英雄ポロネーズ 楽曲分析
今回はショパン(1810~1849)の代表作、『英雄ポロネーズ』を楽曲分析していきます。ショパンにとってポロネーズはマズルカと同様に祖国ポーランドの舞曲でありショパンの作品の分析をするうえで重要な作品群となっています。
通し番号付きで『ポロネーズ第6番』と呼ばれますが、未出版のポロネーズが何作品も存在しているので『英雄ポロネーズ』が6番目に作られたものということを表しているわけではありません。また『英雄』の名もショパン自身ではなく他人がつけたものです。
ポロネーズ全曲の中でも特に有名なこの曲はいったいどのような構成をしているのか、さっそく見ていきましょう。
1 拍子、調、構造
3/4拍子、調は変イ長調
序奏ーAーA'ーBーA'ーCーDーA'ーコーダの構造をしています。
一種ロンド形式に近いのかなというイメージです。複合三部形式と分析している方もいらっしゃいますが、私的には当てはまらないと思っています。
2 解説
① 序奏 0:00~
Maestoso(マエストーソ。 荘重に)の指示があります。
序奏は属調の変ホ長調で始まり、E♭(ミ♭)の音が力強く鳴らされた後、半音階が奏でられます。序奏はこの動機を展開して構築されています。
5小節目からは半音上がってホ長調になり、最初と同じフレーズが奏でられます。
9小節目からまた更に半音上がってヘ長調になり、変ロ長調(11小節目)を経てようやく変イ長調の属和音(13小節目)が登場し、変イ長調を確立する準備をします。このように調性をぼかす書法はショパンの他の作品でも見受けられます。
② A 0:28~
Aではこの曲のメインとなる主題が現れます。Aの5~6小節目では最初のメロディが変ロ短調で現れ、変ホ長調(7~8小節目)→へ短調(9小節目)→変イ長調(10小節目)→へ短調(11小節目)→変イ長調(12小節目)→変ロ短調(13~14小節目)と常に転調を繰り返しながら、曲が進行しています。変イ長調で一貫された部分が少ないのがこの曲の特徴ともいえるべきでしょう。
14小節目で変ロの旋律的短音階(メロディックマイナースケール)が一気に上行した後、変イ長調に戻り次のA’に進みます。
③ A' 1:07~
A'ではAのメロディがオクターヴで現れ、より演奏しにくくなっています。和声はAの部分と変わらないですが、フレーズがAよりオクターヴ上で奏でられるなど多少の変化はあります。
A'の14小節目でまた変ロの旋律的短音階が奏でられた後、2小節でA’の部分を締めくくります。16小節目の終わり方は「女性終止」と呼ばれ、これは弱拍でフレーズが終わるもののことを言います。
④ B 1:38~
Bはド(C)の音が強く鳴らされたあと、調性が不安定な部分2小節を挟んでハ長調が確立されます(Bの3小節目)。5小節目からは短3度上に上がった最初のフレーズが奏でられ、変ホ長調で一区切りを打ちます。
Bの後半はsostenuto(ソステヌート。音を保持して)の指示の中、へ短調で旋律が奏でられます。この部分の左手のリズムはポロネーズのリズムと呼ばれ彼の他のポロネーズにも用いられているリズムです。しかし、『英雄ポロネーズ』においてはこのポロネーズリズムはこの部分でしか現れません。
Bの16小節目で変イ長調の属和音が登場しA'(2:14~)に戻ります。この再現されたA'は変化は無く同じように演奏されます。
⑤ C 2:48~
Cではホ長調に転調し7回ホ長調の主和音が力強く奏でられた後、低音でミ(E)ーレ♯(D♯)ード♯(C♯)ーシ(B)が16分音符で延々と鳴らされます。Cの5小節目からはオクターヴでミ(E)ーレ♯(D♯)ード♯(C♯)ーシ(B)の音型を左手のみで演奏します。ここは個人的に一番の関門で、PP(ピアニッシモ。非常に弱く)で演奏することはかなり至難です。腕に余計な力が入ってしまうとすぐに弾けなくなってしまいます。
またメロディの部分にはsotto voce(ソット・ヴォーチェ。ささやくように)の指示がありますので、乱雑に弾かないように注意が必要です。
17小節目では半音下がって変ホ長調(楽譜の表記上では嬰ニ長調)になり、20小節目で急にホ長調に戻ります。
Cがもう1度演奏されると最後の小節で右手がミ♭(E♭)を持続しながら、左手はオクターヴで半音ずつ上がっていき、次のDの部分に向かいます。
⑥ D 3:57~
Dは調性が不安定ですが、一旦変ニ長調を通った後にハ短調に落ち着き、ハ短調の属和音で一区切りを打ちます。
続いてDの9小節目からはト短調で新たなフレーズが現れます。このフレーズはDの後半にも転調して現れており、D後半全体を支配しています。
17小節目で一旦へ短調になりつつも、すぐに変ロ短調になり9小節目の同じメロディが奏でられます。そして21小節目でへ短調に戻ります。23小節目からは似たような音型を繰り返しながら(少しづつ微妙に違っている)、曲が進行していきます。
31小節目の2拍目からオクターヴ違いで同じ音型を奏でて、再びA’(5:29~)が現れます。このA’は1回目、2回目と同じで変化はありません。そしてコーダに向かいます。
⑦ コーダ 6:02~
コーダでは変イ長調の主和音が鳴らされた後、すぐに減7の和音のアルペジオが上行し、属和音を鳴らしながらメロディを奏でます。これを繰り返し、Aのメロディの動機を用いて変イ長調の主和音で終わると思いきや、いきなりハ長調の主和音が割り込み、コーダ10小節目の3拍目で変イ長調の属和音が登場し、力強く変イ長調の主和音を鳴らして曲を締めくくります。
3 総括
以上となります。いかがでしたか?
調は変イ長調とはなっているものの、常に転調を繰り返しながら曲が進行しているので、調性的に不安定な部分が数多く見受けられました。和声を意識しながら演奏するのは難しそうです。この記事を書きながら、改めて難しい曲だなと実感させられました。
このように調が安定しない曲でありながらも、ここまで有名な作品に仕上げたてたのはショパンならではの書法と才能があったこそだからでしょう。
テンポに関しては大体は7分を切るぐらいのテンポで演奏しているピアニストが多い印象ですが、"Maestoso"なので明確に「この速さで」と指示しているわけではありません。奏者によっては7分超える演奏もあるので聞き比べても面白いと思います。
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