行動を誘うデザインパターン集その2
行動経済学や社会心理学、アフォーダンスなど人の行動を誘うようなデザインの事例をまとめました。今回は少し視野を広げて広告やPRなどのプロジェクト的な事例も含んでいます。前回の記事はこちらから
オフィスワーカーの運動不足を散歩で解決
THE LOST DOGS HOMEというメルボルンにある非営利団体が行なった「保護犬の里親探しキャンペーン」です。
犬を飼うと散歩が必要になりますが、この団体は「犬より実はオフィスワーカーのほうが散歩が必要なのではないか?」と考えます。
そこでオフィスワーカー向けに保護犬を公園で散歩させる(むしろワンちゃんと一緒に散歩させて頂く)企画をスタートさせます。
運動不足解消にもなるし、散歩すると保有効果(所有しているものの価値が高いと感じる傾向)が発生し愛着も湧きます。お昼を食べながらネットサーフィンするより公園でワンちゃんとお散歩したほうが気持ち良いだろうし、ペットを検討している人には保護犬という選択肢があることを伝えつつ、実際に飼育した時の疑似体験ができます。
ワンちゃんを散歩させているのではなくて、散歩のきっかけにワンちゃんを使うリフレーミングが見事です。
リフレーミングの象徴的なポスター。オーストラリア人が好きそうなシュールなジョークです。
"彼は小さい箱に1日9時間閉じ込められて、無視されています。散歩が必要です。"
タクシーのシートベルト率が向上した仕組み
シートベルトをするとWiFiが使えるようになるというブラジルのタクシー会社とFIAT社の取り組みです。
プロジェクトに関わった心理学者のAdriana氏は
人はコンフォートゾーンから抜けたがらない。なにか変化を起こすには罰か報酬がいるのです。
と語ります。
結果、乗車したお客さんはシートベルトを締め、WiFiを使ったようです。
AdGangさんでも紹介されていますが、目的の2重性(タクシー側はシートベルトをして欲しい、お客さんは車内で快適にネットを使いたい)がうまく機能しています。タクシー業界の皆さん、広告じゃなくてWiFiを搭載してください。車業界の皆さんは、自動運転になった暁にはシートベルトを閉めないとWiFiを使えないようにしてください。
コロナ時代に活躍するあえての紙チケット
石鹸機能付きバスチケットです。スリランカの病院Asiri Hospitalsが感染防止のために企画しました。
チケットに石鹸が塗り込まれている?ようで香りもいいし、
後で石鹸として使うことが出来ます。
できれば水へのアクセスが簡単ではない場合もあるので、手ピカジェル的なもので擦れば殺菌できる仕組みだとより良いでしょう。JRさんが今やったら好評になると思います(今後も)交通機関だけでなくまだ紙チケットが普及している遊園地や球場などでも応用できそうです。
行動を誘わずとも目的が達成されるなら、それが最高の行動デザインかもしれません。普段人が取っている行動を利用している事例がもう一つ。
バイク版キンチョーリキッド
バイクの排気を使って、蚊取り成分をバラまくというプロジェクトです。
大手広告代理店のBBDO Bangkokがチャリティー団体のDuang Prateep Foundationと企画しました。
この部品をバイクのマフラーに付けて走るだけです。内部に蚊取り成分を染み込ませたフィルターが入っており、排気ガスがそれを噴霧します。いつも通りバイクで走り回ることで広範囲に効率的に蚊を退治することが出来ます。
デザインもシンプルで素敵ですが、色をカスタマイズできたり、フィルターの交換が簡単だったりするとより良いでしょう。LINEと連携できるならどれくらい噴霧したか、走った距離、蚊が密集している地域などフィードバックを与えるともっと行動を誘えるかもしれません。
フードロスをポップアップで解決
ブラジル・サンパウロで活動するMakers SocietyのStreet Dishというプロジェクト。公共のゴミ箱の突起部分に食べられるけど捨てるのがもったいないものを掛けてねという表記のシールが貼ってあります。一般の人はそこに食べ物をかけるだけでOK。このシールのデザインは無料で配布されています(ポルトガル語のみ)
もちろん衛生上の問題などあると思いますが、余ってしまった食材をこれくらい簡単に寄付できるならやってみたいと思うかもしれません。
多くの人が行動を起こさない時、一つの可能性として単純に戸惑っているだけかもしれないと考えることが大切です。闇雲にやる気がないとか興味がないと決めつけてはいけません。
「明確な指示」と「容易さ」があれば行動を誘える可能性が上がります。
サークル、始めてみました!
UI・UX、マーケティング、行動経済学、心理学など分野をまたいでもっと勉強したい、学びたい人のためにサークルも始めました。
関連する海外記事のサマリーや事例の紹介と分析、「子供に手洗いを促すには?」など実践的なお題をメンバーで考えていこうと思います!
ヘッダー画像は石原さんからお借りしました。