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【#3シンガポール】多様な文化と自然
世界各国から大企業を誘致し、アジアのハブとして経済的に成功した国。高層ビルが立ち並ぶオフィス街。ただし政治は抑圧的で、国民の幸福度は低い。
金持ちなのは分かるけど、尊敬されないというバブル前の日本のような印象をシンガポールに対しては、もってきた。
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だから、日本で計画を練っているときから旅先としての魅力があるのか分からなかった。正直行っても行かなくてもいいけど、マレー半島に行くなら行っておこうくらいの気持ちで候補国にしていた。
しかしその先入観は大きく修正を迫られることになる。それもたったの二日の滞在だけで。俺はマリーナベイエリアのシンガポールの側面しか知らなかったのだ。
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まずシンガポールは豊かな歴史と文化をもっている。シンガポールはイギリスの植民地だったが、軍事拠点や貿易港としての地理的な重要性により繁栄してきた。
中華系、インドのタミル系、そしてマレー系などの多民族が共存して暮らす国で、中華系もタミル系もアラブ系も街をもっている。その後の旅で、〇〇人地区というのは見ることはあったけど、こんな風に小さな国の中で文化ごとに棲み分けがなされているということに驚いた。
中華系の住むチャイナタウンは、赤色が特徴的で提灯は風情があった。この道教寺院では線香が焚かれており、祈り方は地べたに置いてあるクッションに膝を下ろし手を合わせるというものだった。
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チャイナタウンは夜も賑わっている。夏祭りのような特別な夜が、毎日続いている活気の良さがある。
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さらにカトン地区にはプラナカン様式と呼ばれるカラフルで瀟洒な建物が並ぶ。マカロンを見ているような建物は、マレー半島にやってきた華僑が作り上げたらしい。八女の白壁通りを歩いているときのような感銘を受けた。
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アラブ系の住むアラブ・ストリートといえば、スルタン・モスク。ここに至る道々には絨毯や衣服の店が軒を連ねていた。
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インド人街のリトル・インディア。おでこに何か塗っていたり、目がパッチリしてて色が浅黒いのでタミル系だとすぐに分かる。ヒンドゥー教の寺院。
周辺は貴金属を扱う店が多かったなという印象。それぞれの店が爆音で音楽を流してて、異様な雰囲気だった。
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さらに、シンガポールは経済発展を遂げた都市でもあるが、自然豊かな国でもあった。チャイナタウンやアラブ・ストリートなど代表的な名所を回った俺は、宿のスタッフに好きな場所を聞いてみた。すると、ヘンダーソンウェーブという歩道橋を紹介された。
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DNAの螺旋構造のようなデザインのヘンダーソンウェーブの周囲は森林だ。階段を登っていくため景色もいいし、空気も澄んでいて気持ちがよかった。ランニングしている人やウォーキングしている人もいる。ちょうど小学校の遠足でも来ていた。シンガポール人にとって、憩いの場所なのだ。
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それからは自然に注目していたが、街のちょっとしたところに草木が生えているし、樹齢何年かと思うほど、立派な樹木もあった。
また、Fine(禁止)の広告をどこに行っても見たのはシンガポールらしいと感じた。駐車禁止、食べ物と飲み物は禁止、ドリアン禁止など。地下鉄に乗ったときも、地下鉄での飲み食いが禁止という看板があった。
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シンガポールの文化的多様さと自然を愛することは、旅して気づいた発見だった。街や駅では英語、タミル語、中国語、マレー語が聞こえてくる。聞いていて心地よく、外国に来たなと実感する。
金融都市としてバリバリのビジネスパーソンが多い印象とは裏腹に、モスクでも宿でも商店でもシンガポール人は優しい人が多かった。食べ物も美味しい。シンガポール名物の海南鶏飯や北京ダックを食べた。
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モスクに行ったときにシンガポール人のボランティアガイドと話したり、夕方のスコールで雨宿りしているときにマンチェスター出身の英国人と話したことがあった。
自分は日本人でこれまで99%の時間を日本で過ごしてきて日本の文化や伝統にどっぷり浸かってきた。そして、シンガポールも英国も文化的に大きく日本と異なる国々だ。
ただ、英語というスキルがあれば、シンガポール人とも英国人とも初対面の30分程度の短い時間であってもお互いの身の上を語り合ったり、冗談で笑い合ったり、宗教的なことを議論したりできるのだと思った。
当たり前すぎることかもしれない。ただ、俺は多くの時間を英語に充ててきたけど学んできただけで、「使う」ということはほとんどなかった。だから、英語のパワーを初めて目の当たりにした気がして興奮した。
話せると評価されるとか、かっこいいとかそういう次元の話ではなく、こんなに役に立つのかと腑に落ちたのだ。
旅に出て二週間経った。旅というのは、難しいものだと感じる。それは仕事のように生産性の考え方が通用しないからだ。例えば、一日で多くの名所を回ることは効率的だが、だからといって良い旅だったかは分からない。
むしろ、ある名所に時間をかけること、周りを見渡して細かいディテールまで注目すること、話を聞くことで長く印象に残ったりする。
シンガポールに対する理解を深めた俺はその翌日、シンガポールのブギス・ストリートという繁華街からマレーシアのマラッカにバスで向かった。
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