元気が出るテレビが導いた、フォークギターとの奇跡
幼稚園の頃、園長先生がギターを弾いているのを見て、ギターが弾きたい!と思った。
親にそれを伝え、園長先生にギターを教えて欲しいと相談した。
「ギターを教えるのは構わないが、まずはピアノを習った方が良い。
ある程度弾けるようになったらギターを教えてあげる。」
そう言われた私は、近所のピアノ教室に通った。
ギターを弾きたいのに、ピアノを習うことが理解できなかった。
家には古い足踏みオルガンしかなかった。
足元にあるペダルを踏むと、中にある「ふいご」が広がって減圧する。 そして、鍵盤を押すことでバルブが開き空気が通り、リードが振動して音が出るという仕組みのオルガン。
鍵盤を押せば音が鳴るわけではないので、足踏みオルガンで練習するのは辛かった。
練習しなくなった。
なんの上達もせずに1年が過ぎた頃、園長先生が転勤すると知った。
ギターを教えてくれる予定だった人がいなくなる。
ピアノ教室をやめた。
さらに数年が経ち、世の中はバンドブーム。
私の暮らしていた田舎町にも、バンドブームの気配は感じられた。
ギターを弾きたかった気持ちを思い出した。
思い出した程度で、特に弾きたい気持ちが強く蘇った訳ではなかった。
ある夜、大好きな番組
「天才・たけしの元気が出るテレビ!!」
通称「元テレ」を父親と観ていた。
早朝、芸能人が宿泊している宿に忍び込み、バズーカ砲を放ち起こすという今では実現不可能そうな企画ばかりの番組、エンペラー吉田やバーバラ・アキタダなど、とんでもないキャラクターを輩出した番組。
れいわ新選組代表の山本太郎がメロリンQとして登場したのは衝撃的だった。
メロリンQがれいわ新選組の代表になった方が衝撃的だったが。
もちろん、この日も楽しく観ていた。
「渚で彼女にオリジナルラブソングを歌ってあげよう!」
というコーナーが放送された。
タイトルのママのコーナーなのだが、ギターを片手(ギターとは限らないがこの日はギターだった)に、味のある素人がどうでもいいラブソングを歌う様子が最高に面白い。
ふと、父親に言ってみた。
「ギター買って欲しい」
「なんだ、お前、こんな風にギター弾いてラブソング歌いたいのか笑」
「うん。そうなると面白いかもね」
「おう、じゃー買ってやる」
バカ笑いしながら父親と話した話。
買ってやると言われたものの、父親の冗談だと思って忘れていた。
数日後、我が家にYAMAHAのフォークギターが届いた。
「買っておいたぞ」
本当に買ったんだ、と驚いた。
世の中、バンドブーム。
フォークよりエレキが欲しかった。
が、なんだかとても嬉しかった。
フォークギターで親の知らないバンド、BOOWYやブルーハーツなどのコピーをした。
当然、親は誰の何という曲かもわからないので、評価してくれない。
ひとり悦に入りつつも、やっぱり、なんかしらの評価が欲しい。
祖母に聴いてもらえるよう練習した千昌夫の「北国の春」。
千昌夫の「北国の春」をコード弾きして祖母に聴かせた後、「元テレ」を観るとヘビメタのコーナーでX JAPAN(当時は「X」)が激しく暴れていた。
不惑を越え、天命に近づこうとしている今日も好きなギターを弾いている。
好きな番組「元テレ」はリアルにギターと私をマッチングさせた番組だったのだ。