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noteがきっかけで読んだ作品⑥    偏愛おすすめnote記事集②

 こんなこと書いちゃいましたが、なんとか完成しました。

 ※前書き部分は、前回の記事と同じものになります。

 いつもお世話になっております。書店員のサトウ・レンです。たまに一記事一作品で「noteがきっかけで読んだ作品」という記事を書いているのですが、いつの間にかオススメしたい記事がかなり多くなってしまいました。好きな想いは今まで一記事一作品で書いていたものと変わらないのですが、何個も連続して投稿しても困惑されるだけかな、と思い、数個の記事をまとめて紹介することにしました。一記事に費やす分量はすこし多めなので、すこし長めの記事になります。お前の長い文章はつらい……、という方は、私の駄文を無視して、本記事に飛んでください! 

 知り合った(読んでもらったことが)きっかけで読むことはあっても、私はお礼のためにレビューを書くということはしないようにしてます。何故なら紹介したい素晴らしい作品が「お礼という要素がなければ、評価に値しない作品なのか」と欠片でも思われたくないからです。だから、ここで紹介する作品は自信を持って、オススメと言えるものです。ぜひ、未読の方は、ご一読をお願いします!

※毎回書いていますが、シェア・転載禁止や批評禁止の場合は投稿後でもすぐに対応しますのでお伝えいただければ幸いです。そして勝手にやっていることなので、プレッシャーを感じて無理してスキや感謝の言葉を書いたり、無理して私の記事を読んだりとかはしないでくださいね(この言葉は裏読みせず、言葉通り受け取って欲しいです(*- -)(*_ _)ペコリ)。

 私の言葉で、作品が色褪せないことを、ただ願う……。


「FAKE」森とーまさん

「仕事を与え続けることだ」先生は私に言った。「彼らは常に『何か』をしたがる。何か、人間らしいことを。まがい物の魂は、欠けたものを切望しつづける。自分が本物の人間でないことを知っているのだ。そしてそのことを恥じている」

 生者と死者が絡み合う奇妙な世界観。ほの暗くも美しい外枠の中に、哀しみを帯びた親子の物語を嵌め込んだ作品です。圧倒されるような壮大な世界観と意外な顛末……noteの小説読者でまだ本作を読んでいない方は、本当にもったいないことしてますよ。屍者を蘇生する〈先生〉、侵攻する〈竜人〉たち、まがい物の魂を与えられた〈屍者〉、そして語り手の〈私〉。分かりやすく明快な物語では持ちえない、強烈な魅力を宿しています。優れたファンタジーでありながら、ミステリが好きな人の心にも刺さるような構造の物語にもなっています。

 ……と、ここまで書いておいてなんですが、本作はかなり感想を書きづらい作品でもあります。色々な部分が小説内で詳らかにされることはなく、読者の想像に任せる部分が多い。そしてだからこそ面白いのです。私なんかは理解力に乏しい人間なのでどこまで物語を汲み取れているか怪しいものですが、まぁそんな私の駄文に付き合っている暇があったら、さっさと読め、と言いたくなるような作品です。


「しまもよう」茜あゆむさん

ゆるやかに死んでいく私の身体。まだはっきりとは見えないけれど、この一線を越えたら死んでしまうという、遥かなデッドラインを夢見て、一歩ずつ着実に、そこへと歩みを進めると、私の胸の奥から、底知れないよろこびが湧いてくる。

 のっけから他の小説の話をして申し訳ないのですが、シャーリィ・ジャクスンの短編に「くじ」という作品があります。爽やかさを感じさせる導入からは考えられないような残酷な顛末を迎えるとても〈嫌〉な作品なのに、気品(という言い方が良いのか分かりませんが……)を感じてしまう名作です。今回は「くじ」を例に挙げましたが、残酷さゆえに強い光彩を放つ美しい物語というのは、間違いなく存在します。……何を言っているのか分からない、というひとは本作を読んでください。

 例えば、

大きな入道雲が、水平線ぎりぎりから湧き上がり、巨人がそうするように、ぐーっと首を伸ばして、私たちを覗き込む。それ以外には、雲一つない快晴で、いやになるほど暑くて、じめっぽい。午後は、太陽の光が黄色っぽくなるので分かりづらいけれど、空はこれ以上ないってくらい真っ青だった。

 というような美しい情景描写があり、

 それと同時に、

人殺しの私を愛してくれたかなたは、もし私が殺人鬼でなかったら、ここまで私をかわいがってくれただろうか。こんな私が好きならば、人を殺さなかった私はかなたにあいしてもらえない。//やっぱり、しまもよう。ぐるぐるとねじれ、ひねくれて、私の白と黒、海と空、雲と太陽は切っても切れない、刃にこびり付いた錆。

 酷薄な言葉を淡々と綴る。美しさをたたえた残酷さには絡みつくような不快さと強烈な魅力があります。まぁあれこれと言いましたが、結局のところ、私はこの物語が好き、ということに尽きます。

 これは間違いなく、青春の1ページを切り取ったどこまでも美しく奇妙な夏の物語なのだ、きっと――。


「「あなた」を読む#手書きnoteを書こう」Kojiさん

その主張にどれほどの怒りを読むか。その遠慮や言い回しにどれほどの戸惑いや配慮をくみ取るか。//その匂いにどれだけの安らぎを覚えるか。その色にどれだけの「心」を見るか。「あなた」を見るか。

 必ずしも共感がすべてではない、と前置きした上で、この記事は私にとって強く共感するものでした。私も決して他の人より読むのは速くない。だからと言って遅い分、理解力が高いかと言われると、そんな自信もない。もしも似たような悩みを抱えたことがあるひとは、ぜひこの記事を読んで欲しい。Kojiさんは〈読む〉という行為は自分にとってスポーツだ、と喩えていますが、もし〈読む〉ことがスポーツならばそれは(すくなくとも私にとって)他人と競い合うスポーツではなく、自分自身と競い合うスポーツのように思います。

 誰かと比べることもなく、

 ゆっくりと、文字を、言葉へ変え、言葉から、「心」を、「あなた」を見つける。私もそんな風に黒い文字の羅列を、言葉へと変えていきたい。時には腹の立つような言葉や耳ざわりの悪い言葉に出会うこともありますが、それでも私は色んな言葉を読みたい。「書かずにはいられない」物書きがいるように、そこに言葉があれば「読まずにはいられない」読者がいるのかもしれません。そんな私たち(敢えて〈私たち〉とさせてください)にとって必要なのは、読むのが早い遅い、理解力があるかないか、なんて関係なく、文章が〈何か〉に変わる瞬間こそが大事なのではないでしょうか。……と、いつも遠回りしてばかりの私なんかはそう思ってしまいます。


「落ちる」Kojiさん

何者かになることが昔から苦手だった僕は、唯一「隙間」に生息することだけは得意だった。どこにも属さない隙間にすっぽりと入り、誰かと喧嘩することもなく、かといって忘れられることもなく、都合のいい存在として扱われ続ける能力にすこぶる長けていた。

 ……と、私の読書の中心が小説ということもあり、小説を書かれている方は出来れば小説のレビューを書きたい、ということで、続けてKojiさんの短編「落ちる」を。他人ありきで行動することに天才的に長けている語り手〈僕〉の他人に合わせるための「ことば」が落ち始めるようになった、という不思議な設定の物語。言葉通り、「ことば」が床に、ぽとん、と落ちる。他人に合わせて生きようとすることで息苦しさを感じたことがあるひとならば、心動かされるものがあるのではないでしょうか。

 本当の声は、綺麗ではないかもしれない。それでもあなたが自らの心で発したその声はそれだけで尊いのだ、自分自身を軽んずるな、とストレートに突き刺さる〈声〉が聞こえた気がしました。


「胡蝶の夢」考え之介さん

《荘子が夢の中で胡蝶になり、自分が胡蝶か、胡蝶が自分か区別がつかなくなったという「荘子」斉物論の故事に基づく》自分と物との区別のつかない物我一体の境地、または現実と夢とが区別できないことのたとえ。(コトバンク「胡蝶の夢」項より)

 短い作品なのであれやこれや内容には触れません。すぐに記事に飛んで、読んで、感銘を受けて、また戻ってきてください。

 もちろん私が気付かなかっただけで素晴らしい作品はいっぱいあったのだとは思いますが、「#一駅ぶんのおどろき」は一般的なショートショートよりもすこし短めな1000字程度という緩やかな制約もあり、(自分の書いた作品も含めて)驚きよりも、唐突さが勝る作品が(失礼を承知で言えば)多かった印象があります。

 実は意外と驚きにそこまでこだわらなかったエッセイや、日常のスケッチ要素の強い作品のほうが記憶に残っているのですが、その中にあってラストの驚きの後、読み返した時に導入がまったく違って見えてくる、(語弊を恐れずに言えば)ショートショートの王道のような作品という印象を本作に対しては抱きました。真正面から闘って、面白い、を勝ち取った作品だと思います。秀逸としか言えないタイトルにも、脱帽……。

 ショートショートや掌編小説はnote内に特に多くあるので、印象的な作品はたくさんあります。……ということで、最近読んだ(あるいは読み返して)強く印象の残った作品も併せていくつか紹介します。

「睡眠ボックス」杉本しほさん

 SF(サイエンス・フィクション)というよりは、藤子・F・不二雄が使用したと聞いたことがあるSF(すこし・不思議)という言葉が似合う〈睡眠ボックス〉なるアイテムが登場する作品で、現代性のある皮肉の効いた結末が印象的なショートショート。ショートショート好きなら読んで損はしないのでは。


「ひらめきドラッグ」黒野燁さん

 すこし前の作品ですが、端的な文章と切れ味の鋭い結末へのこだわりが感じられる作品で、どうしても物語って色々書きがちになってしまうものだと思うのですが、無駄のなさが本当に好印象だったショートショート。短いからこその魅力を持った作品です。


「戦場を駆ける紅」ひさとみ なつみさん

 ひさとみさんは前回の記事でも紹介した方ですが、今回紹介する掌編小説は「#一駅ぶんのおどろき」参加作品の中でおそらく他のどの作品にも似ていない、と思うほど、個性的な一篇。

 物語性の強い掌編・ショートショートの中に自身の小説の個性だと読み手にはっきりと感じられるものが強くにじみ出ている、それって、やっぱり代えがたい魅力だと思います。威風堂々とした世界を感じさせる文章と冷たいまなざしで貫かれた結末が印象的な掌編小説。

 以上。そのひとの人となりではなく、あくまで作品本位を心掛けて書きましたが、うまく行っているかどうか、しっかりと作品の本質を汲み取れているどうかは分かりません。忌憚のない意見を聞かせていただければ、幸いです。急に書かれて困惑される方もいるかもしれないので、先に謝っておきます。勝手に感想を書いて、すみません……。

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