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人生の春を迎える方法
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去年十二月、お寺の掲示板近くにチューリップの球根を二〇個植えました。その時は「これから寒くなるのに、どうしてこんな時期に植えるのかな」と思っていたのですが、よくよく調べてみると「花を咲かせるためには二か月ほど寒さにさらす必要がある」とありました。じつは、厳しい寒さによって生長のスイッチが入り、そのおかげでチューリップは咲くのです。
二月になると次第に芽が出始め、月末にはほぼ出揃いました。これが全部咲くのかと思うと、例年になく春が待ち遠しい今日この頃。お寺の掲示板には毎月「5秒で仏教」を張り出していて、ご近所の方や道行く人が見てくださっていますが、きっとチューリップも一役買ってくれることでしょう。その美しさに人々の目がとまり思わず足をとめ、中にはスマホで写真を撮る方もあるかもしれません。
その魅力の背景にあるのが「厳しい寒さ」です。ここに着目したとき、私は自問自答せずにはいられませんでした。「これまで自分は困難な状況にどう向き合ってきただろうか」と。
いろいろ思い起こせば、グチをこぼして投げやりになったこともありましたし、誰かのせいにして逃れようとしたこともあります。その時は感情的になっていたり、勝手な理屈で自分を肯定したりして、その場を乗り切ったつもりでしたが今から思えばお恥ずかしい限りです。こんな向き合い方で成長のスイッチが入ることはありません。そんな私に魅力を感じる人はなかったことでしょう。
反対に、グッと辛抱して腐らずに努力したこともありました。たとえ周囲から誤解されたとしても、最終的には理解してもらえる。無駄になる努力はない、努力は必ず報われる。正直者がバカを見ることはない、最後に笑うのは正直者。どれも綺麗事のように聞こえるかもしれませんが、どれも実際に私が体験したことばかり。やはり困難な状況に正々堂々と向き合うことで成長のスイッチが入り、自分自身の魅力を高める要因となります。
そして、その魅力が良い縁を引き寄せて人生を豊かにします。いわゆるヒト・モノ・カネや情報・時間というのは欲しがるだけでは手に入りません。たとえ一旦手に入ったとしても、最終的には自分の魅力に応じた分しか残りません。逆を言えば、それだけの魅力があれば欲しがらなくても自然と集まってくるのです。ということは、人生の春を迎えるために自分の魅力を増やしていくことが最も重要であることに気づかされます。つまり、困難な状況に立たされた時こそ私たちの真価が問われているのです。
ただ、それは自己流で闇雲に努力するよりも、痩せ我慢のように辛抱するよりも、仏様流で的を射た努力、健全な辛抱がオススメです。そうすれば確実に一歩ずつ春に向かって前進することができます。そのことを日蓮聖人は「冬は必ず春となる」と表現されていて、仏教に基づく日々を送れば、たとえ今は冬のように困難な状況であったとしても必ず人生の春を迎えられると教えてくださっています。
そのことを私は多くの方々にお伝えしてきました。皆さんの悩み事は多種多様で、じつに複雑です。しかも、多くの方がすぐに人生の答えを知りたがります。しかし、返事はいつも同じです。「私には人生の答えはわかりません。でも、答えの出し方はわかります。ですから、あなたにとって最も相応しい答えが出るように一緒に頑張りましょう。ご信心なら必ず人生が最適化されますよ」
これを機に、仏教に基づく日々を送るようになった方は確実に変わります。変わらなかったことはありません。反対に、どんなに頭で理解していたとしても、生き方が変わらない人は相変わらずです。自分なりに努力、辛抱しているのですが、なかなか結果につながっていません。季節の春は待っていれば、そのうちやって来ます。しかし、人生の春は違います。きちんと春がやって来るような生き方に改めることが必要で、その指針となるのが仏教なのです。
悩み事を抱えているということは、それだけ困難な状況に向き合えている証拠です。大半の方がギリギリまで努力と辛抱をしています。ただ、なかなか春が訪れずに苦しんでいる方が多く見受けられます。仏教なら、お寺なら「必ず春となる」的を射た努力、健全な辛抱ができます。ぜひ、みんなで花咲く春を迎えましょう。