん 1200円
うめがきたねさん 500円
小川牧乃さん 1000円
こんちゃん 1000円
ワタナベアニさん 10,000円
浅生鴨さん 10,000円




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嶋津 / Dialogue designer
「ダイアログジャーニー」と題して、全国を巡り、さまざまなクリエイターをインタビューしています。その活動費に使用させていただきます。対話の魅力を発信するコンテンツとして還元いたします。ご支援、ありがとうございます。