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妖眼のフルール・ド・リス 第2襲「仮面の殺戮者 ――スマイル・イン・マスク――」

【送文記録:1件】

 わたしの名はギルド〈小さき世界〉のギルドマスターネック・ザンである。
 ギルドのメンバーは全員、私の目の前で死んだ。
 今も命の危機に怯えながらこの送文メールを書いている。
 どうかこれを読む方に届いてほしい。
 これから私が書くのは弱小ギルドへの注意喚起であり、早急にベテランギルドを呼んで、この悪夢の連鎖を断ち切ってほしい願いである。
 私たちが戦うべき相手は追い剝ぎゴブリンなどではない。
 地獄の炎を扱う仮面の殺戮者である。

 ゴブリン被害の村に着いた私たちは、すぐに歓迎された。
 どうやら¨人間¨が来るのがすこぶる久しかったらしい。
 だから、パーティーが開かれた。
 酒を飽きるほど飲まされ、バカ騒ぎを村の人たちとした。
 女の子はとても可愛いかった。
 しかし、決まって背中にぎ後があった――全員に。
 私は気になって聞いたが、女たちは決まって『この村の風習ですよ』とはぐらかす。
 今、思えば……、思ったところでたらればだ。
 奴らこそ追い剝ぎゴブリン――人を殺して皮を奪って自分らの見た目にするゴブリンだった。
 私たちは酔ったまま村で寝ることになる。
 本来、出るとされている洞窟まで距離があったからである。


 夜――静かな夜。奴らは本性を表した。

 私はふと尿意に襲われて、外に出る。
 この日は丁度、紅い月で綺麗で、綺麗な叫び声が静寂な夜中に響き渡った。
 私たちが寝ていた建物が火魔術ひまじゅつで燃え盛ると、仲間2人が飛び出してくる。
 チームの一番のガリが…………ゴブリンにやられたのだろう。

 すぐにこの村から出ようとした。
 しかし、私たちの妖艶な容姿を持つ仮面の女性が目の前に現れた。
 最初はギルド管理協会から応援が来たのかと思った。
 これで、奴らの村を滅茶苦茶に出来ると思っていた。
 しかし、ヤツによって仲間の1人が首を斬られ、身体が燃えた。
 気味が悪く、ふふふふと笑い出す仮面の女性は『お命、頂きますわ』と言いだす。
 恐怖に襲われ残された私たちは依頼を放棄しようと、走り出した。
 走っても走っても追いかけてくる女性は、まるで怨霊のように怖かった。
 途中で仲間が転んだ。
 それを見逃さずに、仮面の女性はその場で首を跳ねた。
 悔しかったが、非力な私では仲間を見捨てるしか……なかった。

 無我夢中で走り…………、気がつくと私は洞窟の中にいた。
 中は人の皮がない死体だらけだったから、こここそが追い剝ぎゴブリンがいるとされる洞窟なのだろう。
 私は急いで魔術書アルバを出現させ、送文メール魔術で書いている。
 今も足音がコツンコツンと洞窟の中で鳴り響いている。
 私はもう長くはない。
 これを見たギルド管理協会の方にお願いしたい。

 どうか、上位ギルドにこの依頼を――

送文者:ネック・ザン

 ♢ ♢ ♢ ♢ ♢

「おっ昼ー! おっ昼ー!」
 ヴェールは元気よくスキップしながら昼食を楽しみにしている。

 ギルド〈デイ・ブレイク〉御一行はアジトから出て昼食を食べる為に魔術王都マナ・リアのメイン通り、マナ・ストリートを歩いていた。

 マナ・ストリート――中央にそびえるマナ・リア城入口から広がる大通りで商業区域が広がっている。
 肉質のいい肉が揃っている肉屋から、鮮度も元気もいい魚屋、みずみずしい果物から採れたての野菜が揃う八百屋、それに武器屋に鍛冶屋に本屋、ありとあらゆる店がこの大通りに道を作るように立っていた。
 『全ての道は魔術王都マナ・リアにつうずる』とはきっとこういうことを指しているからそう呼ばれているのだろう。

 ところで、¨ヴェールは何歳か?¨という疑問が残る。

 また、シュシュを外したらなぜ、成人体型になるかも気になっていた。

 ――この際、聞けるだけ聞いてしまうか……?

 そう思うと、私は恐る恐るヴェールに聞いた。
「ヴェールは今、何歳なんだ……?」
「えっ、我の年齢……? 乙女の秘密なんじゃけどなぁ……」
 恥ずかしそうに頭を搔きながらたじろぐヴェールは、
「我、永遠の12歳! 町のみんなには内緒じゃよ!」
 元気はつらつと答えた。町でこのことを言っている以上は内緒ですらなくなってしまっているのだが……、
「――違うだろォ!」
 すらりとしたアルムの手はヴェールの髪を刈り飛ばすかのように目にも止まらぬ速さで飛んでいく。
いったァっ! 何してくれてんじゃァア!」
「おェ、28歳だろォ! キリエに『我、まだ子供なのぉ……、キラキラ!』なんて、言わせねェぞォ!」
「いや、我、『キラキラ』なんて人生で1度も言ったことないぞ! 『キラリーンキラキラバシューン』とは言ったことあるかも知れんのじゃが……」
「よし! 『キラキラ』と言ったことにしようぜ!」
「だから、『キラリーンキラキラバシューン』じゃって!」

 ――どっちでもいい!

 私のほうが『キラキラ』だとか『キラリーンキラキラバシューン』なんてどうでもよいとツッコミたくなってしまう。

 ハイネはにこやかにあははと見守っているが、顔色は若干引いてる。
 見ているとこれが日常茶飯事なのかもしれない。

 突然、――遠くの建物が爆発した。

「向こうの建物って……〈ニヤの尻尾〉じゃねェーか!」

 キリエは建物を凝視すると――嫌な熱いオーラを感じた。
 燃え盛る炎の中で、もがき苦しむ人々の魔力オーラが陽炎のように揺らめている。

「とてつもなく嫌なオーラがする!」
「キっ、キリエン……!」

 食堂を目指して走る。まだ、罪のない生きている人がいると信じて、私は――――食堂の扉をこじ開けた。

「今日は閉店へいてんしたわよ――こんな大火事おおかじじゃあ継続けいぞく不可能ねぇ……」

 カランっと扉から鳴る鈴の音。
 中で仮面をつけた女性が口を歪ませながら佇んでいた。

 仮面は覗き穴から妖艶に紅く滲むように光り、右手に刀を、左手にがたいのいいニヤ族の男の首の根元を持っていた。

 男の傷は酷かった――胸には刀で切り刻まれた傷、両腕は無残にも切り落とされているし、全身が焼け焦げていた。
 かろうじて息は残っているようだが――多分、もう助からない。

「こんな殺し方、間違っている……!」

 静かな怒りが私の中ではじけ散った。

魔術書アルバッ! 魔具召喚魔術(まぐしょうかんまじゅつ)――【旋風刃(せんぷうじん)】!

 私は魔術書を瞬く間に出現させて、腰に旋風刃という刀を召喚させる。

 右手で構え、怒る気持ちを刀に込める。

 ――刹那の速さで仮面の女の目の前へ飛び込むように抜刀した。

 この間合いなら切れる……!

 そう思った矢先――仮面の女が男を身代わりに前へ突き出してくる。
 勢い付けた刀は止められない。だが、
――【旋風せんぷうまい!」

 刀の刃を風に溶かして、男に向けて振り上げる。

「ほぉ――やるわね」
「魔術発動!」
 叫ぶ――風と一体化した刃が、徐々に徐々に女の近くへ8本展開され、切りにかかろうと狙いにいった。

「柔軟――効かなくて残念」
 仮面の女は男を雑に投げ捨てると、刀を構えた。
 綺麗な白紫色の髪を揺らしながら、避けられるものは最低限の動きで避け、当たりそうなものは刀で受け止めて弾き飛ばす。

 八本の刃が女を切り終わった時、
「魔術解除!」
 叫ぶと、風の刃自然に溶けるように消滅し、【旋風刃】に刃が戻ってくる。

 即座に切り上げると、――快音が燃え盛る食堂に鳴り響いた。

「ねぇ――少しだけ殺し合いを……し・ま・しょ!」

 女はそう言うと、仮面から紅く焼けるような光を覗き穴から滲ませる。

 なぜか、この女から懐かしいオーラがする。ムシャノ村から感じたことがあるような懐かしい感じ。
 しかし、¨半分¨は違う――どこか造り替えられたかのようなおかしさを感じる。

 この女――まともな人間じゃない!

 私は一歩、後ろへ間合いを取るように退く。

「では、本気――出すわね! 魔術書……!」

 仮面の女は魔術書を出現させる。

魔具召喚魔術――【永炎刃えいえんじん!」

 魔術書のページを破り捨てると、今もなお、食堂を燃やしている炎、人を燃やしている炎が左手に集まってくる。
 仮面の隙間から紅い光が漏れた時、

 ――集まった炎が刀の形になり、辺りを爆発させた。

 私は爆風で吹き飛ばされそうだったので、その場で刀を突き刺す。

 名前を聞いてまさかと思ったが、永炎刃という刀はかつてムシャノ村の鍛冶師によって造られた炎の魔力を持つ者に向けた刀だった。
 覚えている限り、ムシャノ村で炎の魔力を持つ者は1人しかいない。

「義姉……? ホムラ姉ェなのか……?」

 女は仮面の下から不敵な笑みを浮かべる。二刀を握っても艶やかなことには変わりはなかった。

ほむら魔術――――【永炎エターナル焔翔鳳・フェニックス】!」
 右手と左手の刀を交差させて、右手の刀を左手の刀にこするように振り下ろす。
 すると、鳳凰のような形を模した炎の魔力が剣先から解き放たれた。

 もし、当たれば焼き死ぬだろう……。
 絶対絶命の中、気持ちを落ち着かせた――――。


/第2襲「仮面の殺戮者 ――スマイル・イン・マスク――」・了

次回


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