盗聴器を探してほしいと頼まれたときは
「自宅に盗聴器と盗撮カメラが仕掛けられているので捜索してほしい」
探偵社には統合失調症の方からのこのような相談は以前から多くある。
統合失調症の症状のひとつに、『誰かに監視されている、見張られているような感覚』があるので、盗聴器や盗撮カメラが自宅などに仕掛けられていると思い込み、探偵社へ相談するのだろう。
警察へ相談する方もおられるが、警察へ相談しても「盗聴・盗撮されている証拠が無いと警察は動けないので、まずは探偵社に相談してみたら」と体よく断るので、最終的には探偵社へ相談する形になる。
残念なことに、そうした相談を受ける探偵社の中には盗聴器・盗撮カメラの知識がほとんどない者もいる。盗聴器の種類や捜索機材の知識は多少あっても、電波の特徴と性質を全く理解していない。
もっと残念なことは、知識もない探偵社が、「盗聴・盗撮・電磁波攻撃でお困りの方へ」という宣伝をホームページで広告して、統合失調症の方をカモにしていることだ。
このコラムを執筆するにあたって、盗聴器捜索を行っている探偵社のホームページを見てみたが、あまりにもでたらめな内容ばかりで目まいがした。盗聴器捜索専門の業者もホームページも不安を煽る文言が満載で辟易する。
テレビでも盗聴器の特集がされると、さも沢山付いているような話をする。テレビの影響力は絶大で、盗聴をされていると不安に思っている人がそうした番組を観ると、不安が確信に変わってしまう。インターネット上では疑心暗鬼が倍増してしまう内容ばかりなので、さらにタチが悪い。
一般の人が盗聴・盗撮の正しい知識に辿りつくのはかなり難しいのが現状だのだ。
盗聴・盗撮の被害に遭っている気がして、家族に相談しても、「気のせい」「考えすぎだ」と相手にしてくれない。その為、時間ばかりが経過して、心が疑心で満ち溢れていく。そうすると、この被害から救ってくれるのは家族ではなく探偵社だと思い込み、ネットで見つけた悪徳探偵社に相談してしまう。結果、大金を取られるだけのカモにされ、不安を解消されないままなので、状況がますます酷くなる。
そこで今回は、統合失調症の方から「盗聴器・盗撮カメラの捜索を探偵社に依頼したい」と相談されたとき、ご家族の皆さんはどのような対応をしたら良いかお伝えしたいと思う。
■盗聴器・盗撮カメラの電波の特徴と性質
まず、盗聴器・盗撮カメラで使用される電波の特徴と性質を簡単に説明させていただく。
① 電波は壁抜けはできない。
光も電波も電磁波の一種で、電磁波はその周波数の相違により電波、マイクロ波、赤外線、可視光線(ふつうの光)、紫外線、X線、ガンマ線などに類別される。
壁やドアの材質にもよるが、光が通過する物は電波も通過し、光が通過しない物は電波も通過しない。
② 周波数が「低い」場合の特徴と性質
周波数は、低くなるにつれ「波」の性質になる。波の性質は、障害物に当たっても回り込みながら電波が進んで行くので、室内に取り付けられた場合でも、壁やドアがあっても回り込みの性質で外まで電波が届く。
ただし、周波数が低いと載せられる情報量は少なくなるので、あまり低い周波数では、音質が悪くなり会話が聞き取れない。
③ 周波数が「高い」場合の特徴と性質
周波数は、高くなれば「光」の性質になる。光の性質となると電波は直進に進むので、障害物があれば遮断されてしまう。室内に取り付けられた場合は、壁やドアがあると直進型の性質のため、電波が遮断され外まで届かない。
ただし、周波数が高いと載せられる情報量は多くなるので、音声もクリアに聞こえる。
盗聴器は音声情報だけなので、盗撮映像の情報と比べると情報量は少ない。
あまり低い周波数では音質に影響するし、回り込みの性質も必要となるので、盗聴器で使用されるのは70MHz~450MHz辺りの周波数となる。回り込みの性質もあるので、障害物があったとしても、電波到達距離は200~300mくらいはある。
一方、盗撮カメラは映像情報なので、盗聴器の音声情報と比べると情報量は多い。
盗聴器で使われている周波数では情報が載せ切れない。音声情報と比べて高い周波数が必要となるので、周波数は800MHz帯、1200MHz帯、2400MHz帯などが主に使用される。
それだけ高い周波数を使っていれば、直進性の性質となるので、壁やドアなどの障害物で電波が遮断されてしまう。
盗撮カメラの特徴や電波の性質を考えると、室内に仕掛けた場合は、以下の2つの問題点がある。
●盗撮カメラレンズの問題
1ミリの穴があれば撮影可能だと思われる方もいるが、実際には無理となる。
室内の壁などは、少なくても厚み5ミリ程度はあるので、レンズ径を1ミリにした場合は、ほとんど点しか映らない。壁の中に仕掛けた場合、映像を映すには最低でも3~5ミリ以上必要になる。そんな穴が壁に空いていたら、すぐに対象者に気付かれてしまう。
●壁や天井に仕掛ける問題
壁の中に盗撮カメラを仕掛けようとした場合、まず壁の周囲に付いてある巾木や化粧の木を取り外し、壁を打ちつけている釘を抜き、壁板を剥がす作業が必要となる。
壁板を止めている釘の頭は埋め込まれているので、その釘を抜く為には、壁板をえぐらなければならない。そして壁紙が貼られていれば、同じ柄の壁紙を用意してして、全ての壁の壁紙を張り替えることとなる。
次に壁の中を走っている電源のコードを探し出し、本線と分岐して電源を確保。その後、カメラを固定する為に壁の中にブラケットを取り付けるのだが、実際にやってみると、レンズと穴の位置を合わせるのは至難の技となる。ここまでの作業で最低2日間はかかるだろう。
天井の中に盗撮カメラを仕掛ける場合も同じである。天井裏は登るようには造られておらず、配線工事などは下から天井板をめくって配線する。特にマンションでは天井に上れば抜け落ちてしまう。
どちらにしても、壁や天井に盗撮カメラを取り付けても、高い周波数では障害物に遮断されて電波は届かない。全く障害物がない状況でも、電波到達距離は直線の見通しで約30mほどとなる。
以上のことから、盗撮カメラを室内に仕掛けるのは、「理論的には設置が可能でも、現実的には不可能」ということがお分りいただけたと思う。
統合失調症の方から「留守の時間に盗撮カメラを壁や天井に仕掛けられた」と相談があるが、短時間で侵入し、なんの痕跡も残さず盗撮カメラを設置するのは現実的には不可能なのだ。
一方、盗聴器は室内に設置することは可能である。
使用する周波数は回り込みの性質があるので、少々奥まった場所に設置してもある程度は電波が届く。また、電源もコンセント型や延長コード型の盗聴器などは家庭のコンセントから給電を受けるので、停電や故障がない限りは永久に稼動し続ける。
ちなみに、コンセント型ではない盗聴器となると、電池の種類や電波の強度により電池寿命は様々だが、2~3日で電池切れになるものがほとんどである。そのため、定期的に電池を交換するというメンテナンスをしないと継続して使えないということになる。
そもそも、盗聴器を設置するためには、自由にその室内に入れる人物に限られるので、実際の捜索では、大半が身内の犯行だと判明する。
実際に盗聴器の被害もあるので、電話だけでの相談では、「ご自宅に盗聴器は付けられていませんよ」とは言えないのが厄介なところなのだ。盗聴器が仕掛けられているかは、捜索をしてみるしかないのである。
■探偵社選びのポイント
次に探偵社選びで注意するポイントなのだが、今回は盗聴器・盗撮カメラ捜索を依頼する場合に限らせていただいた。探偵社に相談するときは、統合失調症の方が一人でするのではなく、必ずご家族の方も同席して欲しい。
●会社の所在地や代表者の氏名がはっきり公開されている。
まずは探偵社に電話をして、事務所があるのか確認すること。
面談をファミレスやホテルのロビーで行う探偵社には注意が必要だ。全国に支店があるように見せかけ、実際には事務所が無い、または適当な雑居ビルの1室を住所地にしているからだ。会社の規模に不審な点が多い探偵社は料金も高く、盗聴器の知識も無い。
個人経営でも責任者が明らかにされている事務所の方が、きちんとした調査をしてくれる。
●捜索料金が明らかになっている。
通常、捜索料金は捜索面積や間取りに合わせて決まっている。
ホームページに1部屋あたりいくら、1㎡あたりいくらと明記されている探偵社を選んだ方が良い。ちなみに捜索料金が高いから技術があるということはない。
電話で問い合わせたときに「総額でいくらくらい」とはっきり見積もりを出してくれるのもポイントだ。
個人宅で数十万円の料金を請求してくる探偵社には注意。
●盗聴器・盗撮カメラの基本的な知識がある。
実は盗聴器の捜索は、特別な知識がなくてもレシーバータイプの広帯域受信機があればオートサーチ機能で簡単に捜索はできる。ただし、基本的な知識がないと、依頼者の不安を取り除くどころか、不安を増大させる結果となる。
例えば、電波というは金属に吸収され、その金属が電磁波を帯びる性質がある。
コンセントの内部は金属なので、金属部分が電磁波を帯びて、その電磁波に盗聴発見器は反応することがある。何の知識も無ければ、コンセントに盗聴器が仕掛けられていると思ってしまう。もちろんコンセントを分解しても盗聴器が出てくることはない。
捜索をして盗聴器が見つからなかった時に、「レーザー盗聴かもしれません」と報告をする探偵社もいる。
依頼者からから「絶対にあるはずだ」と言われた時の逃げ口上だったり、不安を煽って依頼に結びつける為に使われているようだが、そもそもレーザー盗聴の仕組みを理解していない。
レーザー盗聴器というのは、発光機から発せられたレーザー光線を窓ガラスに当て、その反射してきたレーザーに含まれる振動情報を音声に変換する方式なのだが、現実的に反射してきたレーザーがどこに戻ってくるかを探すのはかなり大変なことなのだ。
反射したレーザー光線を受光することがどれだけ難しいかイメージしてもらえると思う。反射角が1度角度が狂えば全く受信場所が変わり、上から照射すれば下に反射し、右から照射すれば左に反射する。ようするに、全く水平の所でない限りそのレーザーは自分の所はに戻って来ないし、途中に障害物があると使いない。
レーザー盗聴が気になるなら、レーザーを窓ガラスに反射させないよう、窓の外に「すだれ」を掛ければ良い。それでレーザー盗聴はできなくなる。
例え知識がなくても「盗聴器はありませんでした」と報告すれば捜索は終わってしまう。
良心的な探偵社であれば、本物の盗聴器を見せて、「もし盗聴器があればこんな電波反応が出ています」というデモンストレーションを見せてくれるはずである。
■理想的な対応とは。
統合失調症の方が一人で探偵社を探したり、契約をすると、カモにされる危険がある。
そもそも探偵社に相談しても解決することはないのだが、盗聴・盗撮の不安が大きくなり、どうしても捜索をしないと収まらない場合は、本人ではなく、ご家族の方が良心的な探偵社を探して欲しい。
当社では、いつも以下のような対応をしている。
まずは電話で詳しく被害状況を聞くのだが、相談内容が非現実的で精神的な疾患があるように感じた場合、「ご家族の了承を得ないと勝手に部屋に入れないので、ご家族の方と一度話しをさせてほしい」と伝えている。そこで家族や身内の方と話しをすることができるので、今後の対応を一緒に考える。
一人暮らしでご家族がいない場合や、家族には内緒にして欲しいと言われる場合は、親身に相談内容を聞いて、きちんと捜索を行う。そして、「顔色が優れないようですが、盗聴・盗撮被害が気になって、しっかり眠れていないのではないですか?」と尋ねると、大半の方は「気になって眠れていなかった」と答えてくれるので、そこからメンタルクリニックを紹介するなり、同伴するなりして、医療に繋げていく。
妄想被害に陥っている方は、「仕掛けたのはプロ中のプロだから」「科学を超えた特殊で」と、様々な可能性の話を持ち出し、盗聴器が仕掛けられていることを疑わない。しかし、それを理論的に説明し、相手を論破しても意味が無い。重要なのは、相談者が抱える不安な現象を否定せず、不安な気持ちに寄り添い辛い気持ちを理解してあげること。そうしないと信頼関係を築くことはできない。
このような取り組みをしているは全国でも弊社だけだが、良心的な探偵社であれば、事前に諸事情を伝えれば協力してくれるはずである。実際に医療に繋げるところまで対応を望むのは難しいが、一時的でも不安を取り除いてくれるなら意味はあるだろう。
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