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信念を持つ者の強さ by 列子(商丘開の話から)
中国の古典である列子(れっし)に、商丘開(しょうきゅうかい)という男の話が出てきます。
話として荒唐無稽なところもありますが、その本質は私達が生きる現代社会でも活かせる部分があるので紹介します。
岩波の列子(上)の内容を私なりにまとめました。そのまま引用してる箇所もあります。
晋の国で大きな権力を得ていた子華(しか)
晋の国の名門、范氏(はんし)の家の息子、子華(しか)という人物がいます。たくみに侠客たちを養うことで名声を得ていたため、国中の人々が心服していました。
殿さまからの寵愛(ちょうあい)を受け、しかも官職にもつかないのに大臣級の待遇を受けていました。
子華が目をかけたものは爵位を得て、逆に少しでも彼が悪く言えば首になるほどの影響力を持つ人物でもありました。
子華の部下二人が商丘開(しょうきゅうかい)と出会う
子華の部下二人、禾生(かせい)と子伯(しはく)が遠出をした際、商丘開(しょうきゅうかい)という男の家に泊まります。商丘開は貧乏と飢えと寒さに苦しむ生活を送っていました。
商丘開、子華の評判を聞き感化される
「子華の名声と実力は生きてる者を死なせ、死んだ者も生き返らせ、金持ちも貧乏人にし、貧乏人を金持ちにさせることができる」
と二人(禾生と子伯)が話をしているのを、商丘開は盗み聞きしたことで、彼は子華の邸宅に出かけていってしまいました。
子華のもとで酷い扱いをうける商丘開
子華の仲間たちは名門の出だったため、身につけるものも豪華で裕福な暮らしをしていました。対して商丘開はよぼよぼした老人で、だらしない格好をしていたため、みな商丘開を軽蔑しました。
彼らは商丘開をからかったり騙したり、ぶったり小突いたり、ありとあらゆるいたらずをしました。
商丘開に無茶難題をつきつける子華
商丘開はいつも腹を立てることがなく、そのうちいたらずのネタもつきてしまい、からかうことにも疲れてしまいます。
楼台(=ビル)から飛び降りて無事ならカネをやろう
今度は子華が商丘開や仲間を連れて高いビル(楼台 たかどの)の上に連れていき「ここから飛び降りた者には褒美に黄金百両をやろう」と言います。
商丘開はこれを真に受けて、真っ先に飛び降りますが、鳥のように身軽に無傷で着地することができました。
子華や仲間はこれは単なる偶然だと思いました。
河に飛び込んで宝玉を取ってきてみろ
今度は河の深い淵を指さし「あの淀みの中にはすばらしい宝玉(ほうぎょく)が沈んでいる。もぐって行けばきっと取れるはずだ」と言います。
商丘開はまたもや言われた通りにそこ潜り込み、手に玉を握りしめて戻ってきます。
子華や仲間一同、「はてな」と不思議に思います。商丘開の待遇を改め、美味しいご馳走が食べれ、立派な着物を着られる立場である「上客」に彼を加えます。
火の中に飛び込めば褒美を与えよう
ある日、范氏の家(=子華の家)の蔵が大火事になりました。子華はみんなに向かって「あの火の中に入って錦を取り出せる者がいたら、取り出した量に応じて褒美をやろう」と言います。
すると、商丘開はためらうことなく火の中に飛び込み、そして出ては飛び込みと、何度となく火の中と外を往復しますが、火埃(ひぼこり)にもまみれず火傷一つしませんでした。
子華一味は商丘開を道術のマスターとして崇(あが)める
商丘開が奇跡を何度も起こし、ついには火の中に飛び込んでも無事だったため、これは「道術の体得者(マスター)」に違いないと考え、子華達はそれまでの数々の無礼を平謝りし、「どうかひとつあなたの道術(=道教における術)を教えてください」と頼みこみます。
子華をただ信じ切ったことが起こした奇跡
「わたしにはこれといった術などありません」と商丘開は答えます。なので、どうしてそうなったかさっぱり分からないと言います。
しかし、彼にはひとつだけ思い当たるふしがありました。
子華の部下二人が彼の家に泊った時に
「子華の実力は生きている者も死なせ、死んだ者も生き返らせ、金持ちも貧乏にさせ、貧乏人も金持ちにさせることができる」
という話をしましたが、商丘開はすっかりその話を信じ切ってしまい、少しも疑いを持ちませんでした。
そのため、子華やその仲間からどんなに無茶なことを言われても、みなそれを本当のことだと信じ込みました。気になることと言えば「ただひたすら信じるわたしの真心が不十分なのではないか、実行力が不足しているのではあいか」ということだけです。
したがって、自分への扱われ方や損得に対する打算などは、さらさら念頭にありませんでした。
恐怖心が芽生えてしまった商丘開
「ところが今、ようやくあなたがたがみな、私をだましていたのだと分かってみると、急に私の心(内)には疑いの念がわき出てくるし、他人(外)に対してはよく見せよう聴かせようという不純な気持ちがおきてきました」と告白します。
商丘開は過去のできごとをさかのぼって思い出すと恐怖心が湧き上がってきます。
「もうとてもとても、水や火などのそばに近寄れたものではありません」
孔子の解釈
この話を弟子の宰我(さいが)から聞いた孔子はこのように答えます。
「お前は聞いたことがないのか。そもそも絶対に動かぬ信念を持つ人物は、必ず相手を深く感動させるものだ。天地をも感動させ、鬼神をも感動させ、大宇宙をいくら自由自在にふるまっても、何一つとして妨げるものはないのだ。たかが危険な場所にふみこみ、火の中水の中に飛びこむぐらいのことなど、いともたやすいことなのだ。あの商丘開という男はうそ偽りを固く信じたのだが、それですら彼を妨げるものは何一つとてなかった。
まして、信じる相手も信じ込む自分自身も、ともに誠実である場合においては、なおさらのことだ。お前たちも、篤(とく)とこのことを覚えておくがよいぞ。」
【龍成メモ】
「人に言われたことを鵜呑みにするな」というのは、それはそれでそうなんですが、アドバイスされたことを試してもないのに良し悪しを判断するのは難しいです。
であれば、まずは一旦信じてやってみるということも重要だと思います。その上で判断すればいいので。
商丘開(しょうきゅうかい)のようなよりスケールの大きい話で言えば、信念が「天地や鬼神をも動かす」ちうのもまた真実で、周りで成功している人や活躍しているアスリートなどは、まさにこの強い信念を持っている人が多いです。
Mirko StödterによるPixabayからの画像
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