暮らす街について
最近、頭の片隅でずっと考えていることがある。それは、自分が「暮らす街」についてだ。2019年に自身の会社を設立したことや、2020年から始まったコロナ騒動を通して得た経験や考えをもとに、自分の「暮らす街」とその暮らし方を改めて考えている。
生まれてから大学卒業までの23年間を京都市北区で過ごした。特に都会でも田舎でもないけど、住んでいたところからはいつも山が見えた。自転車で少し走れば田んぼや畑が広がる景色を見ることもでき、近くには加茂川という美しい川が流れている。子供の頃からこの加茂川でたくさん遊び、スポーツをしたり誰かと語り合ったり、いくつもの思い出が記憶に残っている。今でも仕事などで京都へ行くことがあると、ついつい加茂川(鴨川)を通れるような導線を選んで行動してしまう癖がある。自分にとっては世界一のパワースポットなんじゃないかと思うくらいに、その近くに行くだけで清々しい気持ちにさせてくれる場所である。
大学卒業後は大阪の会社に就職したこともあり、仕事と生活を円滑に回すべくという目的はもちろん、一人暮らしへの憧れもあり早々に大阪市西区の阿波座という街へ移り住んだ。今思えばなんであんなところを選んだのだろうと思うくらい、高速道路の騒音がうるさくてボロい1Rのアパートを借りた。とは言え、当時は仕事をしてるか遊んでいるかだけだったので、住む部屋や街には何もこだわりはなかった。ただ寝に帰るだけの部屋。二晩でも余裕で徹夜できる二十代の強靭な身体には、シャワーとベッドがあって家賃が安ければそれだけで十分だった。
30歳になった頃、突然「暮らし」を考えるようになった。ちょうど仕事でも大きな案件をたくさん扱わせていただくようになった頃で、サラリーマンとして日々のモチベーションアップのためにも、なるべく整った良い環境で暮らしたいと思うようになった。そこで、大阪市中央区の谷町という街へ引っ越した。不動産屋さんに案内された部屋は、ちょうど1ヶ月前に新築されたばかりのマンションで、正直自分のいただいている給料では簡単に住めるレベルの部屋ではなかった。ただ、内覧した時に見た部屋からの眺めが最高すぎて「ま、いっか」と。お金はなんとかなるだろうという根拠なき謎の自信にも後押しされて即契約した。住んでみて気づいたことではあるが、谷町という街は本当に最高だった。立地的にも大阪城や真田丸などの歴史的な情緒が色濃く溢れ、飲食を筆頭に様々な新しいカルチャーも柔軟に受け入れている。新旧が美しく融合し、とても良い空気の流れる街だった。京都に住んでた頃以来、久しぶりに「街」の心地良さを感じれる暮らしを営むことになった。
今でも相変わらずお気に入りの谷町に住んでいるのだが、ここ最近なんとなく引っ越したいなという気持ちが湧いてくるようになった。今のままでもなんの不自由はなく、ただの気分転換がその最大の理由ではあるが、不安定なご時世を生きる自分にとって最も気持ち良く過ごすための場所や空間はどこなのかを考えていた。会社のオフィスは大阪市内に構えているので、まずは大阪市内の賃貸物件情報を調べてみた。しかし、なかなか住みたい街が見つからない。やはり、引っ越すからには今住んでいる環境を超えて、新たなベストと出会いたいと思うのが当然である。でも、谷町を愛しすぎた自分にとっては、物件云々以前に大阪で新たに住みたいと思う街がいくら探しても見つからなかった。
自分にとっての新たなベストがなかなか見つからず、正直「ま、いっか」となっていた頃、お仕事の関係で京都・北白川方面を訪れることがあった。時間に余裕があったので、久しぶりに駅から目的地までしっかり歩いてみた。どこからでも山が見え、加茂川はいつもと変わらず流れている。大好きな景色を見ながらピンと冷たく澄んだ空気の中をブラブラ歩いていると、突然頭の中で「京都に住めば?」と閃いた。
「京都で暮らす」という考えに自分が至らなかったのは、「大阪で仕事をしているから大阪に住むのが当たり前」という固定概念に無意識に縛られていたからだと思う。大好きな仕事をさせていただいているので、ある程度「仕事軸」で物事を考えていくことはとても大事なことであることは間違いないし、いただけるお仕事やチャンスは絶対に集中して成果を出したい。しかし、「暮らし」までも「仕事軸」に寄せすぎる必要はないと感じている。「健やかで心地良い暮らしがあるからこそ仕事も良くなる」というように、「仕事軸」という考え方を「暮らし軸」という考え方へ変えてみたくなった。
2020年はコロナによって、様々な気付きがもたらされたと感じている。特に心や身体の健康状態や自然との向き合い方などである。ステイホーム期間中の不安で憂鬱な毎日に、ただ太陽を浴びることがどれだけ大切なことなのかにも気が付いた。そして、自然の中での適度な運動や、安全でヘルシーな食事が身体の礎を築いている。そんなことを考えるようになると、果たして今まで通りに月曜日から金曜日まで、日本人らしく毎日勤勉に働くことが本当に正しいことなのか?毎日決められた時間に決められた場所で働くことが本当にクリエイティビティに繋がるのか?これまで世の中で当たり前とされていた「働き方」にも疑問を感じるようになった。もっと自分のご機嫌を取りながら働いてみるのも良いんじゃないだろうか?と。
リモートワークが推奨され、ノマドワークなどもどんどん当たり前になり、本質的な意味でのフリーアドレスが導入される時代。自ずと「暮らす街」も今までより自由な選択が可能になってくるはずである。当然、週の何日間かは「必ずここにいないといけない」という日はあるが、そうでもない日は賀茂川の河川敷でデスクワークやリモート会議をしてても良いはずである。川の流れや風を感じながら、オフィスのデスクにいるよりも仕事が捗ることもあるだろうし、クリエイティビティの高い仕事もできるかもしれない。そして、京都だけにこだわる必要も無いわけで。その時の気分の赴くままに沖縄や北海道、さらには海外にだって暮らしの拠点を移すことだってできるはずである。一度住んでみて「違うな」と思えば元に戻せば良い。自身のタイミングで必要な環境を求めて様々な街に移り住むなんてことができればそれ以上に豊かなことはないと思う。そんな自由を手に入れるためにもお仕事とは真摯に向き合って、自分と自分の会社に関わってくださる方々とは丁寧にお付き合いをしていかなきゃいけないなと思う。
もう少しコロナの影響が落ち着き、ある程度お仕事ができる状況が戻ってくるようになれば、まずは京都移住(加茂川の近く)を当面の目標にしてみようかと思っている。15年間離れたからこそ、また新たな京都の魅力を発見できる視点は持ち合わせているはずである。今回ばかりは「ま、いっか」とはならないように、今後の移住に向けての行動など、たまーにnoteに綴ってみようかと思う。