シュプリーム・ドーン
夜明け前に起きて、仕事をする。
まだ世界が暗闇に包まれている中、カタカタと打ち込むキーボード。水槽の水が循環する音とタイピングの音だけが部屋で呼吸している。気持ちがいい。集中できて、仕事がはかどる。
空が明るんできた頃、そっと玄関の扉をひらき、朝日を浴びに出る。素足にサンダル。ひやりとした足裏に血が巡る。五色の空が移ろってゆき、トパーズのような光の束がちりちりと肌を焼いてゆく。ふわりとなでるように、低温で。
最高だな。これを習慣にしようか。早朝に重要なあれこれは終わらせて、光合成した後にコーヒーをドリップする。たとえば、「一日」がショートケーキだとしたら、この時間はホイップの上のストロベリーだ。至福の甘美。
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本日は、立て続けにインタビューの仕事。
職業柄、さまざまな分野の第一線で活躍する人にお話を聴く。彼ら(彼女ら)の人生には共通して“寝ずに働いた数年間”がある(もしくは、いまだに寝ていない)。傍から見れば、それは努力に見えるが、当人たちは軽やかにその状況を受け入れている。ある種、楽しんでいるようにも見える。
あえて苦労話を粒立てることはしないが、そういった時間が確実に存在したことは事実だ。その濃密で、厳粛な数年間が未来をつくる。できる人にはできるだろうし、できない人にはできないのだろう。そういうことを“才能”と呼ぶのかもしれない。
『ONE PIECE』の作者、尾田栄一郎さんのことばを採集。思った通りになるのだそうで。「しんどいだろうな」と思うと、しんどくなるのだそうで。こころから「楽しいだろうな」と思えると、本当に楽しい時間になるのだそうで。
きっとみんな仕事が好きで。それは“努力”ではなく、“夢中”に入り込んでいるだけなのだろう。あの人はファッション、あの人はデザイン、あの人は建築、あの人は料理、あの人はSNS……わたしにとって、それは対話なのかもしれない。そこには“努力”はない。こよなく無垢に、世界の秘密を知りたいだけなのだ。
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毎日、短歌を詠んでいる。
全然まだ馴染んでいない。新しい玩具を与えられた猿みたいに、握ったり、撫でたり、投げたりしているだけ。一旦すべてヌルイことばを出し切りたい。そこでようやく、次に進める気がする。くだらないアイデアでも臆病にならずに発言できる会議室みたいな空間を、タイムライン上につくりたい。
エチュード。仕事の“マジメ”で凝った身体をほぐす。もっと自由にことばと遊ぶ。これは、頭と、心と、身体を癒して柔らかくするエチュード。
今月のテーマは、「心地良さ」と「夢中」と「遊び」。難しいなりに、楽しんでいるのである。