見出し画像

片喰

チラシ制作という仕事のための仕事に際して、草管理といえばこの本と「雑草と楽しむ庭づくり」を読み返していると、カタバミについての記述があった。ヤマトシジミという白銀地に黒いあしらいのある小さな蝶の、幼虫の食草にあたるらしい。ここは以前にも読んだ筈だが、なにも覚えていないのは、カタバミに別段の思い入れもなかったからかもしれない。

ところがちょうど、三月に越してきた家には小道のような#庭 があって、そこにカタバミが今にも咲こうとしているのを、とくに刈りとる理由も見あたらず、花が咲くのを待つともなく待っていた。待っていたのはむしろ、ヤマトシジミのほうであったか——成虫はよくこの花の蜜を吸い、葉裏に卵をうみつけるそうだ。
あるいはカタバミのほうが、ヤマトシジミを待っているのかもしれない——虫媒花であるからは、虫が来なければ困るのだ。
このように、生態系とはいわば待ち合わせ、果たされるかどうかもわからない約束のことをいうのかもしれない。

好きでも嫌いでもない花が、道にあるうちはただそこにあるということに過ぎないが、いざ自分の庭に生えてきたなら、さてそれに手をかけるのかどうかという選択が生じてくる。もしカタバミを何の気なしに刈っていたとしたら、私はカタバミとヤマトシジミとの約束を破るところだった。カタバミやヤマトシジミにかぎらず、庭には多くの生きものがすまう。庭をもつということはだから、それだけの約束をとりもつということでもある。

いいなと思ったら応援しよう!