幾千の寄り道をしながら

想イヲツヅル #62


僕らはその場所を
″ヤドリキ″と勝手に呼んでいた


初めてそこに連れて行かれた時のことは忘れない


少し車酔いをしたことも

僕を誘った
学生時代の友人達の自慢気な笑顔も

帰る時の
笑っちゃうようなあのセリフも


忘れない


そして今度は
僕がそんな笑顔をしていたに違いない





もうすっかりお馴染みになってきた
3人でのビリヤード

友人と君と僕と


君がビリヤードを覚えたての頃は

″1台のテーブルに3人でナインボール″

みたいなことが多かったが

今では

テーブルを2台借りて


1台は″1人で練習用″

もう1台は″2人での対戦用″


みたいに分けることも多くなった


今ではエイトボールだったり
ローテーションなんかもしたりする


君はメキメキと上達して

3人の技量の差もそこまで変わらなくなってきていた

そして
差がなくなっていくほど
対戦は白熱し
勝てれば嬉しいし
負ければ悔しいしで

負けたら″1人用のテーブル″で練習

勝てれば″2人用のテーブル″で次の挑戦者を待つ
※挑戦者って言っても3人でやってるだけだけれど


みたいなルールも自然にできて


喜んだり悔しくなったりしているうちに

あっという間に時間は過ぎていくのである

そしてこの日は
翌日に3人とも仕事が休みだったり

友人が連勝し続けて
僕と君の悔しさもひとしおだったりで

車で来ていた友人に運転を丸投げして
パーっとドライブしよう

ということになった

僕と友人は
″どこにいこうか″
と目配せをして

せっかくだから
ヤドリキに君を連れて行ってみようか


すぐに向かう場所は決定した

ヤドリキと僕らが呼ぶ場所は

国道246号線を下り

夜でも片道2時間くらいはかかる場所にある

長い道のりだけれど

そこから見渡す景色
夜景は本当に素晴らしいと思う


もちろん君は行ったことがないだろうし


往復で4時間くらいはかかる場所へは
今では僕らも行く機会は少なくなっていた

友人が運転

僕は助手席

君は後部座席に座る

出発


友人の車に流れる
最近のJ-POPを聴きながら

たわいもない話や

なぞなぞをしたり

しりとりなんかをしながらの
約2時間のドライブ

僕と友人にとっては
いつもの
ヤドリキの近くのコンビニに寄って

3人ともトイレを借りて

暖かいペットボトルの飲み物を買った


そして
ここで大事なことは

君に助手席に座ってもらうことである


理由は
学生時代の友人達とのちょっとしたルールがあるからだ

″初めてのヤドリキは夜景スポットまで目隠し″
という変なルールである


これは
目隠しを取った時
夜景を目の当たりにした時の感動を大きくするためのルールなのだけれど

ヤドリキはクネクネの山道をずっと登ることになるので

″後部座席で目隠し″は
ほぼ確実に酔うのである

それは身をもって僕が知っている

そんなこんなで

せっかくだから目隠しで
感動してもらえたら嬉しいし

けれども

車酔いは避けたいという気持ちもあって

気休めでも
後部座席よりは酔いにくいであろう助手席へ
君を座らせた

そして

山道に入るなり

ハンカチで目隠しを自らしてもらい

このクネクネの山道をひたすら車で登って行った

僕は後部座席から時折見える景色に
胸を躍らせながら

久々に見るその全貌を待ち侘びた

君は突然の目隠しで不安なのか

昔の僕のようにブーブーと言っている

「ねぇいつつくの?」
「まだ?」
「ちょっと酔いそうだから窓開けて」

まるで
あの日の僕である


そしてやっと
待ちに待った場所へやってきた

ヤドリキ

車を道の端っこに停めて


君に目隠しを取ってもらう


「、、、」


「すごい。。。」

君の歓喜の声を聞いて


僕らは

「ほら」
「すごいでしょここ」


まるで僕らがこの夜景の持ち主でもあるかのような顔で笑った


山の上はやっぱり寒いけれど


少しぬるくなったペットボトルを持って
車から出てみる

この季節は空気の湿度も少なくなってきているせいなのか

街の灯りが

星屑の光が

鮮明に目に飛び込んでくる

そして
非日常の世界をくれる


けれど
よくよく目を凝らしてみれば

街の灯りには生活があって

人生があるんだ

今この瞬間に

愛し合う人もいるだろう

仕事から帰ってきた人も

寝ている人も

ご飯を食べている人も

笑っている人

泣いている人

幸せな人

悲しい人


この1つ1つの灯りに
掛け替えのない人生がある

そして
空を見上げれば

何光年の時を経たのかもわからない

星の瞬きがシャワーのように降ってくるのである

流れ星も見つけた


そして決まって

ここに来ると

最後はみんな黙ってしまい

ただただ

その″大きな世界″を眺めては

思いに耽り

″また頑張ろう″

と前向きになれたりする


友人も君も

遠い目をしていた


どんなに仲が良くても

どんなに近い距離でも


自分ですらわからない感情がある


それは誰かに共有することは難しいことだと思うし

わざわざ共有することでもないと僕は思っている

大切なことは


その人が


″言葉にできない想いを秘めている″


ということを

理解はできなくても


理解できないことも引っくるめて


包んであげることではないだろうか


友人も君も


そして


僕も


この景色を前に
言葉にできない想いを秘めている

その想いを秘めて
生活をして

生きている

そんなことを
教えてくれるのが

ヤドリキという場所だった


なんて
少しセンチメンタルになりつつも

帰る時には

冗談まじりに

あの友人が言った言葉を

友人と僕は繰り返すんだ


「さーそろそろ」
「おれらも夜景の一部になりに行こうか」


ってね 笑

「腹減ったね」

「てか寒いね」

「ラーメンでも食べてこ」

「この時間太りそう、でも今日はいっか、いいよ、食べよ」


「もう目隠しはなしね」

「はっはっは」


そんな日だったんだ

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