僕の壮絶な高校野球人生No7
次の日、僕はまた部活に行かなかった。
今回は朝、家を出たまま電車で大阪まで行った。
このまま沖縄の辺りまで行って、消えてしまおうかとも本気で思っていた。
でも今回はとても苦しかった。
なぜなら、母親を裏切ってしまったからだ。
監督やコーチなんてどうでもいい。
あんな奴らに何を言われようが、何をされようがどうでもいい。
でも母親が泣いている姿を見るのだけは嫌だった。
僕は京阪電車に乗りながらそのことばかりを考えていた。
何か母親を納得させる決断はないだろうか。
もう電車は何十回も往復している。
いい決断は結局見つからず、結局その日の夜に家に帰った。
案の定、母親の悲しい顔が飛び込んできた。
「ごめんなさい。」
野球部に戻るしかなかった。。
心の底から部活に戻るのは嫌だったが、自分のためではなく、母のために戻ると決めた。
だが不思議にもこの時、「暴力を受けたこと」を母親に言うことはできなかった。
多分、僕が傷つけられていることを知ってほしくなかったのだと思う。
そんなことを母が知ると、どんな思いをするだろうか。
僕はそのことを考えるだけでも心が痛んだ。
野球部に戻ったものの、もう監督やコーチから相手にされなくなっていた。
会話は挨拶しかしない。
目もほとんど合わせないし、監督やコーチの前では笑顔も見せなかった。
僕の野球へ対する情熱は、ほぼゼロになっていた。
「とりあえず卒業できればいい」と思っていたので、練習も本気でやらなかったし、そのせいでまたコーチにボコボコにされたり、大雨が降っている中、
一日中ドロドロの地面にヘッドスライディングをさせられることもあった。
でも僕は無の状態になっていたので、暴力を受けたり、嫌なことをさせられることになんの感情も湧いてこなかった。
むしろ仲間とその状況を楽しんでいたくらいだ。
そして先輩達は、夏の甲子園の予選に負けてしまい、
遂に僕たちが一番上になった。
新チームがスタートした。
暑い夏休みの中、練習に耐え、秋の京都大会(春の甲子園の予選)が始まった。
僕はメンバーには当然ながら入っていなかったが、
僕たちのチームはものすごく強かった。
予選が始まってから、ずっとコールド勝ち。
同い年と試合をしているのに、全く相手にならないくらいだった。
だがそんな時に、僕は事件を起こしてしまった。
その時にチームの中でエース的な存在だった仲間と室内で殴り合いの喧嘩をしてしまったのだ。
ガラスに突っ込んでしまい、窓ガラスが割れ、学校の先生達が一斉に僕たちのところへ集まってきた。
僕は、
「もう高校生活終わったな。」 と思った。
野球部のコーチが来たのを見つけたので、とりあえず正座をし、
怒られる準備をした。
どんな怒られ方をするのかなと思っていたが、コーチも少し動揺していたのか、
「監督さんが来るのを待て。」の一言だけだった。
先生達がガラスの破片を回収しているのを正座しながら眺めていたら、監督が僕の方へやってきた。
監督についてこいと言われ、ついていくと、そこは学校の接待室のようなところだった。
密室に監督と二人だけ。
「自分はどうなってしまうのかな」と思った。
だがその後に起こったことは、僕が予想していたこととは全く逆のことだった。
「お前、こんなことできる人間やったんやな。見直したわ。」
監督は僕に向かってそう言い、とても笑顔だった。
僕も、あまりにも予想とは違うことが起こっているので、笑いそうになったのだが、グッとこらえ、そのまま監督の方を見ていた。
「お前のことチビで弱い奴やと思ってたけど、そんなことなさそうやな。
もっと最初からそのキャラで野球もやってたら結果も変わってたんちゃうか。
これから校長先生が来て、処分を言われると思うけど、それはちゃんと受け止めて、また野球部に戻ってこい。期待して待ってるわ。」
初めて監督にこんなことを言われた。
監督を憎んでいたが、なぜだか少し嬉しかった。
僕に下された処分は、1ヶ月の部活動禁止と1週間の停学だった。
そしてこの部活動禁止の1ヶ月は学校周りの掃除。
1週間は自宅謹慎。
そしてこの時間は僕にとって自分と向き合うとてもいい時間になった。
掃除は一日中なので時間がたくさんある。
秋のちょうどいい気候だったので、
僕は毎日、学校の近くにある川に行った。
何よりも高校を卒業してからのプランを練ることができたことが本当に良かった。
部活動に戻ると、僕たちのチームは京都府大会準決勝まで勝ち進んでいた。
準決勝、僕はスタンドから応援していた。
勝利!!
決勝戦。
勝利! 優勝。
僕たちのチームは京都で一番になった。
そして僕たちは近畿大会に出場した。
この大会で一回でも勝てば、春の甲子園の出場が決まる。
小さな頃から行きたかった、甲子園。
小学生の時、中学生の時、学校で、「夢は何ですか?」と聞かれたら
必ず、「甲子園出場です!」と答えていた。
その甲子園まで、あとひとつだった。
近畿大会の出場チームを見ると、全国的にも名前の知られている名門高校ばかり。
一回戦の相手校が決まり、僕たちはトーナメント表を見て、
腰を抜かしそうになったが、仲間の一人がこんなことを言った。
「相手も同い年やろ?負けるわけないやん。」
その一言は一瞬で、僕たちの目を変えた。
「必ず勝つ。そして甲子園に出場する。」
隅々まで綺麗に整った芝生。
目の前にいるチーム、すれ違うチームのユニフォームはよくテレビで見ていたデザイン。
球場全体の雰囲気が、このレベルの高さを醸し出していた。
ウォーミングアップを終え、ベンチの前に並んだ。
「集合!!」
僕たちの挑戦は始まった。
続く。。
こばりょう。 https://linktr.ee/ryomakobayashi