【恋愛小説】不純愛 第2章「心の行方」 第6話「再会」
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新宿駅近くの小さなカフェに足を踏み入れると、奥の席に座るまなみの姿が見えた。
彼女はコートをきゅっと抱き寄せるようにして、寒さをしのぐかのように小さく身を縮めている。
ふと彼女が顔を上げ、私に気づいたとき、一瞬だけ安心したように微笑んだが、その表情はすぐに消えて、いつもの不安げな顔に戻ってしまった。
まなみのその微妙な表情に、心の奥が少しだけ軋んだように感じる。
私は静かに彼女の向かいの席に腰を下ろし、二人の間にぎこちない沈黙が漂った。
コーヒーの香りが、少し重たく空気を満たしている。
何を話せばいいのか、一瞬迷っていると、まなみが視線を下げて、小さな声でぽつりとつぶやいた。
「昨日は、急に消えてごめんなさい…」
その言葉が静かなカフェにぽつりと落ちた瞬間、私の中で何かが揺らいだ。
何が彼女をそんなふうに追い詰めていたのか、彼女が何を感じ、何を思って消えたのかを知りたかった。
でも、私がすぐに返したのはごくあっさりとした言葉だった。
「いいのよ」
そう言って微笑んでみせたが、本当は、その一言の奥に潜んでいる理由が知りたくてたまらなかった。
一瞬の沈黙の後、まなみは再び私を見つめ、言いにくそうに口を開いた。
「リカさんって、なんで…そんなに優しいのに、どこか遠い感じがするんですか?」
その問いが、私の心の奥深くを静かに突き刺した。
まなみの視線には、私の中の真実を探り出そうとするような鋭さがあった。
彼女に嘘をつきたくなかった。
でも、私の中の闇や過去を全て見せることに、どこかで抵抗があった。
「どうして…か」
口を開いたが、言葉がすぐには続かない。
言いかけて、私は一瞬言葉を飲み込んだ。
何をどう伝えれば、この不安定な瞬間を壊さずに済むのだろうか。
けれど、彼女のまっすぐな目が私に答えを待っているのを感じたその時、私は過去の自分をふと重ねていた。
「私も、誰かに本音を打ち明けられなかった時期があったの」
自分でも思いがけない言葉が出て、驚いた。
まなみも驚いたように顔を上げる。
私の過去のどれくらいを話せばいいのか、その一瞬の間に思いを巡らせながら続けた。
「誰かに寄りかかるって、意外と難しいことなんだよ。特にね、ずっと誰にも頼らず生きてきた人間にとっては…」
まなみがその言葉にじっと耳を傾けているのを感じ、少しだけ胸が締め付けられるようだった。
彼女が私に対して抱いているのは信頼なのか、それともまた別の感情なのか。
その瞳の奥には、自分にだけ見せている何かが隠されているように感じた。
「…でも、私もいつか…誰かを信じてみたいと思ってる」
その言葉を口にした瞬間、まなみの顔にかすかな微笑みが浮かんだ。
だけど、すぐに目を伏せ、彼女は小さな声で囁くように言った。
「リカさん、私…あなたに会えて、本当によかったって思ってるんです」
その告白が、心の奥深くに響く。
彼女の中にある迷いや不安、孤独。
私もその全てを受け止めてあげたいと思う一方で、私自身もまた、この関係に自分がどこまで踏み込んでいいのかを測りかねていた。
静かに流れる夜の空気の中、私たちはそれ以上何も言葉を交わさなかった。
だけど、言葉以上のものが二人の間に漂っているのが分かる。
私の心には、彼女への感情が確かなものになっていくのを感じていた。
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