noteがきっかけで読んだ作品④ 秋山具義『世界はデザインでできている』(ちくまプリマー新書)
〈そこで、あなたの周りのデザインをひとつひとつ消してみてください。消すと言っても、本当に消すのではなく、頭の中でデザインをひとつひとつ消していって、デザインの無くなった世界を想像してみるのです。(中略)さぁ、周りを見渡してみましょう。土の大地を裸の人間たちが歩いているだけです〉
〈あなたの世界はデザインでできている〉
そう、著者の秋山具義さん(以降、敬称略)は語ります。重要というよりは、なくては生活が成立しない、と。まるで空気のない世界を想像して欲しい、と語られたような感覚でした。「デザインとは何ぞや」という門外漢の私がデザインというものを意識してデザインと向き合った時間はこの本を読むうえで費やしたほんのわずかな時間だと思っていたのですが、それさえも勘違いだったのではないか、と思うほど、デザインが身近に、あって当たり前のものとして心の内で色付いていく感覚がありました。
〈デザイナーという職業の人だけがデザインしているのではなく、誰かがカタチを創れば、それはデザイン。〉
とも秋山が語るように、その世界を専門とする以外の人を弾くような、疎外感を与える文章は見当たらず、それどころか実はデザインというものに無関心、あるいはそこまでの関心がすくない〈私たち〉に向けられたものなのではないか、と思うほどでした。もちろんデザインの世界に携わっている人が読めば、まったく違う感情を抱くのかもしれませんが、すくなくとも「自分には関係ないから」と遠ざけてしまうのは、あまりにももったいないような気がします。
〈パソコンのモニターやスマホの画面で本やニュースを読むので、紙の質感を味わう機会が減ったのでしょう。「読みやすさ」が優先され、質感へのこだわりが薄れていくことは自然な流れかもしれません。//それは紙が好きな世代からすると淋しい想いはありますが、仕方がないことだと感じています〉
もちろんすべての考えに肯定して、すべてに共感するということはありませんが、共感しなかった、あるいは否定したくなった言葉のほうが〈自分自身の考え〉を育てるうえで大事だったりします。
たとえば時代の流れについて言及した上述の引用ですが、書店員という自身の職業を考えると、胸が苦しくなるところもあるのですが、それは同時に〈だったら、どうすればいいのか〉ということを考える一助になったりもします。そしてこういった時代の流れに対して自身の考えをしっかりと持つことは、デザイン業界、書店業界だけに限らず、多くの職業人にとって重要なことではないかとも思いました。
マルちゃん正麺、カレーの恩返し、オリオンチューハイ「WATTA」、アミノサプリ、ドラマ『相棒』のポスター、全日本フェンシング……etc
著者は自身の携わったデザインに関する思考の過程を(教えられる範囲の中で)詳らかにしていきます。個人的には、《デザインを作る上で気付きを入れることは大切です》という話が語られた、カレーの恩返しの話が印象的でした。
〈今の時代は、センスや才能、戦略がうまければ、世の中に出るチャンスはいくらでもあります。〉
〈まさに「誰にでもクリエイターになれるチャンスがある」という時代です〉
今の時代において、クリエイターを志向する人に対して向けた言葉も多い。ゴッホの時代が例に挙げられていますが、逆にこういう時代だからこそ悩む人もいるでしょう。外へと発信できる時代だからこそ、敢えて発信を拒むという人も多そうです。どちらが良い悪い、ということは一概には言えない話ですが、それでも先ほども書いたように違う考えのほうが自分自身の糧になることは多かったりします。
デザイナーを志す人にとっての良質な指南書……というより、私はもっと多くのひとにとっての人生の指南書として本書を読んだのですが、もちろんこれが合っている読み方なのかどうかなんて分かりません。だって最初に書いたように私は本当の門外漢なのですから。
それでも読み終わった時、『世界はデザインでできている』という書名を見返して、そして序文を読み返して、胸が染み入るような感覚を抱いたのは疑いようのない事実です。
繰り返しますが、
本書は、「自分には関係ないから」と遠ざけてしまうのは、あまりにももったいないような気がします。
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ちなみに誤解を招かないために伝えておくと、私はフォローさせていただいている嶋津さんが以前行った、
こちらの感想応募の当選者ではありません。それでも純粋に興味があって、せっかく今回嶋津さんとnoteという世界でご縁があったので、「noteがきっかけで読んだ作品」のひとつとして感想を上げさせていただきました。初の新書レビュー。noteでは初の小説と映画以外のレビューということで、いつも以上に拙くなってしまったかもしれませんが、みなさんの読書の一助になれば幸いです。