【恋愛小説】不純愛 第3章「揺らめく境界」 第11話「二人の境界が溶けるとき」
一話はこちらから
https://note.com/ryosugihara/n/n9346ecc6b696
前話はこちらから
https://note.com/ryosugihara/n/nc20237090a59
時が過ぎるにつれて、まなみは少しずつ心を開き、私たちの間には穏やかな信頼が育まれていった。
いつしか彼女が私を頼ることが当たり前になり、私も彼女が帰る場所でありたいと思うようになっていた。
まるで家族のような存在に思えつつも、心の奥底で、家族を越えた別の感情が芽生えているのを密かに感じていた。
ある夜、リビングで静かにお茶を飲んでいると、まなみがふと視線を落としながらぽつりと呟いた。
「リカさん、前にも聞いたけど、どうして…こんなに優しくしてくれるの?」
不意を突かれたその問いに胸がざわつき、言葉を探すように目を逸らした。
どうして彼女に優しくするのか、自分でも答えがわからない。
ただ彼女を守りたくて、傍にいて欲しくて──そうした思いを抱えていることが無性に恥ずかしく感じられた。
「まなみを見てるとね、私の昔を思い出すんだよ」
とやっとの思いで告げた。
「私も誰にも頼れなくて、自分の居場所が見つからなくて…君にはそんな孤独を味わってほしくないんだ」
まなみは私の言葉に頷き、そっと私の手に自分の手を重ねた。
彼女の小さな温もりが伝わってきて、私は息を飲んだ。互いに黙り込みながらも、その沈黙が心地よく、ただ静かに時が流れるのを感じていた。
ふいに目が合い、まなみのまっすぐな視線に胸が高鳴る。彼女が不安げに唇をかすかに震わせ、再び問いかけてきた。
「リカさんって、本当は誰かに愛されたこと、あるんですか?」
その問いに動揺が広がる。
私は答えに窮し、口を開きかけて閉じた。
「…愛されたかどうか、わからない。自分でも愛が何なのか、よくわからないから」
「じゃあ、私といるのも…同じ?」
「いや、違う。君といるときだけ、私は…自分が素直になれる気がする」
まなみが少し戸惑いながら、それでも何かを決意したように私を見つめ返す。そして、声を小さくして囁いた。
「リカさんに、もっと近づいてもいいですか?」
彼女のその言葉に応えるように、私は無意識に彼女の頬に手を伸ばしていた。
その柔らかな感触が指先に伝わり、まなみの頬がかすかに赤く染まるのが見えた。
二人の間に微かな緊張が漂う。
「リカさん、私…」
彼女が小さく私の名前を呼んだその声に、胸の奥で押さえてきた想いが一気に溢れ出した。
私も彼女も、互いに家族の温もりを知らないまま育ってきた。
「まなみ…」
私は彼女の目を見つめ、そっと彼女の頬に触れた。
彼女がわずかに驚き、瞳を閉じた。
ためらいながらもゆっくりと顔を近づけ、私たちの唇が静かに触れ合った。
初めはそっと、柔らかく触れるだけだったが、その一瞬に二人の想いが溶け合うかのように、次第に深く求め合うようなキスへと変わっていった。
互いの呼吸が混ざり合い、言葉では表せない感情が二人の間に流れていた。
過去の傷や痛み、そして不安が、彼女との温もりの中で溶けて消え去るように思えた。
「リカさん…」
唇を離した瞬間、彼女が小さな声で私を呼び、手を伸ばしてくれた。
彼女の手が私の背中に回り、私も彼女の小さな体を包み込むように抱きしめた。
「まなみがそばにいてくれるだけで、私は救われるんだ」
と、私の心の奥底から出た本音が零れた。
「私も…リカさんがいないとダメなんです」
彼女が抱きしめ返してくれたその瞬間、胸の中でこみ上げてくるものがあり、目を閉じてその温もりに浸った。
朝の薄明かりが差し込む頃、私は彼女が隣で眠るのを見つめ、心が満たされているのを感じた。
まなみがゆっくりと目を開け、私を見て微笑む。
「まなみ、昨夜のこと…後悔してない?」
少しの不安とともに尋ねると、まなみは微笑みながら私を見つめ返して「リカさんは?」と問いかけた。
「後悔なんてしてないよ。まなみがここにいてくれるだけで、私は救われてるんだ」と伝えると、彼女はそっと私の手を握り返し、静かに微笑んだ。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?