日常が非日常!?はっぴーの家ろっけんを訪ねて
昨年12月に仕事で大阪に行った時、唯一心残りがあった。それは神戸まで足を延ばせなかったこと。ある場所まで出向けなかったこと。
それが神戸市長田区にある『はっぴーの家ろっけん』だ。
この写真、私がどこにいるか分かるだろうか…。
写真の右奥(上)、1つだけ円になっているテーブルで、黒パーカーで腕に白い文字が入っている男性の隣、隙間から覗く1人だけ白い人が私。
う〜ん、車椅子も隠れているしカオスな空間すぎてもう分からん(笑)
初めてはっぴーの家を知ったのは、こちらの記事。
当時、障害者向け介護事業所の職員兼利用者という二足のわらじを履いていた私は、その存在を知って「こんなところがあるのか」と思ってしまった。自ら【介護ができない介護職員】と謳っていた私が抱く介護現場の印象は、過酷で、多少無理して、利用者さんに合わせて…というイメージが強かったから。
(※当事者でもこうだったから、自身はその印象を少しでも覆すべく、今でも試行錯誤を続けている)
子どもたちによる、大人たちのための、みんなのための時間
早速、こんなものが用意されていました。
これぞ、子どもたちが得体の知れない電動車椅子男と打ち解けるためのさりげない仕掛け。
おかげで、子どもたちと一緒に超ハイペースでおみくじを全出しする頃には、すっかり仲良くなっていました。
先ほどのテーブルにておじいちゃんおばあちゃんたちのお茶会の風景に溶け込み、子どもたちとの対話を深めた後は、彼らの案内で長田の街を散策することに。
ちなみに、今回のヘッター画像は、こちらの写真をモノトーン風に加工したもの。何気ない1枚に映るかもしれないけれど、実はこれ、本文冒頭の多世代が混ざり合う光景から、保育園児と小学生と中学生と大学生と、未だ大人になりきれていない(=永遠に子どもの心を持った)リアルな大人だけを切り取ったもの。
私33歳電動車椅子。シャッターを切ったのは、今回も同行してくれた車椅子専門美容師の友人42歳だ。
※はっぴーの家のスタッフさんたちは子連れ出勤OKなので、昨今の待機児童問題も何のそのだなと思った。もしそうした場所に入れなかったとしてもココに来れば誰かがいる。遊び相手はもちろんはっぴーに来るお兄さんお姉さんたちであり、周りや地域の大人たちであり、はっぴーに来るおじいちゃんおばあちゃんたちだ。
マスク越しでもみんな笑顔なのが分かる。実は2人ほど雲隠れしているけれど(笑)単なるエレベーターも集えば時にアトラクションになるんやね。
神戸のちょっと外れにある長田の街は、「面白い!」というのが率直な感想だ。先ほどのアーケード街しかり、さらにそこから1本路地に入ると焼きそばの出店が出ていて、おばちゃんと子どもたちが顔見知りだったり。
神戸の味、どろソースをかけて軒先でみんなで食した。
街全体がいろんな顔を持っていて粋だ。
これほどラフでウイットに富んだ案内を初めてみました(笑)ここの地下街はレンガ造りでオシャレ。
同じく地下街にて…。
震災を伝える場所にて、仁王立ちする青年から神戸の歴史のレクチャーを受ける。2年ほど前こちらに来てからこれまで、先輩方からたくさんレクチャーを受けたそう。
ちょっぴり歴史に触れた後は、最年少:たかちゃんのリクエストでみんなで近くの公園へ。なぜか聳え立つ鉄人28号の前で記念撮影をした後、彼はブランコ目当てに猛スピードで駆け出していきました。
帰る前に子どもたちオススメの甘味処(抹茶屋)さんに寄って…。
大学生にこっそり動画を撮られてることに気付いてこの表情(笑)
(自分が1番子どもみたいな顔してるw)
夕暮れ時の道中、子どもたちは自主的に彼をウルトラマンに乗せ、僕はボーイを台車に乗せて、すっかり打ち解けてみんなの実家(=はっぴー)へと戻ったのでした。
はっぴーの家を見学しながら…
たった今、初めて訪れたはっぴーの家を「みんなの実家」と書いてしまいましたが、何だかこの場所にはそんなふうに書きたくなってしまう魅力があると、最初に記事を読んだ時から思っていました。実際、働いている人のこんな笑顔を見たなら、そんなふうに書きたくもなるのです。
だからこそずっと訪れたいと思っていたし、昨年大阪に行った時に唯一後悔したのが、はっぴーへの訪問が叶わなかったことというのがその証。
実は今回の訪問に際し、3つのマストミッションを自らに課したのですが、それは…
①子どもたちと仲良くなること。
②英会話教室を見学すること
③再会を楽しみ、その場に溶け込むこと。
今回の訪問に際し、諸々の連絡や調整、子どもたちへの仕掛けなど様々に知恵を絞ってくれたのは、すべて彼女のおかげ(※写真)。先ほどのおみくじを考案したのももちろん彼女です。
ゆうりさんとは一昨年の夏に私のオンライン講演でご一緒して以来の仲なのですが、再会直後、特別に台車に乗せてたくさん褒めてあげました。大人だけど(笑)
今では私が代表を務める団体:Try chance でも欠かせない役割を担ってくれています。人のために、みんなで一緒に楽しめるように、労を惜しまず尽力できる姿勢をとても尊敬しています。
↑講演会での出会いから、最初に仕掛けたイベント(2020年11月:Ryo室空間)
その1年後には、大切な友人を紹介してくれた後、モデレーター(インタビュアー)にTryし、新境地を拓いてくれました。
実は2つ目に書いた「②英会話教室を見学すること」というのは、このお2人がタッグを組んで始めたこと。オンラインで普段は自宅からやっているそうなのですが、この日は私が見学できるようにと、わざわざはっぴーでやってくれたのです。
生徒さんはなんとシンガポールからのお子さんを含めた小学校1・2年生。やっと環境に慣れてきたところとのことで、自身は画面に映らず”先生”の様子だけこっそり見学させてもらいました^^
「いかなる状況であっても教育活動の妨げにならないように」というのは、自らもずっとこだわっていることですが、とことん褒めながら授業を進行していた姿がとても印象的。そして(勤務後であっても)空きスペースはどんどん活用していいよ!というはっぴーのスタンス、とても素晴らしいなと思います。これぞ社会資源の有効活用。
加えて、勤務が終わっても子どもたちと遊んだりご飯を食べながら会話を楽しんでいるスタッフが多いと聞き、「この大らかな雰囲気ならば…!」と納得です。
そんな場所だからこそ、「その場に溶け込み、ありのままを感じること」も今回の大切なミッションであり、もちろん後日、感じたありのままを書くことも私にとって欠かせないライフワークです。
さて、前置きがかなり長くなりましたが、もちろん空間全体の見学もさせていただきました。
*内部見学も最初はたくさんの子どもたちを引き連れて…。
右の方は一昨年はっぴーさんに私が登壇するオンラインイベントを組んでいただいた時の事前打ち合わせにて飛び入り参加して下さり、その際に5分喋って以来なのですが、わざわざ声を掛けて下さいました。
(*壁の色をはじめ、すべてテイストが違うはっぴーのフロア)
はっぴーの家ろっけんを訪れてみて思うのは、やっぱりいわゆる"施設"という言葉はしっくりきません。
賑やかだけど不思議と安らぐ。そんな"空間"。
そんな一般的な施設とは異なる空間であるはっぴーの家は、各階(各フロア)ごとにコンセプトがちがうのです。2階は〜風、3階は〜調といった具合に。
だからこそ、フロアはもちろん40近くある居室すべてが異なる壁紙の色をしていて、入居時には(空き部屋の中から)1人ひとりご本人に好みの部屋を選んでもらうのだそう。
その甲斐あってか一般的な施設でよく起こりがちな自分の部屋が分からなくなってしまうというトラブルも、扉を開けた瞬間に一目瞭然というこの場所ではほとんど起こらないといいます(入口にはそれぞれの顔写真も貼ってありました)。
そんな住宅としての工夫もさることながら、はっぴーの家はなんと言っても人の温かさが魅力。嫌々仕事をしている人がいないのはもちろん、皆のびのびととびきりの笑顔で仕事をしている。少なくとも私の目にはそう映りました。
この方もまた(右から2人目)、3日前にゆうりさんと打ち合わせをしていた時、終了間際に飛び入りで入って来て下さり、それが初対面。「いつも本が見守ってくれてるんですー!」と、とびきりのテンションでこの日のリアル対面を約束してくれ、お子さんと一緒にこの笑顔^^
そして勤務終了後、大事な予定があるにもかかわらず、子どもたちとの街歩きから帰還する私を最後まで待って歓待し、1時間以上かけてはっぴーを隅々まで案内して下さいました。
自分の職場を好きと言えること、好きな場所を好きと言えること、何も資格がなくても熱意を持って参画し、もっと役に立ちたいと意志を持って資格を取得するなんて、何と素敵なことでしょう。
街を歩いて心を開き、温かい室内を見学して、私の心はこの時点ですっかり満たされていました。
急転直下!?極寒の猛特訓がもたらしたもの
子どもたちとの街探検ツアーから戻って、室内の見学を終える頃には時刻はもう夕食時。お茶会の時に比べると食堂(兼リビング)で過ごすおじいちゃんおばあちゃんたちの人数は少しだけ少なくなっていました。
はっぴーでは、1階で過ごすも居室に戻るタイミングも1人ひとりの自由。だから決して悪いことではありません。そして気付けばあんなにたくさんいたはずの子どもたちもいつの間にかいなくなっているではありませんか。
どこにいるのかと聞けば…。
外!(なんと外!!)
この日の気温はすでに1度。
夕食まで暇を持て余した子どもたちは、大学生のお兄さんを巻き込んでいつの間にか近所で買ってきたというバドミントンに興じています。
お気づきでしょうか。中には半袖の子もいることを…。
状況を把握した私が次に思ったのは、「暗い…!(シャトルが見えない)」ということでした。子どもたちが可哀想だな、と。
だから次の瞬間には上着も着ずに外に出て、”ナイター照明”を担当しておりました(笑)
…おまえは着ろや!!(もう若くないねんからw)
続いてはこちらをご覧ください。
はい、気付いたら参加してました。高見の見物を許さない子どもたちの熱烈な声に誘われて。
正直、「そう来たか!」と思いました。同時に心底嬉しかったんです。子どもたちの方から距離を詰めて、自然に歩み寄って来てくれたことが。
だからあえて聞きました。「どうやるん?」「君らが思っているほど、動けないよ^^」と。
その後は本当に、こちらから障害の説明は一切していません。「手は上まで上がる?」「ラケットはこうやって(手首を動かして)振れる?」という彼らの質問に答えただけです。やがて「スマッシュさせると叩きつけてしまう=自分たちが拾えない」と気付いた彼らがラリーを続けるために考え出した作戦が2枚目の写真です。
(サッカーで審判が冒頭に行うコイントスのイメージで)タイミングを合わせて彼らがラケットに落としたシャトルを私ができるだけ高く跳ね上げ、それを彼らが拾ってつなぎ、一緒に10回のラリーを目指す。
結果、1時間超えの格闘の末、最後は何とか成功。間違いなく『障害を忘れられる瞬間』がそこにはありました。みんなも忘れてくれているといいな。
素直に今、思うこと。
これがもし”取材”という形だったとしたら、間違いなく失格と言っていいでしょう。なぜなら子どもたちに「はっぴーはどんな存在?」とも聞いていないし、「おじいちゃんおばあちゃんたちの特性もほとんど知らない」まま帰って来てしまっているから。
この日は私以外にも初めて訪れた方がいたのですが、入居者やその場にいる子どもたちの困難さや配慮事項について、説明を受けることは1度もありませんでした。多い時で200人の見学者が訪れていたというその場所で、変わらない日常を紡ぎ出すには、それでちょうどいいのかもしれません。
でも、今回のミッションはその場に溶け込むことであり、子どもたちと仲良くなることだったので、それだけで個人的にはもう、大成功です。
結局は今、目の前にいる人対人。抱えている困難さは当然1人ひとり異なるかもしれませんが、支援者ではない私たちにとっては「余計な先入観を持たずに接する」ことができ、その大切さを学ぶことができる貴重な機会と言えます。
有難いことに全フロアを見学させていただき、入居者さんのご厚意で居室の中まで見せていただきましたが、その方のお部屋にはご自身で書かれた絵画(風景画)が所狭しと並んでいて、もはや居室だけにとどまらずフロア全体を彩っていました。
1人ひとり個性を殺さず、むしろ活かしきって生活することができる自由が保証されたはっぴーの家は、いわゆる”施設”ではなく”終の住処”なんだと強く感じました(事実、病院ではなくこの場所を望んで戻り、最期を迎える方も多いそうです)。
それでも、私がこのブログの中で「みんなの実家」と評したはっぴーの家を、ただただ”理想の場所”と羨望の眼差しを向けるのは、ちょっとちがう気がしています。独自のスタイルに挑戦する中できっと色々な声を受けてきただろうし、それを跳ね除けてきたはずだから。間違いなく、自然発生的にできた場所ではないと思うからです。
だからこそ、本気で魅了されたのなら、こんな場所を、空間を、自分たちのいる地域でどうしたらできるのか。みんなと本気で考えるエネルギーにしなければ(すればいい)、と思います。もちろん私も、今回の学びを胸に秘め、主宰するイベントや団体運営に活かしていきます。
ところで、そんなはっぴーにいるスタッフさんたちは皆、笑顔かつさりげなさのプロフェッショナルだと感じました。そう感じた印象的なシーンを1つ、紹介します。
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夕食をご一緒させていただいた時、1人のおばあちゃんがいきなり立ち上がって歩いて来られたんですね。私たちの真横にあるトイレに向かって。
側から見ると明らかにおぼつかない足取りで心配になってしまうのですが、皆さんはギリギリまで動かないどころか、まるで気付いていないかのように私たちと笑い合っています。
しかし、トイレに近づいてきたところでまったく違う話題を投げかけながら笑顔で手を取ってサポートをし、それが終わると別のスタッフに声を掛け、おばあちゃんをいち早く”日常”にお連れして、その方は片付けを行っていました。こうしたさりげない対応のスタンスが、すべてのスタッフに染み付いている(少なくとも自分にはそう見えた)ことが、はっぴーの心地良さの一因のような気がします。
そんなはっぴーの原点はどこにあるのか。
私たちがバドミントンに興じていた時、同行してくれた友人は代表の首藤さんからこんな話を聞いたといいます。
「せっかく建物を建てるなら地元の人たちにも喜ばれる、誰もが来たくなるようなカオスな場所を作りたいと思った」(※これこそ首藤さんの原体験。建設にあたり何度もワークショップを開いて地域の人たちから意見を募ったと、冒頭のsoarの記事にも書かれている)
「何をやっている人か分からない方がいいんですよ。〇〇(子どもの名前)に大人がやっている働きかけがバレたら終わりですよ(笑)」
実際、本当にいろんな人がともにいると感じました。学校が合わなくて不登校中の子、夜になると徘徊したがるおばあちゃん、子育て中のママさんに外国人や大学生など…。
だからこそ、そんな空間に混ざり合い、子どもたちと一緒に本気で楽しめたこと。彼らが本気で私も一緒にできるルールを考えてくれたこと。やっぱりこれが1番嬉しく、この旅最大の収穫です!
温かく迎えて下さった皆さん、たくさんの幸せのヒントをありがとうございました!
おまけ
帰りに大阪にも立ち寄って、グリコのマネ(笑)
(がんばって足上げてみたけど、分かるかな…!)
これからもいろんな場所を訪ねていきたい(できれば仕事で…!)
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