「為せば成る。上杉の教えが受け継がれる地で」”ソロの細道”Vol.6「山形」~47都道府県一人旅エッセイ~
戦国時代きっての英雄である上杉謙信は、「義」を貫いた人だとずっと言われてきた。そしてその「義へのこだわり」がその後長年にわたって上杉家の財政を苦しめた、とも言われている。
上杉謙信の死後、養子だった二人が争った「御舘の乱」を経て上杉家の家督を相続した上杉景勝は、越後から会津、そして米沢へと所領を移し、江戸時代以降は米沢藩として、上杉家は幕末までずっと続くことになる。
そんな上杉家のお膝元である山形県米沢市は、古くからの城下町と日本三大和牛である米沢牛、そして鯉や林檎でも知られている。
米沢市を初めて訪れたのは、実は昨年のことだった。自粛と自粛の間のタイミングで仙台出張に関連付けての旅だった。
山形県自体には大学生時代に山形市出身の同級生の実家に泊まらせてもらい、雪の山寺の荘厳な風景に心を奪われ、また同級生の実家の広い庭で初めての”かまくら”作りをして、その中でワインを飲んだことを今でも覚えている。
その後はその同級生の結婚式で訪れたくらいでなかなか縁のない場所だったので、出張ついでにせっかくなら山形市ではなく他の場所に行きたいと思ったのが、米沢を訪れるきっかけだったのだ。
JR米沢駅から、米沢城址、現在の上杉神社までは約2.3km、歩いて30分ほどの距離にある。
米沢城は廃藩置県後の廃城令によって多くの建物が取り壊され、今では土塁や石垣などの遺構しか残っていないものの、訪れてみて感じたのは今でも米沢の人々にとって大切な場所なのだということ。
本丸跡に建てられた上杉神社には多くの人が集まり、二の丸跡の上杉記念館や、それらを含んだ「松が岬公園」として、憩いの場として親しまれていた。
やはり上杉家といえば「毘」と「龍」が単漢字としては有名。「毘」は上杉謙信が崇敬していた戦の神・毘沙門天から。そして龍は謙信が「越後の龍」と呼ばれていたことから。
上杉神社ではその字が今でもはためいていて、その横を多くの人が通っていることを考えると、米沢に根付いていると言えるのかもしれない。
日本の各地を旅していると、その土地ごとに偉人が居て、今でも崇拝されている姿を目にすることがある。それを何度も目の当たりにして気付いたのが、実は私の地元である沖縄にはそれが無い、ということだろうか。
私は首里に住んでいて、小学校も首里城の隣の学校に通っていたので、他の城下町と同じ条件のはずだけれど、首里城自体は誇りに思っていても、国王であった尚氏に対しての崇敬は正直あまり感じなかった。
これは「沖縄戦で首里の街が壊滅したので元々の住民が散り散りになったこと」と「一番の英雄であるはずの尚巴志(沖縄を統一し琉球王国を建国)が途中から疎んじられたこと(クーデターにより家臣に乗っ取られた)」にあると考えているのだけれど、正直羨ましさを感じてしまう。
ここ米沢においても、上杉家の英雄である上杉謙信、そして米沢藩の初代である上杉景勝にその右腕である直江兼続、米沢藩を立て直し名君と言われた上杉鷹山が居て、その偉人たちの銅像が建てられ、墓所は綺麗に整備され、また神社に祀られている。
何百年も続く繋がりの中で、自然と生まれた崇敬の念が、この土地にもあるのだろう。それがただただ羨ましい。
「米沢には上杉あり」。米沢藩が廃藩になってちょうど150年経った今でも、ふらっと訪れた旅人にもそう感じさせる空気が、米沢にはあるのだろう。
松が岬公園には、上杉鷹山公の銅像、天地人での上杉景勝・直江兼続の銅像、上杉謙信の銅像と共に、「伊達政宗生誕の地」の石碑もある。
そう、ここ米沢城は元々は伊達家の居城だったのだ。その歴史も面白い。
上杉神社のすぐ傍にある「伝国の杜」では、上杉家に伝わる美術品や刀剣と共に上杉家の歴史などを展示している。
その中の目玉は国宝・洛中洛外図。この旅のタイミングで公開されていたので、間近で名品を堪能できた。
公園の中には売店もいくつかあり、そこでは米沢牛コロッケが食べられる。揚げたてで提供してくれるので、アツアツで旨い。
まあ”〇〇牛コロッケ”はよくその場所場所で食べるけれど、正直そこまで違いを感じられない”バカ舌”ではあるのだけれど・・・。
米沢市内にはその他にも、綺麗に整備された上杉家の墓所があり、代々の米沢藩主たちが眠っている。
また上杉家に仕えた武将・前田慶次郎(前田慶次)の所縁の品を展示した宮坂考古館も、米沢駅から近くて戦国武将好きにはオススメ。前田慶次の他にも上杉謙信の甲冑もあり、見所は多い。
米沢の地酒「東光」を造る小嶋総本店が運営する酒造資料館では、酒造りの解説の他、”花の慶次”のオリジナルデザインの日本酒や、数々のコンテストで最高賞を受賞した梅酒(これが本当に旨い。絶品)も購入出来るので、米沢のお土産には最適だろう。
もちろん最後はやはり米沢牛。
駅の近くに米沢牛を提供する焼肉店がいくつかあるので、旅の最後に米沢牛の焼肉を堪能して、米沢での思い出に耽るのもいいのでは。
この写真は「お食事処 牛の恩返し 鷹山公」での焼肉。店名が憎いですね。
為せば成る 為さねば成らぬ 何事も
成らぬは人の 為さぬなりけり
この言葉を米沢での思い出と共にいつまでも忘れず、残りの人生を生きていきたい。
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