カルチャーは1人の妄想から始まるvol.1
理由なんかない、それが最も”強い理由”だと思う。サーフィン始めたのは4年前。「太りたくないから」とはじめたのがキッカケ。
初めての日、ボードの上には立てなかった。ボードに寝そべったまま波に押され、海の上を走る感覚を味わっただけだった。
次の週も海に行った、初めて立てた。けどコーチによるとそれはスープ(波が潰れたあとの白いシャワシャワ部分)に乗っているだけで、「波」には乗っていないことになるらしい。
そこから数ヶ月はいわゆる「波」に乗ることができなかった。毎週海に行って、ひたすら漕ぐ練習。岸に戻され、体力がなくなって浜辺で体育座りしている自分がいた。
それでもあの波に押される感覚は、忘れられなかった。
半年も過ぎたある日、いつも海にいる上手い先輩に声をかけてもらった。もう4年も前で、名前も覚えていないし、あちらも覚えていないと思う。
夕暮れ時で海がヒラヒラと自由に光っていた。
「もっと前からパドル(漕ぐ動作)しなきゃ乗れないよ、オレがいいって言うまでパドルして」
乗れる波と乗れない波の判別ができず、闇雲に波に乗ろうとしていた自分を見かねて声をかけてくれたんだと思う。
「波来た、来た、早くパドルして!」
そう言われ必死でパドルをした。どれが自分の乗ろうとしている波なのかわからなかったが、とにかくパドルした。
でもそう長くパドルはできないのが当時の自分だった。
それでも先輩は「まだまだ〜〜〜!」と言っている。
腕がガチでちぎれるかと思ったけど、ここで諦めるわけにはいかないと思った。先輩の期待を裏切りたくなかったから。
次の瞬間、今までにないスピードでボードが走り出した。いつも荒れているように見えた海面は、美しいと感じられるほど整っていた。
「立って!」とあの声が聞こえた。もぞもぞしながらなんとかボード上に立つ自分。
棒立ちだったけど、はじめて波のスピードを感じた、言葉にはできない「あの感覚」を今でも鮮明に思い出せる。これが人生で初めて、波に乗れたときだった…。
そして感動的だったのは、その後のことだ。
ボードから降りて、先輩のいる方を見ると初めて波に乗れた自分をほかのサーファーたちが祝福してくれていた。
彼らの名前は知らないし、彼らも僕の名前は知らない、声も届かない、でも両腕を上げて、皆満面の笑みだった。
まるで自分がいい波に乗ったときのように。
その日、もう一度波に乗ろうとしたが、もう乗れなかった。体力も先輩のサポートなかったからだと思う。そんなに甘くないのがサーフィンだ。
続く。