「複業」への思いとBIZREACHに届いたスカウトと
人事関連の仕事をもうかれこれ十数年しているが、採用マーケットの変化は人事領域の中でも特に激しく、その時々の市況感で大きく変わるものだ。絶えずアンテナを張っておかないと、今どういった状況なのかを見失ってしまう。
サービスを提供している事業者には申し訳ないが、市場調査の意味で、ダイレクトリクルーティング型サービスに自身の職務経歴書をさらすことで、今の採用マーケットの状況を確認をしている。どういった会社が今成長しているのか、どういった企業からどのくらいの年収でオファーが来るのか、そういった企業からのスカウトメールを見ることである程度の世の中の情勢を把握しているのだ。
その日はクライアントの採用の支援の合間に、ひさびさにBIZREACHにログインをした。ID・パスはChromeに記憶させているので、まったくストレスはない。
本当に久々にログインしたので、企業からのスカウトが1ページに表示しきれないくらいに来ている。あいも変わらず、採用マネージャーポジションのスカウトの数がすごい。そしてスカウト文面はどこも似たりよったりで、まったく心に響かないものばかり。おそらくアシスタントがコピペで対象に片っ端から送っているのだろう。
これなら、ほぼ毎日届くアマゾンを騙る中華メールや、いつも駅で待っている謎の24歳の美女からのメールのほうが開封率は高いだろう。
全然関係ないが、駅で待っているあの子はどうしていつも送り先を間違えているんだろう?私は、山下じゃないって、ミサトでもないって。
さらに間髪入れず、2通目で自分の顔写真を送りつけてくるのはどうしてだろう?
受け取ったスカウトの中に、誰もがよく知る人材大手の求人があった。
比較的近い業界なので、興味本位でスカウトメールを開くと、なぜかマネージャーの経歴が大学卒業から事細かに記載されている。
こちらの職務経歴を見ているから、お互いさらして50:50にしたいのだろうか?その意気込みは悪くない。男気を感じる。
さらに興味本位で、そのマネージャーの氏名と社名を検索するとトップになんと「複業」への思いについて語った登壇レポートが出てきたのだ。
なぜに「副業」ではなく「複業」を使うのか、そこには熱い言葉が散りばめられていた。
「自分で考えて自分に合ったキャリアを実現するはたらき方を『キャリアオーナーシップ』と呼んでいます。“人生100年時代”といわれる現代で、複業は、単に収入を増やすことだけではなく、自身のキャリアの可能性や考え方の幅を広げることにもつながります。
生き方に合わせてキャリアを築いていく時代だからこそ、○○は自社内にとどまらない制度設計をし、キャリアオーナーシップを推進していきます。」
※○○は社名
しばらくログインしていなかったので、その企業からのメールは1通だけではなく、重ねるようにもう一通きていた。
タイトルには「一度カジュアルにお会いできないでしょうか?」と。
誰も複業という言葉を使わないときから複業を推進し、さんざん苦労してきたものとしては、「副業」と「複業」の違いを熱く語るマネージャーの意気込みには目頭が熱くなるばかりだ。
カジュアル面談でもその期待に応えないのは、失礼だと早速返信をした。
「複業でしたらお力添え可能ですと。」
「複業」を熱く語るマネージャーからの返信は来ず、数日後、なぜかマネージャーの代理を名乗るアシスタントの方から返信が来た。
正社員以外無理っす。
smsで連絡が来るいつも駅で待っている謎の美女24歳も今まで実物を見たことはないが、「複業」を本気で取り組む企業も同じく見たことがない。