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『日本沈没2020』の感想云々

Netflixオリジナルアニメ『日本沈没2020』に関して、あまりにも言いたいことが多かったのでまとめます。
(初投稿:2020/07/10 12:35。間違って削除してしまったので再投稿)

公式HP ps://japansinks2020.com

 今作の「原作や実写映画ではあまり描かれることのなかった被災した人々の視点から描かれる」というテーマを選んだ点は評価はしたい。

 しかし、一般人の視点のみ描いているからなのか全体の出来事、こと作品の柱であるところの列島が沈む/沈んでいく経過や列島各地の災害なんてのは描かれずに、出てくるのは思い出したかの様に起こる地震と行く先々での倒壊家屋のみ。
 唯一と言っていい災害シーンは、1話の東京の地震だけ。日本沈没という規模の大きな災害の1つとして、東京で地震が起きたというのはわかる。しかしそんな場面も『東京マグニチュード8.0』における発災から避難、帰宅に至る描写には遥かに劣る。

 1973年版『日本沈没』での見せ場としても東京地震がある。まだ木造建築の長屋も残る時代、1923年関東地震の経験者が火災だけは起こすなと繰り返し言い、ビルの窓ガラスが四散し逃げ惑う人々に降り注ぎ、揺れにハンドルを取られガソリンスタンドに車が突っ込み、衝突した車の間に挟まれた人や運転席から逃げられない人々を火が襲い、堤防が破れ海抜の低い下町が濁流に襲われる。
 こんなにも力を入れて描かれているのにも関わらず、1973年よりも地震とその後に起こる現象についてはるかに経験と記録のある2020年において、「この程度」の描写しか出来ないのか。

 2006年から2008年まで連載していた一色登希彦 著『日本沈没』には潜水艇パイロットと東京消防庁レスキュー所属の登場人物がいる。組織に所属しているとはいえ、災害に遭遇する際はただの一般人であることが多いし、全編を通じて民間人が被災するシーンがほとんどだ。2020ではこの描写を超えることすら出来ていない。

 2006年版『日本沈没』序盤、九州・北海道において連続的に火山が噴火する。字幕と共にその火山が映され、これらに対し航空自衛隊がRF-4Eを出動させ、被災地の調査・現状撮影を行う場面がある。
 災害に巻き込まれた人々を助けるため、沈んでいく日本から人々を避難させるため、陸海空自衛隊・東京消防庁が各地で活躍する。海洋研究開発機構は潜水艇と支援母船、地球深部探査船を用いてあらゆる調査を行う。

 しかし、日本沈没2020はどうだろうか。自衛隊が登場するのは、旅客機が"とても“ゆっくりと墜落していく場面で飛んでくるUH-60JAと思しき機体。舞鶴港で避難民の乗船チェックを行う数人の陸上自衛官、KITEが奪取してきた陸自所有と思われる日の丸入りのAAV-7。

 以上。


 地震の被害が著しい都心から、わずか1日ちょっとで山梨県境近くまだ進み、車を使用しつつも3、4日程度で滋賀県琵琶湖付近まで行けるだろうか?不可能では無いかもしれない。逃げ続けたその先で、宗教団体のようなものがいても不思議は無いかもしれない。
 ましてや、非常時だ。藁にもすがる思いでその扉を叩いてしまうかもしれない。そんなスピリチュアルなコミュニティが琵琶湖近傍に存在している。今作で一番存在意義がわからない、シャンシティだ。ここでは労働の必要は無く、大麻を育て、巨体な土器を金継ぎし、死者の声を聞くためマザーと呼ばれる人を崇める。
 しかし、日本沈没で描く必要があるのか?このコミュニティでの話の間、とても平和で日本が沈んでいることが完全忘れ去られている。すぐ近くで琵琶湖が干上がっているにも関わらず。

 話が戻るが、冒頭の海底火山はもなぜ唐突に東京湾(もしくは千葉県太平洋側?)から噴火させたのか。日本が沈没するなら有り得ない場所から噴火してもいいという考えなのか?それなら関東平野の至る所で噴火させればいい。それこそ『ボルケーノ』の様に都会のど真ん中で。
 沖縄の沈み方なんてのは目に見える沈没だが、表面にある爆弾がただ爆発した様にしか見えない陳腐なもの。しかも記事はYouTubeに投稿された動画のみ。撮影者はYouTuber。『亡国のイージス』の辺野古ディストラクションの方がよっぽど破壊力があって沈みそうだ。いや、破壊されるだけか。

 どっちにしても、気象庁は?海上保安庁は?アメリカ地質調査所は?韓国や中国、ロシアにアメリカの対応は?ニュースすら流れない。劇中、日本のメディアは信じられない、海外のメディアの方がいいと言っている人間がいるにも関わらず、出てくるのはYouTubeのみ。

 大災害の中、ネットが繋がっているにも関わらず情報収集しない理由は?
 ただの頭の悪い家族ではないか。この作品では間違った災害時の行動を描き、警鐘を鳴らすということすら出来ていない。そもそもそんなこと考えていないと思うが。

 何も考えていないという点について、「舞鶴港から富士山が見える」という場面をなぜ入れたのか。脚本家/ノベライズ著者はありえないとは思わなかったのか。調べなかったのか。ノベライズ版では「宝永火口からも小規模な噴火が起き…」という文が登場する。
…富士山体の東南斜面に存在する宝永火口を舞鶴から視認?…列島が北もしく南側に180度近く回転したのだろうか。そんな描写は全く無いが。
 何故、脱出可能な港だけ原作や以降の作品にも出てくる舞鶴や境港に拘ったのか。新潟や東北ではダメだったのか。滋賀からなら福井県の沿岸でも可能ではないか。どうせ、沈没の仕方なんて適当なんだからどこでも良くないか。

 小松左京氏によって日本沈没が発表されて以降、日本がこんな短時間で沈まないということは常々語られてきてる。けれど沈みゆく列島とその対応を描くために、科学的な根拠・現象を屁理屈込みで本物らしく、もしかしたらありえるのかも…と思わせるように書かれている。
 しかし、日本沈没2020は視聴者に対してのメッセージが「日本が沈もうが沈まなかろうがどうでもいい。ただ、そのネームバリューが欲しい。ごく一般的な、何の知識も無く、災害について何も考えた事の無い家族を見ろ」という様にしか感じられない。

 Twitterで見た感想ツイートのひとつに、「凄かった。地震を軽んじている日本人に、警鐘を鳴らしている」というものがあった。
 地震どころの騒ぎでは無い。それより遥かに規模の大きく、地球単位で被害の及ぶ火山噴火の描写がふざけた富士山の噴火しか無く、そもそも災害について何の役にも立たない描き方しかしていないこの作品に、何を言っているのか。
 これを機に、災害について興味を持ち、自分で調べることが出来たのなら良いが…。こういう人はやらないだろうなぁ…。


 結局、1話から10話を視聴したが何も心に残らなかった。

最後にひとつ。

最低でも、
沈む前の日本列島の形ぐらいは、
正しいものを描いて欲しかった。
もう、それだけでもいい。


期待していた(少なくともノベライズ版を読む6月まで、そしてアニメを見る7/9までは)のに。

残念だ。


〈了〉


 もし仮に、このnoteを読んで少しでも災害について興味を持った方。専門書とかはちょっと…という方。

小説から入るならば、ハードルは低いかもしれません。ぜひ以下の作品を読んでください。

『日本沈没』 小松左京
『復活の日』 小松左京
『M8 エムエイト』 高嶋哲夫
『TSUNAMI』    高嶋哲夫
『ジェミニの方舟』 高嶋哲夫
『死都日本』   石黒 耀
『昼は雲の柱』  石黒 耀
『関東大震災』  吉村 昭
『クラカトアの大噴火』 サイモン・ウィンチェスター



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