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同性婚についての違憲判決のメモ 判決文の読解に役立つことを願って その3


上の2つの記事の続きです。

10 憲法24条に違反しないことについて(第3の2)

<問>婚姻をするについての自由が同性間にも及ぶか
 ※ 「婚姻をするについての自由」=婚姻をするかどうか、いつ誰と結婚するかについての自由のこと。これにより、配偶者の相続権や夫婦間の子が嫡出子となることなど重要な法律上の効果が与えられる。

<解>
婚姻をするについての自由は異性婚について及ぶ
→ 本件規定が同性婚を認めていないことは憲法24条1項及び2項に違反していない

<理由>
①歴史的背景
②憲法の制定経緯
③文言が「両性」「夫婦」という異性同士を想起させる文言を用いている

11 憲法13条に違反しないことについて(第3の2)

憲法24条1項は裁量権の限界を画したもの
→ 憲法24条1項によって婚姻及び家族に関する特定の制度を求める権利が保障されているとは解せられない
→ 同性婚 = 婚姻及び家族に関する事項

憲法24条1項の趣旨 = いつ誰と婚姻するかについて当事者間の自由かつ平等な意思決定にゆだねられるべきという趣旨

よって、包括的な人権規定である憲法13条によって、同性婚を含む同性間の婚姻及び家族に関する特定の制度を求める権利が保障されていると解することはできない。

実質的にも、同性婚の場合は、異性婚の場合とは異なる身分関係や法的的地位を生じさせることを検討する必要がある部分もある

12 憲法14条1項に違反することについて(第3の3)

 12の記載においてはこの判決文にとって最重要な個所であることもあり、判決文から私が読み取ったものを付記したいと思います。付記する際には(付記)などと記載し、区別できるよう工夫しますが、読みやすさも大事にしたいと思っています。可能な限り批判的に読んでもらえると助かります。
 また、付記された内容の正確性については担保されていないので、その点ご容赦ください。

12-1 判断基準

<一般的な基準>
憲法14条は合理的な根拠に基づくものでない限り、法的な差別的取り扱いを禁止する趣旨
((付記) 合理的な根拠を有する区別であれば取扱いに差があっても憲法14条に違反しないという判断基準を示している) 

<基準を緩める方向の事情>
立法府は、同性間の婚姻及び家族に関する事項を定めるについて広範な立法裁量

<基準を厳しくする方向の事情>
同性愛は、意思で決定・変更できない
→性的指向は、自らの意思に関わらず決定される

以上を踏まえ、判決文ではかなり厳しい基準が示された。

人の意思によって選択・変更できない事柄に基づく区別取扱いが合理的根拠を有するか否かの検討は、その立法事実の有無・内容、立法目的、制約される法的利益の内容などに照らして真にやむを得ない区別取扱いであるか否かの観点から慎重にされなければならない。

12-2 比較対象(本件区別取扱い)

異性愛者のカップルは、婚姻することにより「婚姻することによって生じる法的効果」を享受するか、婚姻せずそのような法的効果を受けないかを選択できる

同性愛者のカップルは、婚姻を欲したとしても婚姻することができず、婚姻によって生じる法的効果を享受することができない

※ 「婚姻によって生じる法的効果」
 ・新戸籍の編製(戸籍法16条1項)等の戸籍による婚姻した男女や子の身分関係の公証
 ・同居の親族の扶け合い(民法730条)
 ・夫婦間の夫婦財産制(民法755条)
 ・夫婦相互の同居・協力・扶助義務(民法752条)
 ・夫婦の子に関する嫡出の推定(民法772条)
 ・親権(民法818条)
 ・配偶者の相続権(民法890条)
etc


 まとめると


「婚姻とは、婚姻当事者及びその家族の身分関係を形成し、戸籍によってその身分関係が公証され、その身分に応じた種々の権利義務を伴う法的地位が付与されるという、身分関係と結びついた複合的な法律効果を同時又は異時に生じさせる法律行為である」

12-3 本件区別取扱いにより生じる不利益(本件区別取扱いによって、重要な利益を享受できなくなっていること)

人の意思によって選択・変更できない事柄に基づく区別取扱いが合理的根拠を有するか否かの検討は、その立法事実の有無・内容、立法目的、制約される法的利益の内容などに照らして真にやむを得ない区別取扱いであるか否かの観点から慎重にされなければならない。

(付記)上記判断基準の「制約される法的利益の内容」を検討している

<問1>
婚姻することにより婚姻によって生じる法的効果を享受することは法的利益か((付記)法的利益とは法律で保護するべき利益のことを指していると思われる。)
<答1>
法的利益
<理由1>
①明治民法から一貫して婚姻という制度が維持
②諸外国と比較しても、婚姻率が高く、婚姻外で生まれる嫡出でない子の割合は低い
③国民の意識 婚姻をすることに肯定的な意見が過半数を大きく上回っている
④内閣の認識 法律婚を尊重する意識が国民の間に幅広く浸透
⑤事実上婚姻関係と同様の事情にある者に対しては、婚姻している者と同様の権利義務を付与することが法技術的には可能であるにもかかわらず、なお婚姻という制度が維持されている

<問2>
婚姻によって生じる法的利益を享受する利益は、重要な利益か
<答2>
(異性愛者にとって)重要な法的利益
<理由>
憲法24条が法的利益の実現のための婚姻を制度として保証

<問3>
婚姻によって生じる法的利益を享受する利益は同性愛者と異性愛者で等しく享有し得るものか
<答3>
等しく享有し得るもの
<理由3>
異性愛者と同性愛者の差異は、性的指向が異なることのみ
性的指向は人の意思によって選択・変更できるものではない

12-4 立法事実

・同性愛が精神疾患であることを前提として同性婚を否定した科学的、医学的根拠は失われた


・性的指向による区別取扱いを解消する国民意識が高まっており、今後もそのような国民意識は高まり続けるであろうこと
※ 認定の根拠となる事実
①登録パートナーシップ制度を導入する地方公共団体が増加
②同性婚を法律によって認めるべきとの国民の意見の増加(特に若い世代において肯定的意見が多い)
③同性愛者のカップルに何らかの法的保証が認められるべきだとの意見に肯定的な回答が75%
④LGBTに対する基本方針を策定する企業の増加

・諸外国の動向(特にG7参加国等の先進国)

12-5 本件区別取扱いの検討

・本件規定の重要な目的の一つは、(子の有無、子をつくる意思・能力の有無にかかわらず、)夫婦の共同生活自体の保護
 この目的は正当である。
 しかし、同性愛者のカップルに対し、婚姻によって生じる法的効果の一切を享受し得ないものとする理由にならない。
 なぜならば、婚姻の本質は、両性が永続的な精神的及び肉体的結合を目的として真摯な意思をもって共同生活を営むことにある。
 異性愛と同性愛の差異は性的指向の違いのみ
 よって同性愛者であっても、その性的指向と合致する同性との間で婚姻している異性同士と同様、婚姻の本質を伴った共同生活を営むことができる。

・本件規定が同性愛者が異性愛者と同様に婚姻の本質を伴った共同生活を営んでいる場合に、これに対する一切の法的保護を否定する趣旨・目的まで有するものと解するのは相当ではない
 なぜなら、、仮にそのように解したときには、本件規定は誤った知見に基づいて同性愛者の利益を否定する規定と解さざるを得なくなるから。

・(たしかに)立法府は、同性婚に対する否定的な意見や価値観を有する国民が少なからずいることを斟酌することができる。
(しかし)圧倒的多数派である異性愛者の理解又は許容がなければ、同性愛者のカップルは、重要な法的利益である婚姻によって生じる法的効果を享受する利益の一部であってもこれを受け得ないとすることは、同性愛者の保護にあまりにも欠ける。

よって

同性愛者に対して、婚姻によって生じる法的効果の一部であってもこれを享受する法的手段を提供しないことを合理的とみるか否かの検討の場面においては、(同性婚に対する否定的な意見等は)限定的に斟酌されるべきものといわざるを得ない。

12-6 区別取扱いに合理的根拠がないこと

同性愛者に対しては、婚姻によって生じる法的効果の一部ですらもこれを享受する法的手段が提供されていない。
→ 本件区別取扱いに合理的根拠を欠いている
→ 本件区別取扱いは差別取扱い
→ 上記の限度で憲法14条1項に違反する。

13 国家賠償法1条1項の適用上違法でないことについて(第3の4)

・判断基準
 法律の規定が憲法上保証され又は保護されている権利・利益を合理的な理由なく制約するものとして憲法の規定に違反するものであることが明白であるにもかかわらず、
 国会が正当な理由なく長期にわたってその改廃等の立法措置を怠る場合

→国家賠償法1条1項の適用上違法の評価を受ける。

・本件については
①国民意識の多数が同性婚又は同性愛者のカップルに対する法的保護に肯定的になったのは比較的近時のこと
②同性愛者のカップルに対し、婚姻によって生じる法的効果を付与する法的手段は多種多様
③同性婚や同性愛者のカップルに対する法的保護に否定的な意見や価値観を有する国民は少なからず存在
④昭和22年民法改正以後、現在に至るまで、同性婚に関する制度がないことの合憲性についての司法判断が示されたことがなかった

→国会において本件規定が憲法14条1項に反する状態に至っていたことについて、国会において直ちに認識することは用意ではなかった。

→国会が正当な理由なく長期にわたって改廃等の立法措置を怠っていたと評価することはできない

→本件規定を改廃していないことが、国家賠償法1条1項の適用上違法の評価を受けるものではない

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