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メキシコシティにはかつて湖があったという

スペイン統治以前の話だ。ここには湖に浮かぶ都市があり、とても美しかったという。今は湖そのものが存在しない。メキシコシティは征服者たちがその街を壊して湖を埋め立てた盆地に建てられている。数百年前の過去に戻って壊される前の街並みを見てみたいが、現在に固定されている我々は見れるはずもない。私たちが訪れることができるのは現在のメキシコシティだけだ。ここで遺跡を訪れるのもいい。過去に遡り、ここに存在した文明や人々の生活を感じることができるからだ。

これまでは初めて訪れる国や街ではたいていそうやって過去から現在までの繋がりに想いを馳せるため歴史的な場所にいくことが多かった。博物館へ行き、ダウンタウンを歩く。その街がどのように今に至ったか知るとより楽しむことができると信じていたからだ。実際にそうだったと思う。

メキシコへ行こうと考えていたのは2019年ごろだった。今から5年前、なんとなく南米へ行ってみたくなり、手始めにメキシコを訪れるのは悪くないと思った。アメリカ合衆国のすぐ南にあり比較的治安も良い。スペイン語圏だけどまぁ、英語が通じるだろうとも思った。そのうち行こうと思っていたらコロナ禍で行けなくなり、旅を再開しようとした時真っ先に思い浮かんだのはこの国だった。2022年9月のことだ。同じ月に国内で、あるリトリートに参加して、メキシコより先にモロッコへいくことにした。理由はその時行ける世界の最果てだと思ったからだ。それまでにアフリカ大陸へは行ったことがなく、それが地中海側の国ならば初めてでもなんとかなりそうだったからだ。ローマ帝国が支配していた地域ならばなんとなく世界観が、基盤とする考え方が肌感覚で理解できると思った。モロッコがマグレブ、日が沈む国と呼ばれるのもなんだかいい感じがした。日本は日が昇る国と言われることが多く、陰陽の考えからしても真逆だし、日本から直行便がないのも、メキシコより最果てな印象を受けた。

そしてモロッコへ行った結果、フランス語を学ぶことになり、パリを含めたフランスへ行った。メキシコを含むスペイン語圏は少し遠くなったかもしれない。もちろんそれは心理的なもので、日本からは直行便もあるしメキシコへは行こうと思えば本当はいつでも行けるのだった。

今、メキシコシティのカフェにいる。朝からのんびりして風を感じて過ごしている。本当は美術館へ行きたかったのだけど前もって予約していないと行けないことを知りチョコレート屋さんへお土産を買いに行くことにしたのだった。この旅は半月ほど前に急遽旅行に行くことに決め、カナダとメキシコを旅することにした2週間の旅。メキシコを見て回るには3週間は必要だし、できればスペイン語ができた方がいい。季節もより快適な乾季がいい。予定を組む時に外務省の安全情報を見てみると以前より地方都市の治安が悪くなっている。メキシコ国内に3週間滞在するのは躊躇われたし二週間後には非常勤講師をしている大学の授業が始まる。大学の授業の初回はオリエンテーションだけど正当な理由なしに休みたくない。北海道で開催される物理学会に参加するとかいうまともな理由が必要な気がしていた。

今行かなければ年末まで旅行できない。そして年末は冬だから旅に出るのはなかなか心理的な障壁が大きい。正月は家族と過ごすのが暗黙の了解になっているから海外へは行きにくい。そして冬は寒い。日本で炬燵にはいってぬくぬくする方がずっと快適ではないか。などなどと考えていたら今すぐ出かけるのが最適な気がしてきた。

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