故郷の味付け

想イヲツヅル #57

「″好き″って何なんだろうね」

その質問には困ってしまった


仕事終わりの時間が君とたまたま重なって
一緒に食事をしてから帰ろうという話になった日のことである

今日はいつもの友人はいない
2人での食事になった


空腹感はあるものの
お互い特別食べたいものは見つからずで
気張らず
君とファミレスに入ることにした


ファミレスなら色んなメニューがあるから中華でも洋食でも
メニューをみて食べたくなったものを選ぶ

と示し合わせて入店したものの

結局は2人とも同じような和食を注文していて笑った

食事をしながら

仕事の話だったり
君の田舎の話
好きな映画の話なんかもした


驚いたのは君が関西の方の出身だったということだ

出会ってから″方言″なんて聞いたことがなかったし
そのことを知ったあと
「関西弁を話してみて」と言っても
君は嫌がった


「早くこの街に馴染むために方言はやめてるの」


そんな理由だった


自分が今まで出会ってきた人たちは
方言を隠すような人はいなかったように思うし
方言をアイデンティティとして活かす方の人たちが多かったような気がする


だからだろうか

″馴染むために何かを隠す″

″目立たないようにする″

みたいな発想はとても興味深いものだった


けれど

よくよく考えれば
その感覚は誰にでもあって(自分にも)

その人にとって
うまく生き抜くために必要なことに間違いはないのである


この街で
君の故郷の言葉を聞くことができるのは
君にとても近しい人だけなのだろう


君の″いじらしさ″みたいなものも感じたし

なにより
君と自分との″隙間″がはっきりと見えたようで寂しくなってしまったけれど

″言葉″について
君のこの街での覚悟のようなものを

僕はそれを聞けたことが大切なんだと思うようにした


そして
もう「関西弁話して」なんて気軽に言わないと心に誓うのだった



食事も終わり
食後の珈琲を飲みながら

君は突然
君と最初に出逢った時のようなホワッとした声で

僕に尋ねた

「″好き″って何なんだろうね」


「うーん」
「そうだなぁ」
「でも突然なんで?」

僕は平然を装って返事をしたが
内心とても困ってしまっていた


僕は今
目の前で珈琲を飲んでいる人に対して
どう思っているのか
どう思いたいのか

それこそ
その問題の真っ只中にいるわけなのである

僕はそんな気持ちが流れ出ないように
封をするように返事を続けた


「好きな人がいるの?」
「好きな人ができたの?」


君は遠くを見るように答える

「だいぶ前だけれど好きな人がいてね」
「頑張って告白して、けど、振られてしまって」
「それから人を好きになるっていうか″好きになるなりかた″っていうの?″恋の仕方″っていうの?」
「忘れてしまったの」

「好きって何なんだっけ?」

僕は不甲斐なくも

「それは難しすぎる質問だなぁ、、、」
「言葉にするのが、、うーん、、、」

とモヤモヤした曇り空みたいな返事しかできなかった

そしてなんだろう

君と別れてからの帰り道

前より少し

自分のことが嫌いになった

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