最低賃金引き上げに関する記事がだいたい的外れな件①
先日、2023年度の最低時給額が決まり、全国平均で1,000円を超えることが決定しました。
その後、岸田首相は2030年代半ばまでに最低時給の全国平均1,500円を目指すことを明言しました。
1,000円というのは以前からの目標値であり、これを達成したら中小企業経営者に配慮して、数年間引き上げの凍結や、引き上げ幅の大幅縮小をするのではという懸念の声が少なからずありました。
そういった懸念を晴らすために明言したものと思われます。
仮に2035年に1,500円を達成するためには、毎年40円程度の引き上げが必要であり、今後は毎年、今年程度の引き上げが行われることになります。
(一年ごとに、そのときの時給額に対して40円の割合は小さくなるので、引き上げのインパクト、影響は毎年小さくなっていきます)
しかし、これらの政府方針に対して、いくつかの経済記事が出ていますが、はっきり言って的外れなものが多いです。具体的には、
・時給が上がると、中小零細企業が人手不足で倒産して失業者が大量発生する
・時給が上がると、低スキルの労働者は失業する
・時給が上がると、業務委託が増えて、むしろ低賃金化する
・時給が上がると、自動化・ロボット化が促進され、結果失業者増加
こういった内容はすべて、ミクロ経済(日本国内)だけの観点であり、関連要素の多くを無視しています。
なので、今回この記事を書きました。
最低時給の大幅(と言ってもマクロ経済で見れば大幅ではない)な引き上げがどう影響するのか、なぜ1,500円を目標にしたのかを書いていきます。
そもそも何故時給を引き上げるのか?
最近読んだ記事には、「時給は自然と引きあがるのが望ましい」という結論がありました。これは半分正しく、半分誤りです。
そもそも企業は資源を安く買いたいので、労働力もできるだけ質が高く安い労働力を求めます。
そして労働者もまた、給与だけを基準に仕事を選ぶわけではありません。それこそ憧れの仕事に就けるなら、お金なんていらない!なんて人もいます。
しかし、そうやって無料、もしくは安い賃金で働かれると経済は成長しなくなり、いろいろな弊害が生まれます。
そのため、資本主義国はもとより、共産主義でさえ、最低時給を設けているわけです。そして最低時給の引き上げは立派な財政政策であり、少なくとも自然な賃金引き上げがこの30年間起きていない日本では、最低時給の引き上げはむしろ遅いくらいです。
そして、時給が安い弊害は何なのか。
経済は成長していくことが前提であり、常に物やサービスの値段は上がっていくことが前提です。(それが30年間起きていない日本が異常なわけですが…)
そのため、賃金も一緒に上がっていかないと自然と貧乏になってしまうので、時給も上がるように国は様々な施策を打ちます。
しかし、日本では賃金は上がりませんでした。さらに言えば、上がらないのに税金は増えるので、相対的に貧乏になっていきました。
反面、世界各国は順調に経済成長したため、物やサービスの値段、そして賃金は上がり続けています。
日本は資源の多くを海外に依存しています。具体的には、
・エネルギー資源のほとんど
日本は発電に使う資源のほぼすべてを輸入しています。主に、ウラン、石油、天然ガス、石炭。そのため、資源の値段が上がっていることは、電気の値段や、電気を使って製造するすべての商品の値段が上がることを意味しています。
・食料品
日本の食料の多くは輸入品です。また農業で使う肥料、畜産の餌となる飼料も多くが輸入品です。
・金属類
製品を作るための鉄や非鉄金属、レアメタルなども多くが輸入品です。
このように、生きるのに必要な物から、産業に必要な物まで、その多くを日本は輸入に頼っています。(というか、日本国内で完全自給自足できる物がほとんどない)
そのため、日本、そして日本人は生きていくためにも、物を必要なだけ買うためのお金を稼がないといけないのです。
時給が上がると、失業者は増えるのでは?
時給が上がると良くないことが起きるという記事は多いですが、果たしてそうでしょうか?
事実として、この数年間で大幅に最低時給は引きあがっており、コンビニや飲食店、スーパーなどでは、アルバイトの時給は大きく上がっています。
では、それらのお店は潰れているでしょうか?
時給が上がって、多くの人はクビになったでしょうか?
現実はそうなっていません。それどころか、さらに人手不足は深刻化しています。
確かに最低時給の引き上げに伴い、企業は自動化を進めています。レジもセルフレジになり、無人化コンビニも少しずつ増えています。
ファミリーレストランなどでは、ロボットが配膳し、受付も機械化されています。しかし、それでも人手不足は解消するどころか深刻化しています。
これは、日本の労働力減少がそういった省人化を上回る速度で進んでいるからです。
まとめ
今回はここまでとします。
次回の記事では、時給の引き上げに伴い、潰れる中小零細企業が増えることについて言及したいと思います。
また次の記事もよろしくお願いいたします。