精神疾患における脳のデフォルトモードネットワーク
Default Mode Network Activity and Connectivity in Psychopathology という論文をもとにしています。
デフォルトモードネットワーク
人間が休んでるように見えてる時も働く、脳のデフォルトモードネットワーク
何をもって「休まっているか」という問題もありますが、人間は安静にして何もしていない時も脳が活動していることが知られています。
この際に、外部からの何からの刺激や情報から切り離された状態、つまり「デフォルトモード」に脳のギアが切り替えられ、個人的な内省・自伝的記憶・未来に対する思考など、心の探究を特徴としています。
この時に働く脳のネットワークをデフォルトモードネットワーク(DMN)と呼びます。
自由な思考に潜む一貫した神経活動
人が何もタスクを与えられず自由に思考してる状態では、人によって異なる様々な思考が巡らされることになります。
従ってそれに伴う神経活動も多様になるような気がしますが、実際のところDMNでは非常に一貫した神経網が動員されていることが研究から分かっています。
デフォルトモードネットワーク(DMN)と課題遂行能力
DMNが抑制されると課題遂行能力が向上する
外在的(外部からの刺激など)な刺激処理を伴う課題においては、DMN領域が抑制されるほど、課題の成績が向上します。
例えば、健康な脳ではデフォルトモードネットワークの抑制が大きほど、よりよい記憶形成に繋がります。また、課題が難しくなるにつれて、DMNの抑制が強まるという研究もあります。
直前のDMNの活性化は課題遂行能力に支障
逆にタスク直前のDMN活性化が大きいほど、注意が散漫(lapses of attention)になり間違いやすくなります。
DMNの活性化は記憶には不利、しかし思い出す際には有利
DMNの一部が活性化すると、記憶の符号化(自分の外部環境に注意を向ける必要がある)能力は低下し、記憶の検索(自分の内部環境に注意を向ける必要がある)能力は向上します。
DMN、霊長類から幼児や老人まで
麻酔下のサルでもDMNに似た結合
麻酔下でのサルではヒトと同様に、楔前部(けつぜんぶ 英: Precuneus)や後帯状皮質(こうたいじょうひしつ、Posterior cingulate)と
内側前頭前野,(mPFC)や外側頭頂葉(Lateral temporal parietal cortices)との間に、機能的な接続がある。
幼児期と児童期のDMN
乳児期の脳では成人のDMNの特徴である前方領域(the medial prefrontal cortex)と後方領域(Posterior Cingulate Cortex)の強い結合は見られないが、後方領域、特に楔前部(Precuenus)と両側頭頂葉の結合の証拠があり、乳児期におけるDMNの原型となるネットワークの可能性がある。
7~9歳の子供ではDMNは存在するが、成人と比較して接続は弱い。遠く離れた前方領域(the medial prefrontal cortex)と後方領域(Posterior Cingulate Cortex)との未成熟な結合は、機能的な組織が「局所」から「グローバル(大局的)」で分散的な形態へと発達している典型例である。
加齢によって衰えるDMN活動
正常な加齢においても、DMNの脳前方と脳後方との間での機能的関係の強さが低下します。この相関性の低下は認知機能の低下や白質統合性の障害とも関連します。
臨床的にアルツハイマー病と診断された人は、DMNはさらに悪化しています。
心とDMN活動の関係
心の迷いがある人ほどDMNの活動が活発?
外部刺激とは独立した思考(Stimulus-Independent Thought)の頻度が高い人ほど、DMNの活動が活発という研究もあります。
創造性にも関与するDMN
外部刺激に対応する必要があるWM(ワーキングメモリ)タスクにおいて、通常はDMNは不活性になります。
しかし、発散思考が得意な創造的な人は、WMタスク中に楔前部の抑制が低い状態にありました(=活性化している)。
つまり、創造的であるが故に様々な思考が思い浮かぶ反面、WMタスクのような目の前のタスクに集中しないといけない時に「余計な思考」を抑制する(Task Induced Deactivation)ことができず、邪魔をしてしまう可能性があるということです。
逆に、あるタスクに対して一見関係のないネットワークも活性化されることで、2つ(もしくはそれ以上)の異なるネットワークが結合し融合することが創造的な思考に繋がっているのかもしれません。
精神疾患を持つ人はデフォルトモードネットワークが過活動になる傾向がある
DMN(デフォルトモードネットワーク)は内省などの内向きな思考に関係しますが、健常脳ではDMNが抑制されることで注意喚起課題の成績が向上することが明らかにされています。
これが統合失調症やうつ病の患者では、DMNが過活性化し、過接続状態であることが分かっています。
統合失調症では過度に強い内的思考が、注意やワーキングメモリの障害に関連している可能性があります。うつ病においても、DMNの過活動が否定的な思考の反芻(繰り返し)と関係していることが考えられます。
#デフォルトモードネットワーク #DMN #精神疾患 #統合失調症
edith lüthiによるPixabayからの画像
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