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【恋愛小説】不純愛 第5章「不純愛」 第21話「不純愛」(終)

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時は流れ、私は結婚し、平穏な家庭を築いている。

毎日の食卓にはパートナーと共に過ごす安定した時間があり、穏やかな会話が心を落ち着かせてくれる。

お互いに寄り添い合い、支え合い、日常を重ねていく幸福がここにはある。

そのぬくもりは決して嘘ではなく、私はそんな日々に心から安らぎを感じているはずだった。

けれど、ある夜、ふとした瞬間に、その穏やかな生活の中で心が揺らぐことがあった。

夜更け、リビングで一人、静かに揺れるカーテンの影を眺めていると、遠い過去の記憶が不意に胸をよぎる。

あの夜のまなみの柔らかな声や、彼女が隣でそっと見せてくれた照れたような笑顔、そして私たちだけの小さな秘密であった数々の瞬間。

それらが今でも鮮やかに蘇ってきて、心の奥がひどく締めつけられる。

まなみとの日々は、「禁じられた愛」だった。

あの愛は誰にも祝福されず、世間に理解されることもなかった。

それでも、彼女との時間はただの「過ち」などではなく、私にとって何にも代えがたい「真実の愛」だった。

世間の目を気にすることもなく、偽りのないまっすぐな気持ちで、ただ彼女だけを見つめていられたあの日々。

私は彼女の隣で、人生で初めて「純粋な愛」を知ったのだと気づく。

当時の私は、ただ無邪気に彼女を愛し、彼女もまた私を頼りにしてくれていた。

誰かに許されることも、理解されることもない関係だったからこそ、その愛は私たちの心の奥深くで燃え上がり、孤独な二人を強く結びつけた。

まなみと交わした言葉の一つひとつ、ふとした仕草や夜更けの語らい。それらのすべてが今でも私の心の中で輝いている。

夫婦としての生活は決して悪くない。
むしろ、どれほど幸せかもしれない。

けれど、まなみと過ごしたあの日々と比べると、この平穏な幸福にはどこか物足りなさがつきまとうことに気づく。

あの激しい感情の高まりや、互いの存在が切実に求め合っていた瞬間は、今では遠く手の届かない幻のように思える。

まなみがいなくなった

「君のいない世界」

は、いつからか私にとって生ぬるい現実になってしまったのかもしれない。

ふと、あの日の記憶にそっと触れたくなり、机の引き出しから、まなみが残してくれた小さなノートを取り出す。

擦り切れた表紙を開くと、彼女の文字で綴られた「リカさんと私」という言葉が目に飛び込んでくる。

ページをめくるたびに、二人だけの秘密の思い出が一つひとつ鮮やかに蘇る。

今のぬくもりとは違う、何か心を抉るような熱い感情が胸に広がっていく。

まなみと過ごした日々は、まるで短い青春のようだった。

束の間の一瞬だったけれど、その一瞬に詰まっていたものは私の人生のすべてと言ってもいいほどだった。

誰にも知られず、理解されることもない中で交わした愛こそが、私にとって「真実の愛」だったのだと、今さらながらにはっきりとわかる。

今の夫婦生活に安らぎがないわけではないし、その安らぎが私の人生の支えとなっているのも確かだ。

しかし、まなみとの日々には、その安らぎをはるかに超える激しさと純粋さがあった。

あの愛は、「不純」であったからこそ、美しく、何ものにも代えがたい価値を持っていたのだ。

ノートを閉じ、私は深く息をつく。

まなみと交わしたあの不完全な日々は、私の心の奥底に、永遠に消えることのない「不純な純愛」として刻まれている。

もう二度と戻ることのない青春だったけれど、その愛は今でも私の中で色褪せずに燃え続けている。

まなみとの記憶に浸りながら、私は静かに夜の闇に溶け込んでいった。

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