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下剤が効かない!? 便秘症例に対する薬学的アプローチ

いつもありがとうございます!
山口竜太です。

薬剤師、ノンテクエヴァンジェリスト、イベンター、一児のパパなどしてます。
肩書きはメディカルアーティストです。
唯一無二の肩書きで、世界を変えたいとか言っています。

『超解!症例発表!』というマガジンを作成しました。
ここには、これまで私が経験した症例、また今経験している症例を書き留めていこうと思います!

ではいってみましょう!


便秘の報告あり

在宅患者であるSさんの訪問時「便秘が最近ひどんいんです」と報告を受けた。
報告者は看護師。
Sさんの日常のケアをしている方からだ。
はてさて、どうしたものか?

便秘は在宅現場で多い症例。
反対の下痢を含めた、排便異常という観点で言えば、全員が何かしら問題を抱えていると言っても過言ではない。
そんな頻発する症例であるが、その原因や解決策は千差万別。
そんな症例に対して薬学的アプローチで解決に挑んだ症例。


基本情報

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看護師から便秘の報告がありアプローチが始まった。

便の様子はとにかく硬便。
カチカチの石ころのような便が出る。

そのため、医師は下記処方をきった。

酸化マグネシウム錠330mg 3錠
 分3毎食後

便秘に対する処方で最もよくあるものの1つだ。


効果はいかに!?

服用開始から1週間後、便秘がどうなったかSさんの元へ行き確認した。

山口「Sさん、お通じはいかがですか?」
Sさん「全然あかんわ。ずっと糞詰まりや。」
山口「そうですか。。。」

効果なし!
まったく排便状態に変化はなかった。
はてさて、どうしたものか。
看護師に確認しても、相変わらずのカチカチ硬便。

この状況、あなたなら次はどうする?

酸化マグネシウムを増量する?
別の薬に変えると?追加する?
それとも、諦める?

諦めるなんてことは誰もしないだろうが、私はこれらとはまったく異なるアプローチをとった。


なぜ効かない?そもそも酸化マグネシウムはどうやって効く?

医師が処方した酸化マグネシウムの量は決して少なくない。
まだ増量する余地はあるが、その前に考えなくてはならいことがある。

なんでこの量で変化ないの?

完全に便秘が治らなくとも、この量なら少しは変化があっていいはず。
まったく状況が変わらないということは、何かあるはずだ。

そこで、まず酸化マグネシウムの作用機序、どうやって便秘に効くのかを確認する。

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酸化マグネシウム(MgO)はそのままでは効果を発揮しない。

薬効を示す形にまで化学反応を起こさないといけない。

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最終生成物である、炭酸水素マグネシウムが薬効を示す。
が、実はこれ自身が便秘を治すわけでもない。

炭酸水素マグネシウムの役割は、難吸収性の性質により腸管内の浸透圧をあげ腸内に水分を引っ張ること。すると、腸内に水分が増えることで、便にも水分が含まれる。
それにより、便が柔らかくなり、便秘が治るという仕組みだ。

そう、便を柔らかくして便秘を治している正体は水なのだ。

Sさんは便を柔らかくするに足るだけの水分をそもそも摂取できていなかったのだ。

だから、いくら酸化マグネシウムを服用しようが、便秘が治るはずもないのだ。


便秘解消のその先に

ところで、私はSさんが水分不足なことは事前に把握していた。
酸化マグネシウムの作用機序も知っていた。

つまり、酸化マグネシウムが効かないことは最初からわかっていたのだ。

下剤にもいろいろな種類がある。
水分による方法以外で便秘に効く下剤もある。

しかし、私はあえて酸化マグネシウムでという医師の処方をそのままSさんに渡した。

その理由にこそ、本症例の肝がある。

山口「Sさん、水飲んでますか?」
Sさん「なんでや?」
山口「Sさん今だいたい1日に500mLぐらいしか飲んでないでしょ。ペットボトル1本分ぐらい。」
Sさん「まぁだいたいそんなもんやな。」
山口「Sさんぐらいやったら1日に1000mLは水欲しいですよ。あとペットボトルもう1本飲んで欲しい。今飲んでもらってるお通じのお薬は、水がないと効きません。水もうちょい飲みましょ。」

ここに私は持って行きたかったのだ。

水分不足による脱水は高齢者に非常に多い。
脱水による発熱や、体力低下による食欲低下、免疫低下による肺炎などがあり、高齢者に水分摂取を促すことは重要。
しかし、実際はなかなか飲水量は増えない。

身体が冷えるからとか、夜間のトイレが気になるからと、様々な理由で高齢者は飲水を控えてしまう。
ほとんどの場合、「今は平気だから、これで大丈夫だ」と考えてしまっている。

Sさんも同様だった。

以前より、水分不足が問題になっていた。
私も会うたびに水分摂取を促すが、全然改善されていなかった。
そんな折に、今回の便秘の問題が出た。

私は「これはチャンスだ!」と考えた。

便秘は本人も困っている。
なんとかしたいと考えている。
自覚症状のある困りごとには行動変容をもたらし易い。

便秘を解消するだけではなく、この方の脱水のリスクも軽減したい。

これが本症例の本質になる。


薬剤の目的は?

薬剤にはそれぞれ効能・効果がある。
酸化マグネシウムであれば、便秘解消がそれだ。
薬剤の目的はもちろん、その効能・効果により問題、困りごとを解決にすることにある。
だが、本質はそこではない。

便秘を解消することで、健康になりたい

そこにこそ本質があるはずだ。
そのために、私たち医療者はいて、その専門性を発揮しているはずだ。

薬剤の作用だけでなく、その先の患者の、Sさんの生活をみることができた症例であった。

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