庭掃除

私たちの「新しい」家は築30年ぐらいで、私たちが入る前は2年ほど空き家になっていた。幸い大家さんは家の換気や庭の手入れをよくしてくれていたので古い家とはいえ、ほぼ住める状態にはなっていた。それでも、やはり引っ越す前には何回か家や庭の掃除をしに行った。家の中は想像通り、蜘蛛の巣やホコリ、カビなどがあるぐらいで物は全て片付いてあった。庭もぱっと見、とても綺麗だった。ところが、よく見るとプラスチックや布のゴミがあちこちに散らばっていた。特にデッキの下にはハンガーや洗濯バサミ、髪の毛のゴム、子どものおもちゃ等が沢山出てきた。私たちの前に子持ちのシングルマザーが住んでいたと聞いて納得。結局は大きいゴミ袋一袋ほどのゴミを庭から拾った。

これでよし！…と思った私だったが、実際に住み始めて、庭を毎日使っていると更に色んなものが出て来た。コカコーラの缶、エアガン、破れた軍手、よく分からないワイヤー、等々。面白いことに何かを発見したのは私だけではない。私たちは二羽の鶏を庭で飼っている。（はい、ダジャレ。でも、本当の話だから信じてください。）移動式の小屋の中で飼っていて、鶏が地面の土を掘り上げ、そこにある雑草や虫を食べる。次の日に小屋を別の場所へ移す。そのようにして庭の雑草が無くなり、土が耕されていく。（ちなみに、畑の中でこのシステムを使う「チキントラクター」も存在する。）とにかく、小屋を動かした時に気付いたことがある。庭の表面に貝殻がある！最初は目を疑った。これ、昨日は絶対ここになかったよね？と夫に確認。じゃあ、どこから？！そこで思い出した。鶏は堀ることが好き。（皆さん知っていました？）これはだから庭の土に埋もれてあった貝に違いない。

この仮説を試すことにした。案の定、鶏小屋を動かす度に前日置いてあった場所に貝殻が土の中から出ていた。ゴミやおもちゃが庭から出て来ることはなんとなく予想は出来るし、仕方がないかもしれないけど、なぜ貝殻？そもそも栃木県には海がないのだ。時日が経って別の場所にも他の種類の貝殻や石を不気味なぐらい発見。一体何があったのか。前の住人が庭全体を貝にしていたのかい？さすが、市貝町！（はい、ダジャレ。もうこれで最後。）気になって大家さんに聞いてみたら、元々の持ち主が陶芸をやっていて、焼き物のために貝を使っていたそうだ。（Googleで調べたらここにも面白い歴史がある。）ただ、なぜこの土地に貝があるかの謎は解けたとはいえ、それが庭中に埋もれてある理由はまだ分からない。本人がばら撒いて少しずつ土の中に沈んでいったのか。その後に住んでいた子どもたちが貝をおもちゃにしてわざと埋めたのか。とにかく、貝をどのように処分しようか迷っている。

ところが、貝だけではない。春が訪れて、草刈りをしたり、土が柔らかくなったりするのと同時にゴミも現れつつある。玄関の前にビー玉が三つ。大きな木の下にドラミちゃんのフィギュアが一つ。ビニールハウスの裏に靴の一部と思われるものが二つ。次は何が出るかな？と恐れを感じたりもする。その内、人間の骸骨が見つかるのではないかと半分冗談で夫に言う。要らないものは捨てていくしかないけど、いつになったら片付けが終わるのかと少し疲れる時もある。この庭の掃除は心のゴミを掃除するのと少し似ている気がする。

心の中の「ゴミ」とは、つまり醜いもの。要が済んでもう要らないもの。そこにあるのがおかしなもの。怒り、高慢、妬み、人を裁いたり、見下したりすること。一通り庭を片付けたつもりだったと同様に、心もまぁまぁ綺麗になっていたと思っていた。ところが、よく見るとゴミがまだあちこちに隠れている。誰かが少し掘り下げると色んな過去のものが出てくる。何回捨ててもまた出てくる。このブロセスはいつまで続くのかなと疲れる時もある。ひょっとして終わりがないのかもしれない。庭のゴミは分からないけど、心のゴミはきっと死ぬまで出て来ると思う。今まで生きて来た表れでもあるから。明らかに自分の過去が生んだものもあれば、なぜこんなものがこんなところに？！と謎のものもある。気がつく度に捨てていくしかない。まぁ、神様に取ってもらうと言う方が正確かな。

幸い、春と共に見えて来たのは庭に深く埋もれてあったゴミだけではない。季節の変わりに合わせて今まで見なかった数々のお花も土から顔を出している。昨日は咲いていなかったけど、今日新たに誕生した美しいもの。次は何が出るかな？と楽しみにしている。心の中でも、きっとその時に応じて花が咲く。これも神様の恵みの技。